7話
嫌な感覚を持ったまま、馬車は滞り無く進む。
高中位貴族の住む通りを進んで、いざ市街地へ。
「偉大なる太陽様ー!安寧のお月様ー!」
「王子様だ!!かっこいい!!」
「国王陛下ー!女王陛下ー!お会いできて光栄でーす!!」
市街地に入ってすぐ、この国、この市街地に住む国民が一斉に声を上げた。
馬車の通る道は開け、両側に人が多く立ち、こちらを見ている。
老若男女関係なく、お父様お母様を尊敬し、声をかける。これが、お父様お母様の影響力。
そんな彼らに向けて、小さく手を振る。少し後ろを向けば、兄さんは大きく手を上げて振っている。
「ヨムト。もう少し大きく手を振らないか。」
「は、はい…!」
「緊張すると難しいわよねぇ。」
「ヨム。気にしなくていいぞ。」
お父様に言われ、兄さんと同じように手を振るよう意識する。
お母様も兄さんもフォローするようなことを行ってくれているが、兄さんの場を奪った以上、手を振るだけでもそれらしくしなくては。
それより、もうすぐだ。
市街地にに入って半分。人が一番多いところ。
馬車の速度は一定で、緩むことはない。
座った当初に感じた嫌な予感は、緊張と合わさって強くなる。
過去の兄さんは、ここで確か立ち上がった。だから同じように立ち上がった。
立ち上がって
「えっ…ゴホッ」
「ヨムト…?」
立ち上がった瞬間、腹に殴られたような衝撃を感じ、遅れて口から血が吐き出される。それから遅れて痛みが。
隣で急に立った僕を見ていたお父様の困惑した声が聞こえた。
立ってられずに椅子に座り戻れば、お父様がご自身の方へ僕を傾けさせ、横寝の状態にさせる。
過去、兄さんはこのお披露目のこのタイミングで国民に大きく手を振り、ご自身を見せようと立ち上がった。
そして今の僕と同じように突然血を吐き倒れた。
血を吐いて倒れて、3日間目を覚まさなかったんだっけ。
僕も狙われる危険性があるからって、夜にあったパーティは参加せずに部屋に居た。
それに、実際に兄さんが倒れた原因に触れてわかった。
過去の兄さんは「魔弾」を受けて倒れたんだ。
魔弾は本来目に見える形で放たれる。でも、高度な魔法陣を描けるなら、弾道も弾すら消して指定した対象に魔弾を撃つ事ができる。
座ったときに感じた嫌な感じ、これは魔法陣か。
きっと僕が魔法を使うことができるから、過敏に感じたんだろう。
違和感はあったのに、魔弾が来るなんて予想できず防御できなかった。
「ヨムト!しっかりしなさい!」
「ヨム!」
「ヨムト!あぁ…そんな…!」
「急に王子様が…」
「怖い!何何!?」
「誰だ!王子様に攻撃したやつは!?」
お父様、兄さん、お母様の声が強く聞こえる。国民の不安がる声も。
馬車振動が強くなり、速度が早くなっているのがわかる。
お父様の足に頭を載せてもらっているが、白いズボンが血で汚れてしまう。
せっかく仕立ててもらったこの服にも血がついたはず。
とりあえず、お父様、お母様、兄さんに防御魔法をかけて、追撃されても大丈夫なようにして…ええと。
痛くてどうしたら良いかわからない。
兄さんも、こんなに痛かったのかもしれないと思ったら、今日くらいは、と思っていた復讐心が顔を出してくる。
どうせ、同じ奴らなんだろう。
「ヨム!ヨム…!」
兄さんが移動している馬車の座席を超えて僕の目の前に来る。
悲しい、顔をしている。手を握られる。あったかい。
今回の兄さんが、この思いをしなくてよかった。




