5話
お父様の声で、ドアが開く。
少し開いたところで人、兄さんが入ってきた。
「ヨム!先に着ていたのか。」
部屋に入ってすぐ、兄さんは僕を見つけて声をかけてくれた。
兄さんは、やはり赤と白を基調とした正装だった。髪の毛は、僕と同じように赤い髪束のある左側を上げている。
おかげで、兄さんの生き生きとした顔がよく見える。
それに今の髪型だといつもと違う髪型なので、いつも以上にかっこよく見える。
「まぁ、アテラも素晴らしいわね!」
「うむ。やはり同一の衣服にして正解だったな。」
「えぇ!母上も父上とも揃っていて嬉しく思います!」
そういえば、お母様もお父様も白を基調とした服装だ。
健康な状態でまた会えたことが嬉しく気づいていなかった。
この服装に、お母様にはティアラ、お父様には王冠が飾られるのだろう。
「そうだわ!二人に渡したいものがあるの。」
「そうだったな。」
会話もそこそこに、お母様は手を合わせて兄さんと僕に渡したいものがあると言った。
お父様がそれに賛同して、ソファを立った。
ドア横にある棚から箱を取り出して、またソファに座る。
お母様と見合って、お父様は箱を開けた。お母様が箱から1つとって、お父様も1つ取り箱を置く。
お母様は青色の楕円のブローチ。お父様は赤色の楕円のブローチ。
あれは、過去にももらった。ちょうどこの日。タイミングは全然違うけど。
過去は、お披露目直前に、お母様が箱を開けて自分たちで箱から取ったはず。
「ヨムトのは私がつけてあげましょうね。」
「アテラ、こっちに来なさい。」
お母様が動いて、僕のそばにしゃがんでくれた。
お父様は兄さんを呼んで、兄さんはお父様のそばに近づいた。
それぞれ、胸元にブローチをつけてくれた。
深い青色のツルツルとした宝石。金色の装飾。お母様、お父様が用意した、兄さんと僕へのプレゼント。
「似合ってるわヨムト。」
「ありがとうございます。」
「アテラも似合っているぞ。」
「もちろんです…ステキな…贈り物です。」
ブローチをつけた僕をみて嬉しそうなお母様に素直に感謝を伝える。
兄さんもお父様から褒められて嬉しそうな声が聞こえる。
そんな時に、ノックが4回聞こえた。
家族は全員いる。一体だれだ。
「誰だ。」
「グルヴェンです。国王陛下。」
「…何の用だ。」
「皆様にお会いしたいだけですよ。」
「…入れ。」
お父様が先に反応すれば、ドア向こうにいる相手が名を告げた。
グルヴェン・ジャキー伯爵。この国をお父様と共に支える大臣の1人かつ有力貴族の1つ。
過去、僕を見ていた目の1つでもある。
そうでなくても彼からは噂が絶えなかった。挙げ句、自分の娘を兄さんと結ばせようとして…。
お父様の声でドアが開き、彼は部屋に足を踏み入れる。
「この国の偉大なる太陽ハレイ・グフォン様、そして安寧の月メイア・グフォン様、その使者様へご挨拶申し上げます。」
「…あぁ。グルヴェン伯爵はパーティに参加するのか?」
「もちろんですとも。その際はぜひ、我が娘と…」
「暇があったらな。」
「…では、お姿も見れましたので、失礼いたします。」
彼は正式な挨拶をした。兄さんと僕をまとめたのは早く話をしたいからか、見くださいているからか。
対話はお父様がし、話を遮って終話させた。
互いに不機嫌な様相のまま、彼は部屋を出て行った。
「はぁ…ここは我々の部屋だと知って来るのか…。」
「困った人ですねぇ。」
「彼はこの国を支える1人でしょう?」
「あぁ、だが少々クセがあってな…まぁ、そのうち分かるだろう。」
お父様は頭に手を当てて呆れたようにして、お母様は困ったように頬に手を当てていた。
兄さんは彼を国を支える1人と認識しているようで、朝起きたときから、この国を創り、まとめようとする心持ちで居て、素晴らしい人だと再認識する。
お父様はそれに肯定はしたが、言葉を選んで兄さんに伝え、頭を撫でた。
「それじゃあ、今日の日程をお話しましょうか。」
「はい。ヨム、座ろう。」
「はい。」
「二人のお茶と軽食も用意させよう。食べてないだろう?」
お母様が声をかけたことで、雰囲気が切り替わった。
兄さんはそれに反応して、お父様とお母様の反対のソファに座ろうと手を引かれた。
素直に従ってソファに座るのと一緒に、お父様が兄さんと僕の分の飲み物やご飯を新たに用意してくれるようだった。




