2話
「…か。第二王子殿下。」
懐かしい。自分の部屋の香りがする。
体に触れる服も、投獄された時とは違うとても良いもので。
耳に届く声も、懐かしい。兄さんと僕をいつでも見てくれたレクソンの…
「…れく、そん…?」
「おはようございます。私に起こされるなんて珍しいですね。」
記憶にある顔を思い起こしながら目をあける。
名前を呼ばれたレクソンは、僕を見ながら記憶にある優しい顔で、僕を起こす。
オールバックの優しい茶髪。レクソン・ルーラン。
兄さんと僕の2人を1人で見てくれた筆頭執事。
懐かしい。事故で足を悪くして離れていってしまったんだっけ。
…そうじゃない。レクソンがいる。
それに気づいて体を勢いよく起こせば、自分の目にさっきまでより小さい手が見える。
レクソンがいるのにもかかわらずベッドから居りて、身だしなみを整える用の鏡前に立つ。
鏡より低い背。幼い顔。汚れておらず、首元まである綺麗な銀髪。
その隙間の右側からは、見えないよう毎日切っていた、青い髪の束が見えている。
戻った。戻ってる。
僕が死ぬ前、お父様を殺す前、兄さんが悲しむ前。
戻り過ぎだとは思うけど。
神様ありがとうございます。
「…レクソン。今日、何の日だっけ。」
「今日は第一王子殿下、第二王子殿下の正式お披露目の日ですよ。」
「お披露目…」
鏡越しに背後にいるレクソンに今日が何の日なのかを確認する。
レクソンが教えてくれたのは僕と兄さんが貴族、そして国民に自分の姿を正式に見せる日。
そして明日は兄さんの12歳の誕生日。
「準備をしましょう。第一王子殿下は起きられなかったので…」
「兄さんはなかなか起きないから。」
「第二王子殿下のように起きてくだされば良いのですがね。」
「フフッ。準備しようか。」
レクソンは僕を起こしに来る前に兄さんを起こしに行ったみたいで困った顔をしていた。
兄さんはこの頃から起きるのが苦手で、お母様や怖いメイド長が起こしに来てもなかなか起きなかった。
成長して改善はしたけど今度は寝起きが悪かったな。
レクソンは僕を褒めてくれる。けれど、僕はそんな兄さんと比べられるような人間ではない。
それよりお披露目の準備をしないと。
神様がお願いを叶えてくれたんだ。
家族を兄さんを唆し傷つけた奴らは絶対に許さない。
あの目の中で、兄さんにそれをした貴族共は1人残らず始末してやる。
「準備が終わったら兄さんを起こしに行こう。」
「お願いします。第二王子殿下しか第一王子殿下起こせません。」
「そんなことないよ。服は…兄さんは一番目立ってもらいたいから僕は控えめで、兄さんを目立たせるようにしよう。」
「お二人のお披露目ですよ。」
「僕がそうしたいんだ。」
「…かしこまりました。」




