28話
「なるほど…お茶をしたいと言って飲んでいただければいいのですね。」
「はい。くれぐれも、ヨムト様はお飲みにならないように…」
「もちろんです。」
殺し方は簡単だった。
僕の手のひらサイズの小瓶にある液体を、どうにかして飲んでもらうだけ。
過去、お父様を殺した時と全く同じだった。
なら、成分も同じ。正しく使えば薬になるが、誤った使い方をして毒物にしている。
グルヴェン伯爵本人から受け取り、ズボンのポケットへ入れる。
「いやはや、まさかヨムト様がこのようなことをなさるだなんて。」
「…兄さんが懇意にしている方と見受けられますし。その方から信頼をいただくのも必要でしょう?」
「…難しい言葉をご存知で。」
グルヴェン伯爵は僕がこんなことをすると意外そうだという顔をした。
兄さんが関わっていないのなら関わりたくもない相手だ。それに、消さなくてはいけない相手。
表面上でも気に入られたいだとか見せておくのが必要だろう。
グルヴェン伯爵の引きつったような顔を見て、子どもらしくない言葉を喋ってしまったと理解をするが些細だろう。
「ヨム…その…」
「兄さんは気にしないでください。ただ…」
「ただ?」
兄さんは「悪いことをしている」という自覚があるのだろう、申し訳なく悲しい顔から変わらない。
この場では気にしないで欲しい。ただやってほしいことはある。
それを兄さんだけに伝えるため、兄さんの耳元に顔を寄せる。
「何かあったら、今見た全てを伝えてください。」
「は…おい。」
「では、僕は準備をするので失礼しますね。兄さんは、剣技の訓練に送れないでくださいね。」
伝え終えた後兄さんは何かを言いかけたが、聞かずにその場を離れる。
向かうは自室。過去と同じことは起こさせない。
自室に入り、鍵を締める。開いていた窓やカーテンを閉めて部屋全体に魔法をかける。
どんな魔法だろうが魔法式だろうがなんだろうが使ったって、僕だけしか入れないよう。
探知魔法で同じようなものが無いかも確認して、無いのを確認している。
これで僕がやったという証拠を作ることは不可能になる。
ここまでできたら、後は僕が言いふらすだけだ。
部屋を出て、廊下を歩く何でも無いメイドに声をかける。
なんて幸運なんだ。丁度、噂話しが好きなメイドが目の前にいるだなんて。
「あ、あの!お母様はどこにいるか知っていますか?」
『王妃様なら自室にいらっしゃるかと思いますよ。』
「本当ですか!フフッじゃあ、お会いしなくちゃ。あぁ、その前に、お茶の用意もしないと…」
『嬉しそうですね。どうかなさったのですか?』
「実は!グルヴェン伯爵から特別な物を頂いたので、お母様にお分けしたいなぁと…思いまして…」
『そうなんですね!それはステキなお考えです。王妃様のお部屋にティーセットをお持ちしましょうか?』
「お願いします!ありがとう!」
彼女を皮切りに、お母様の部屋に行くまでにいろんな執事やメイド、王宮に来ていた大臣や騎士に「グルヴェン伯爵からもらったものをお母様に分ける」と声をかけた。
「グルヴェン伯爵からもらった物を母親に分け与えたい息子」
「国王のみならず王妃にも媚を売り、次期国王の座を狙う第二王子」
端からはそのどちらかとしか見えないだろう。
後者は勝手に思っておけば良い。広まってほしいのは前者だ。
それに、もしこの声によることが上手くいかなくても、保険はかけている。
ありとあらゆる準備をして、グルヴェン伯爵をちゃあんと消すんだ。
そうして、お母様の部屋の前に着く。
ノックを4回。しばらくして、ドアが開く。
「いらっしゃいヨムト!」
「お母様!」
「いつ来るのかしらって待っていたのよ。準備もできているわ。」
お母様が出迎えてくれて、抱きしめてくれた後に手を引かれて室内へ入る。
お母様の部屋で一番日当たりも景色も良い場所に全てが用意されていた。
席に座れば、メイドがティーカップへ温かな紅茶を注いでくれる。
甘い香りのアップルティーだ。
「それで、どんなものをお裾分けしてくれるのかしら?」
「ふふっ。これを…こうします!」
メイドが下がったところで、僕が言いふらしたお裾分けの内容を聞いてきたので、ポケットから小瓶を出して、中身を僕とお母様のどちらにも入れる。
無色透明。無臭。アップルティーなら味も無いだろう。
「まぁ!…大丈夫なの?」
「はい!グルヴェン伯爵は元気になるものとおっしゃっていたので。お母様もお疲れだと思ったので…嫌でしたか…?」
「そう…いいえ。そんなこと無いわ。」
突然入れられたそれにお母様は驚いた様子だったものの、僕の言葉を聞いて優しく笑顔を返してくれて頭を撫でてくれた。
これが最後の交流か。お父様とは昨日お話したし、兄さんとは起きたときと今日の朝お話した。
家族とは話した。大丈夫。
「じゃあいただきましょうか。」
「はい!」
お母様が頭を撫で終わって、お茶会を始めようとティーカップを持った。
僕も持って、中身を一口飲む。
それと同時に、ノックがして、ドアが開いた。
入ってきたのは、お父様と兄さんだった。
「二人で秘密のお茶会か?もしよければ家族でお茶会にしないか。」
「ヨム…ト。」
お父様も周りに回った噂でここまで来てくれたんだろう。そして、家族を1人にしないよう、兄さんも呼んだ。
全てを知ってる兄さんは、机の上に置かれたからの小瓶、僕がティーカップの中身を飲んでいるのを見ている。
そして、
「きゃあ!」
お母様の持っていたティーカップ薄く光った後に割れ、ドレスが汚れてしまった。
僕がかけた、防護魔法。悪意から守る魔法。それが発動してティーカップを割った。
当の僕は、中身を飲んで、ティーカップを割らないようゆっくりソーサーに置く。
魔弾をくらった時とは比べ物にならない痛みが全身を喉を襲う。喋れない。
痛い。痛い。
でも、お母様の部屋は汚したくない。お父様がお母様のために建てたとおっしゃってたこの部屋を。
倒れるように椅子から落ちて、立ち上がって開いている窓へ。
バルコニーの柵に一度ぶつかってから、下を見る。防御魔法を自分にかけて、怪我は少なくしないと。
誰かの声が聞こえるが気にせず、体を前に倒して落下する。
グルヴェン・ジャギー。この王宮に、この国にお前の居場所はもうないぞ。




