26話
ちゃんと魔法をかけておけばよかったと歩いて後悔する。もしくは誰かといっしょに。
歩くたびに顔をしかめて壁を支えに、どうにかお父様の執務室前に着いた。
いるかどうかはわからないが、ノックを4回。
「誰だ。」
「ヨムトです。」
お父様の声が聞こえ、名を告げた数秒後、大きな音がドアの向こうでした後にドアが開いた。
目の前にはやつれた顔のお父様がいた。
お父様は僕を見るなり抱き上げて、執務室へ招き入れた。
「お、お父様!」
「目を覚ましてくれて良かった。ヨムト。」
お父様は行儀悪く足でドアを閉めて、僕をソファに座らせてから真正面にしゃがんで、また抱きしめた。
兄さんと同じように力加減をしながら。
心配をかけてしまった。申し訳ないと思いながらその心配を暖かく受け止める。
しばらくして、お父様が離れたので本題に移る。
「お父様。ジャギー領に関して」
「そう焦るな。ちゃんと話す。」
離れてすぐ、ジャギー領に関して。
自分が見てきたものについてどうなったかを聞いた。
笑いながら落ち着くように、と行ったお父様は、メイドを呼んで何かを伝えた後、メイドが居なくなってから、隣に座って事を話してくれた。
まず、ジャギー領への支援。これはもちろん無しになった。
僕の代わりにデコロ卿が報告をしてくれたようで、それらの情報や他のことも含め無しになったそうだ。
次に、グスト・ジャギーに関して。
彼に関しては、彼のみ、平民となり、辺境の地へ送られることになった。
本来であれば「ジャギー家」として制裁を与えるべきであったが、一家の主であるグルヴェン・ジャギーが無関係を主張し、「全て彼一人がやったこと」といわば家族を切り捨てたのだ。
「父親として息子を助けたい」だなんて言っておきながら切り捨てるなんて。
兄さんを唆したことと合わせると余計に怒りが湧いた。
「それと、ジャギー領には追加で調査を行うと人を送った。それと、他の領へも。」
「え、人は…」
「お前が視察に行く姿勢を見せた途端、ぱったり止んでな。怪しいと思い行かせている。だから人も足りている。心配するな。」
ジャギー領の話のついでというように、お父様は今行っていることをも話してくれた。
それは、人手が足りずにできないでいたこと。
しかし、僕が行動をしたことでできるようになったと聞いて、誇らしくもあった。
同時に、申し訳なくも。
そこまで話したところでメイドがやってきて、ティーポットにお菓子を盛ってきてくれた。
お父様は、それらをご自身でやると言い、メイドを下がらせた。
「入れれるのですか?」
「まぁ、見てなさい。」
失礼とは思いながらも質問してしまったが、お父様は快く答えてくれた。
ティーカップに注がれたのは紅茶、ではなく茶色のの液体。ココアであった。
ティーカップにココアだなんて不釣り合いだと思いながら、温かなココアを一口飲む。
「ところでヨムト。お前に質問がある。」
「はい。何でしょうか。」
ご自身のも用意されたお父様は、再度隣りに座って僕に質問があると聞いた。
ティーカップを起き、体を少しだけお父様の方へ向ける。
一体なんだろう。
「お前は、王になりたいのか。」
「………は、い?」
「アテラではなく、自分自身が、王になりたいのか、と聞いている。どうなんだ。」
突拍子もない質問に、理解するまでに数秒かかった。
しかし、ふざけて聞いているわけではないようで、同じ色の目が真剣にこちらを見ていた。
思えば、視察をしたいだのお父様の隣に座りたいだの。端から見れば「国王の座を狙っているのではないか」と見えても仕方が無かったのかもしれない。
でも、そんな気は一切無い。
全ては、兄さんを守るためと、過去から引き継いだほんの少しの興味だ。
それが、大きなことへ発展してしまった、それを考えきれなかったのは、王としての資格が無いからであろう。
「そんなこと、全くもってございません。僕は、兄さんの為に、兄さんを支える為に存在しています。王になるべきは兄さんです。それはお父様もわかっておいででしょう?」
「全くお前の思想は…わかった。お前が、王になる気は無いことは。」
「どうして、そのようなことを?」
お父様に自身の気持ちと考えを率直に伝えれば、何故か呆れながらも了承してくれた。
しかし、何故そんなことを聞いてきたのだろうか。
「お前がいない三日間、それと気絶していた二日で、王宮内でお前が王の座を狙っているのではないかと噂が出回っていてな。」
「…出どころは?」
「さぁ。よく吹聴しているのは、グルヴェンだな。」
自分がいなかった計5日の間にそんなことが起きていたなんて。
そんな噂話を耳にしていたから、兄さんも不安になってしまったのだろう。
その根本になりえる相手は、やはりグルヴェン伯爵。
「何故、そんなことを伯爵はされるのでしょうか…」
「お前がいない間、グルヴェンはアテラとよく話をしていたと聞く。アテラが王になった後に、何かしようと企ててもいるんだろう。」
「何か…」
グルヴェン伯爵がそういったことをする理由。兄さんと直近でよく関わりを持つ理由。
今後を見据えた行動。王を操るための。
もし、そうだとすれば。生かしておくことはあまりにも不都合だ。
一家丸ごと消してしまいたいくらいだ。
それはさすがに難しいだろうから、伯爵だけ、この王宮から消さなければ。
手っ取り早く。わかりやすい形で。
「…あ。」
「どうした。」
「いえ。お父様、色々お話くださりありがとうございます。僕は、そろそろ戻ってまた回復に努めます。」
思いついてしまった。伯爵をこの王宮から消す方法を。
そのためには、兄さんづてて伯爵に会う必要がある。
眠っている兄さんを起こすことはできない。日を改めてから実行しよう。
そう考えて、部屋に戻る言い訳をお父様へ伝える。
お父様は優しいお顔で頭を撫でてくださった。
「あぁ、わかった。人をよこそう。」
「いえ、一人で戻れます。お気になさらずに…では。」
そして戻るための人を呼ぼうとしてくれていたのを止めて、一礼をして部屋を出る。
来た時と同様に、歩きづらさを持ったまま部屋に行き、入るなりベッドへ倒れ込む。
「彼がしたことにすれば良い。過去と同じように。」
頭でやりたいことを考える。伯爵を王宮から消す方法。
過去の僕と同じように。消せる方法を。




