21話
「それで、ここは父が殿下のような来賓にお見せするように常に手入れをしているのですよ。」
「そうなのですね。どおりでステキな薔薇が咲いていらっしゃる…中心は茶会をする場所ですか?」
「えぇ。以前は母上が知り合いを呼んであそこでお茶会をしていたんですよ。今は王都に行ってしまわれてますが、たまに戻ってきては家族で、ね。」
「素晴らしいことじゃないですか。」
最初は屋敷内を案内してもらった。
エントランスに食堂、工芸品や絵画、宝石を飾る展示室。
これらを売却したらお父様に要求した以上の金額を復興に回すことができるだろうに。
そして今は庭園を案内してもらっている。
背の低い苗木の先には美しく割いている赤い薔薇。まるで兄さんのあの赤い髪束みたいだ。
庭も随分手入れが行き届いていて、雨が降ったにもかかわらず、水たまりは一つもない。
「…ここは水害の被害は少ないのですね。」
「そんなことございませんよ!これでも殿下が訪れる、ということで走力を上げて手入れをさせていただいたのですよ。」
「そんなことなさらなくても。」
「国王陛下に仕えるジャギー家の一人として、精一杯ご用意させていただいたのですが…お気に召さなかったでしょうか?」
庭園を歩き、屋敷へ戻る寸前。
こちらから水害について話しかければ、彼は大げさなジェスチャーで大変であったことを伝えた。
まるで僕が来たせいで復興のための資金が用意できなかったと言っているようにも聞こえる。
あげく、下手に出るような声色を出すものだから貼り付けている笑顔が引くつきそうになった。
「そんなこと、ございませんよ。ありがとうございます。」
「あぁよかった!そう言っていただけて安心いたしました。」
屋敷に戻れば、エントランスにデコロ卿が騎士服を身に着け立っていた。
どうやら探し物が終わった、もしくは時間切れになったらしい。
「第二王子殿下。お耳に入れたい情報がございまして。」
「わかりました。グスト卿、案内ありがとうございました。僕は自室に戻ります。」
「かしこまりました…昼食は」
「ご配慮はありがたいのですが、昨日お伝えしたように必要ありません。」
「わかりました。では、私は失礼して…」
かしこまった形でデコロ卿に声をかけられ、彼には部屋に戻ると告げる。
昼食についても聞かれたが、昨日同様に断れば、あっさり引き下がって先に行ってしまった。
「…部屋に行きましょうか。」
「えぇ。まったく。とんでもないことさせてくれましたね。」
デコロ卿の控えめな文句を聞きながら自室に戻れば、デコロ卿は部屋の鍵を閉め、部屋の四方を見回した。
盗み聞きや盗み見を警戒しているのだろう。防音と視界不良の魔法を部屋全体にかける。
「大丈夫です。僕ら二人だけしか会話は聞こえません。」
「…ヨムト様には驚かされますよ。それで、探していたのが…こちらです。」
デコロ卿になんとなく大丈夫であることを伝えれば、あきられつつ、隠し持っていた本を2冊机の上に置く。
全く同じ素材で作られた本。でも、中身は?
開けば一目瞭然だった。
「こっちは嘘、こっちは本当ですね。」
「いつ帳簿の見方を習ったんですか?俺はさっぱりですが。」
「はは…ともかく。こうやってちゃんと本当のことを書き記してくれている人がいるみたいですね。」
嘘の帳簿には、まともな項目が並んでいるにしろ、この領に必要と思えないほどの量で請求しているとの記録が。
本当の帳簿には、実際何に使用したのかの記録が。
筆跡を見るに同じ人物が書いているようで、わざわざ両方の記録を残していることから、自身が行っていることは良くないことと理解しているのだろう。
「あー…それも見つけましたよ。」
「誰ですか?」
「ここの執事です。まぁ…執務室を出る時に見つかりまして。これも持っていたんですが、何も言わずに何処かに行ったので…まぁ、まともな方何じゃないですかね。」
デコロ卿がその人物も見つけたと言うので尋ねれば、帳簿を書くに値する人物だった。
それに、見つけたのが魔法が切れたタイミングだなんて。それでも、現時点で彼から何か来ているわけでもない。
となると、その執事は多少なりとも信用して良いのだろう。
「とりあえず、支援が必要ない証拠と悪いことの証拠が見つかりましたね。」
「えぇ。どうされますか?早めに帰ることも可能ですよ。」
「…そうですね。そうしましょう。滞在する必要はありませんから。」
証拠が揃った今、この領に用はない。
明日の朝、この屋敷を出ることを決めた。
体調不良のため12/6分は9時更新ではなくその日中の投稿となります。申し訳ございません。




