18話
翌朝。
食事後、王族らしく無くそのまま寝てしまったはずなのに身支度が整えられてベッドで寝ていた。
ボタンの掛け違いが酷いのを見るにデコロ卿か誰かがやってくれたのだろう。
ありがたくは思いつつ、今日街に出る用に動きやすく貴族とは見づらい外出着に着替えれば、起床を教えにきたメイドが、朝食の用意ができたとも教えてくれた。
丁度着替えが終わったのでそのままついていくことにした。
「おはようございます。第二王子殿下。」
「おはよう、ございます。」
相変わらず、テーブルに並ぶ料理は豪華だ。
それに何も言わずに食事を取り、最低限の会話をして部屋に戻る。
戻って街に行く用の荷物を用意していれば、ノックが4回。すぐにドアが開き人が入ってくる。
「デコロ卿。」
「ヨムト様でも流石にと思いましたが持ってきてらしたんですね。平民服。」
「それっぽく見せれるようにな物ですが。デコロ卿もどうして…」
「片方がきっちりとした格好だとおかしいでしょう?だからですよ。他のものは遠巻きで見てもらいます。」
入ってきたのはデコロ卿で、格好が騎士の格好ではなく非常に動きやすい平民用の服だった。
僕も同じ用な平民に見られるような格好はしている。貴族、ましてや王族とわかったら会話をしてくれない可能性もある。
だからあえてこういう格好をしている。
デコロ卿もそれに合わせる用にしたらしく、傍目から見れば僕らは街に来た子どもと親戚のおじさんくらいだろう。
「よし、じゃあ行きますか。」
「はい。行きましょうか。」
準備ができたのを見たデコロ卿の言葉で、特に何も伝えずに屋敷を出る。
屋敷から街までは歩いていける距離なので気にせずに向かう。
領にやってきた当初は人が居なかった街だったが、明るい朝の今は工芸品や食べ物を売っている店が立ち並んで居て、人も多い。
全体的に、暗い顔をしている様子は見えない。品揃えも悪くない。
並んでいる果物や野菜で傷んでいるものも無いように見える。
「街はなんともなさそうですね。」
「えぇ。食えるもの、飲めるものもありますし。全然…被害はなさそうですけど。」
「川のある方へ行きましょう。」
「はい。こっちですよ。」
側にいるデコロ卿にこっそり話しつつ、今度は川側へ行きたいと伝える。
デコロ卿は手を引いてそこまで案内してくれた。
実際に見ても、全く問題がない。
雨がやんで地面が乾いている部分はあるが、川が叛乱して川周りがぐちゃぐちゃになっていると言うようなことは無い。
『あら、こんなところにどうしたの?』
「ぁ、おばあさん。」
「…いや~最近雨が降ったからさぁ、知り合い無事か~って見に来たんだよ。」
川に落ちないよう建てられた柵に少し持たれながら川を見ていたら、白髪の多いおばあさんに声をかけられた。
すると、デコロ卿は適当な話を作って、おばあさんとの会話を試みていた。
デコロ卿を見れば、得意げに硬めをつぶったので話を聞くことに協力してくれているみたいだ。
『あぁそうだったの。でも心配ないわよ。』
「そうなんですか?」
『うん。だってこの街は王都と同じ設備、対策を取っているんだからそうそう自然災害の被害には会わないよ。』
「でも、知り合いからは水害やばいから助けてくれ~!って聞いたんだけどなぁ…」
『その知り合いさんも大雨でびっくりしたんじゃないかい?それより…怖い話があってね。』
「怖い話ぃ?」
デコロ卿の切り出し方から、おばあさんは大雨の被害に関しておばあさん目線での話をしてくれた。
デコロ卿が深堀りしようとしたが、笑ってあしらわれてしまった。
が、続けて深刻そうな顔をして別の話をしようとしていたので、デコロ卿がまたそれを促した。
その時、僕の方を一瞬見たような気がする。
『最近ね…子ども達が居なくなるんだよ。突然。』
「居なくなる…?」
『そう。遊びに行って帰ってこない子がたくさんいるんだ。夕方になっても夜になっても帰ってこない。』
「それは、怖いですね。」
『そう。だから、アンタみたいな子ども、一人で出歩くんじゃないよ?』
「…はい。気をつけますね。」
おばあさんが話すのは、全く知らないことだった。
人が、子どもが攫われているのであればすぐにお父様の耳に入るはずなのに。
だから子どもである僕を心配してくれているんだろう。
これは、視察にきたのとは別でとんでもない情報を拾ってしまった。
おばあさんは話し終わると家に戻っていってしまった。
「とんでもない、話でしたね。」
「えぇ。誘拐事件、ですか…支援依頼の状況視察よりとんでもない…」
「それとは別でこれは国王陛下に報告ですね。」
「もちろんです。…他にも話を聞きましょうか。」
デコロ卿の言うようにとんでもない話を聞いてしまった。
だが、それだけに固執してしまうのも良くない。
今度はまた店のある通りに戻り、先程デコロ卿が言ったような話や物を買うついでに大雨の被害について聞いてみる。
聞けば、大雨の被害はそこまでであった。
浸水もしていないし、雨のせいで大きな被害を受けたという声も聞こえない。
聞くのは、おばあさんが話していた誘拐事件の事。
街の誰もがそれを心配して、夕方近くになる頃には子どもは外に出さないし、店も早めに閉めているらしい。
だから領にきた当初は人が少なかったのか。
そういった話をしていれば、だんだんと人が減っているのを感じた。
気づけばオレンジ色が滲む空になりかけていた。
「帰りましょうか。」
「はい。帰って…話をまとめましょう。」
「お話相手くらいにはなりますよ。」
「お願いします。」
街の人に倣い、僕らも早めに屋敷に戻ることにした。
戻ってすぐ、聞いたことをまとめなければ。
17話が短く感じたため更新しております。




