12話
ジメジメとした空気感。窓の外は曇天の空模様。
これが数日前まではバケツを引っくり返した大雨が降っていた。
過去はこれに暴風もあったはずだが、戻ったことで過去の状況が変わっているんだろうか。
それに、廊下を歩けば、オキシーやレクソンが忙しそうに動き回って、お父様もお母様も業務に追われていた。
お父様は特に。各領からの支援依頼といつも戦っているようだ。
兄さんは、室内訓練場で変わらずに剣術に励んでいていたり、程々に勉強をしたりしていている。
雨が明けた時期の今。過去は今以上に忙しくて、勉学の時間だって取ることができないほどだったはず。
それと、お父様がやってる支援依頼。
この大雨で被害をうけた各領の依頼を受けて、その領の被害状況を鑑みて支援量を決めているが、その量が膨大でほぼ言われた分支援している状態だった。
それは今も変わらず。天気で頭を痛そうにしながら各領からの依頼を見ている。
「…グルヴェン・ジャギー伯爵だ。」
自主学習をしていた資料室から戻る最中。剣術の訓練から戻るところの兄さんと話すグルヴェン・ジャギー伯爵を見かけた。
そういえば、過去、政務に関わるようになり各領のお金の流れを見ていたら、ジャギー領からだされた金額は低かった。
にもかかわらず、伯爵家の羽振りは良かった記憶がある。
おかしさに気づいて調べていた最中であんな事になったから…戻った今、調べるチャンスだろう。
というか、兄さんに近づいているのは意図があってか?もしやお前が兄さんを唆した相手か?
そう決めつけるのにはまだ早いが、要注意人物として見ておくべきだろう。
そう思いながら見ていたら、兄さんが僕に気づいて手を振ってくれた。
気付いてもらえたので側に駆け寄る。
グルヴェン伯爵を見れば、ニコニコとした表情をしたままだ。
「これはこれは。第二王子殿下。」
「こんにちは。伯爵。お父様に御用が?」
「そうらしい。長男に管理させているところが大変らしい。」
「えぇ本当に。父親としても支援をしているのですが、厳しいと手紙をもらいましたので、国王陛下にお願いしにまいった次第です。」
まともな挨拶もせずに声をかけられたが、気にしていない素振りで挨拶をする。
そして、ここに来た要件を尋ねれば、兄さんがすでに話を聞いていたようで、答えてくれた。
それに追随するように、グルヴェン伯爵は説明をした。
父親として。そこは領主としてじゃないのだろうか。
それに、グルヴェン伯爵の現在の羽振りから考えても国の支援が必要ではないと思えるが。
「そうなんですね…確か、伯爵の領は王都に近いところですよね。鉱石の工芸品が有名ですよね。」
「え、えぇ。」
「歴史書に記載の内容の知識で申し訳ないですが、これまでジャギー領が災害による被害を受けたというのは聞いたことが無いですが…」
「こ、この度の被害は甚大でしたので…」
ジャギー領は王都に近い。それ故、王都との交易ができ、工芸品を作っては流通させている。
その工芸品を作る材料の仕入れに困っているのか、と言われればそれは材料を作るところに支援をしたほうが良いし、ジャギー領は水害や山崩れといった被害を受けたということを聞いたことははない。
それを指摘すれば言葉をつまらせた。
「なんだ?伯爵の言う事を疑ってるのか?」
「いえ、気になるだけです。」
兄さんは伯爵の話を純粋に信じているようで、僕を訝しんでいる。
過去を知らないからそう言えるんだろう。
でも、気になるのは本当。調べられずに終わったから気になっている。
「…そうだ。グルヴェン伯爵。ついて行ってもいいですか?お父様のところに。」
「はい?」
「お願いします。」
お願いしてみよう。お父様に。ジャギー領へ調査に行かせてもらえないか。




