8話
『兄さん大丈夫かな…』
今日は兄さんと僕のお披露目。市街地に出たところで兄さんが突然血を吐いて倒れてしまった。
それで、夜のパーティに参加できなくなって、自分の部屋にこもっている。今後、兄さんのためになるような人脈を作ろうと思ってたのに…
いや、それより兄さんが早く目覚めてほしいな…一体、どんなやつが兄さんを狙ったんだ。
『僕が代わってあげれればな…もしくは治してあげれたら。』
魔法を使える僕でも、人の怪我は治せない。治せるの回復魔法に特化している治癒師だけ。
その治癒師も、希少価値が高いことから存在を秘匿されている。
見つけ方は緑の髪束を持っているかどうかを確認すること。
そんな人が居てくれたら。兄さんは今にも目を覚ますだろうに。
そんな過去の記憶を思い出して、目を覚ます。服が体に張り付いて気持ち悪い。
ここは…自分の部屋のベッドだ。外は、暗い。夜だ。
「起きられましたか。第二王子殿下。」
窓とは反対側から声がした。そっちを向けば、見知らぬ、格好からするに貴族の女の子がいた。
燃えるような真っ赤な瞳。金のふわりとしたロングヘア。その髪の毛の中から引き出されるように、緑色の髪束が目に入る。
「正式な挨拶無く失礼いたします。私はルキデリル国の第一王女フェノール・ロキサンと申します。」
そう言って、彼女は簡易的に挨拶をした。
ルキデリル国。我がリシュー国の隣国に位置する森林に囲まれた国。
パーティの来賓として呼んでいたんだろう。
そんな彼女がここにいる理由。それは見せつけるように晒している緑の髪束と自分の身に起こした事柄から予想ができる。
「…フェノール王女殿下は、治癒師なのですね。」
「はい。こちらに到着した際、第二王子殿下が倒れられたと知らせを聞き、自身の力が役に立つであろうと思い、差し出がましく治癒をさせていただきました。」
「いえ。むしろ、良いのですか?隠されていたのでしょう?」
彼女はとても丁寧に自身が何故ここにいるかを説明した。
それは怪我を負っている僕にとってはありがたいことだ。だが、彼女は良いのだろうか。
髪の毛の量や緑の髪束の見せ方やその存在から、治癒師であることは隠していただろう。
なのに、別国の人間に治癒師であることを明かすなんて。
もし僕が、自身や自国に不利益を与えるような行動を取る人間だったら、などを考えなかったわけではないだろうに。
「……第二王子殿下を救うことができるのであれば構いません。それに、目を覚まされた際で、すぐ自身を証明できる術はこれしかありませんので。」
僕の質問に彼女は少し目を開いて、時間を置いて回答した。
確かに、見知らぬ人がいて言葉だけで身分を証明するのは困難だ。
僕を助けたいという思いもありがたいものではあるが。
…ルキデリル国は、周りの森林のせいで他の国との交易がしづらい国だ。
これを貸しとして、我が国を介して優位な交易をしようと考えているかもしれない。
彼女がそこまで考えている、いないにかかわらず「隣国の第二王子の命を救った」という事実は、我が国との交渉をする場合に優位に進めるだろう。
「それと、我がルキデリル国はこれを理由としてリシュー国に何かを求めることは一切いたしません。」
「…はい?」
「ルキデリル国の第一王女として、リシュー国第二王子殿下の前で誓わせていただきます。」
思考していたことを見透かしたかのような彼女の話に外的に出さないような声を漏らす。
国として何も望まない。こんな最高の交渉材料を放棄するなんて。
「それは」
どういう意図なのかを聞こうとした瞬間、ドアが4回ノックされた。
彼女はすぐにドアの方を向いた。そしてわかりやすく、まるで威嚇のように魔力を溢れさせた。
「ルキデリル国の王女。入ってもいいか。」
「…ふぅ、構いません。」
4回ノックから一拍おいて兄さんの声が聞こえた。
声を聞いた彼女は、魔力を溢れさせるのをやめて、兄さんに声をかけた。




