1話
「実の父親でしょう?殺したの。」
「酷いことするなぁ。」
「俺達の王様を返せ!」
曇天の都心。中央広場。
急造の処刑台は、僕と執行人の騎士の2人が乗るだけで嫌な音を立てる。
僕は、兄さん。アテラ兄さんのお願いで、実の父親である国王を殺した。
大切な家族を、この国の王を殺した。僕はここにいるべき人間だ。
でも、兄さんのお願いがあったから。お父様の次に王になる為に必要だって、泣きながら言ったから。
僕はそれに承諾して、兄さんから殺すための毒薬をもらった。
実際に行動した時は辛くて苦しくて、お父様の顔も見れなくて。
終わってから、情けないくらいに兄さんの前で泣いた。
そんな僕に、兄さんは「守ってやる」と言ってくれた。僕と同じくらい泣きながら。
なのに、そんな兄さんが。
「…国王アテラ・グフォン様の命により、罪人ヨムトの刑を執行する。」
「やれー!!やっちまえ!」
「まさかそうなるとは…」
「兄さんの命令」で僕は殺される。守ってくれるはずだった兄さんの言葉で。
僕が国王殺害の容疑で投獄されてから数日後。兄さんも倒れたと聞かされた。
それも、「僕が用意した薬を飲んだことで」倒れたらしい。
そんなのおかしいだろう。僕は投獄されて何もできない。なのに僕が兄さんにどうにかできるなんてありえない話だ。
それでも兄さんは「僕がやった」と伝えて、僕は旧国王の殺害と現国王の殺害未遂で殺される。
僕が殺される今日になっても。兄さんは目を覚まさない。
死んでいるわけじゃない。目を覚まさないだけ。
兄さんと話ができなかった。何がどうなってこうなったのか聞きたかった。
そうでなくても。僕が酷いことをしたのは事実だから。
最後に話がしたかった。声が聞きたかった。
首に冷たい感触が当たる。皮膚が切れた痛みが走る。
頭は下げたまま、伸びた白い髪の毛の隙間から、お父様と同じ琥珀色の目を、人がいる方へ向ける。
国民の視線の中、奥の方で貴族の一部がこっちを見ている。
その中でも、濁った視線を送っているのが数名いる。
…よく考えろ。あるわけ無いだろ。兄さんが、僕に家族を殺させるなんてこと。
兄さんは我儘なところは確かにあるけど、僕含め家族のことを大切に思っていたはず。
そんな兄さんが、お父様を殺せなんて言わないはずだ。
泣きながら、殺せなんて言わない。
人の話も聞かず、刑を執行するような人じゃない。
じゃあ、何で僕にお願いをした?刑を執行した?
あの視線の中に、兄さんを唆した誰かがいる?
「兄さんの言葉」だと嘘をついてこの刑を執行させた?
もし、そうなら。もしそうなら、許さない。許せるわけがないだろう。
兄さんに家族を殺すよう唆して、兄さんに化けて言葉を使って。
あの中だな。あの中にいるんだな。
どうにかして、どうにかして、復讐する。
王族を、兄さんを操ろうなんて。
神様。僕と兄さんを守ってくれている神様。
もしもう一度、人生をやり直す事ができるなら。
どうか、どうか
「彼らに復讐を。」




