第八話
俺が訓練時のトラブルで四苦八苦している頃−−
宇城、阿賀白、桃瀬の三人は別の海域にて探査任務に当たっていた。
探査対象、湾港にて
「まったく…なんだって、こんな遠い所まで来なきゃいけねぇんだ」
パイプ椅子に腰掛け、待機中の阿賀白がブツブツと文句を漏らす。
「愚痴を言わないで下さい。任務は任務です」
隣で宇城が淡々と返す。
「ハァ…田舎だから漢の洗濯場は無いしよ…」
「そういう問題ですか?実にくだらないですね」宇城は小さくため息をつく。するとタブレットを手に桃瀬が駆け寄ってくる。
「皆さん!準備出来ました!まずは宇城さんから搭乗お願いします!」
宇城は無言で立ち上がり、機体へ向かう。
「了解しました、すぐに始めます」
背筋を伸ばしたまま歩いていく姿を見送り、阿賀白がボソリと呟いた。
「真面目だねぇ…疲れたりしねぇのかね、アレ」
桃瀬は肩をすくめつつ、タブレットを操作する。
「宇城さんが終わったら、阿賀白さんに交代ですんで準備しといて下さいね」
「はいはい、分かってるって」
「あと、さっきの会話聞こえちゃったんですけど…漢の洗濯場ってなんです?」
純粋な桃瀬が首を傾げ、阿賀白の方を見つめる。
「…漢の秘密」
桃瀬は一瞬ポカンとした顔をしたが、すぐにタブレットに視線を戻した。
「ま、いいや。じゃ、阿賀白さんも心の準備を」
「心の準備かぁ…まぁ問題なくやるさ」
阿賀白は椅子から立ち上がり、伸びをしながら2号機に目を向けた。
その頃、宇城の3号機は静かに海中へと沈み込み、深い青の闇へと消えていった。
タブレットで桃瀬がソナーの状況を確認する。
『特に異常なし、データ収集装置の打ち込み開始します』
淡々と報告する宇城。3号機で海底へデータ収集装置を打ち込んでゆく。
「なぁ、桃瀬ちゃん」
準備を終え、暇を持て余した阿賀白が桃瀬に声をかける。
「この仕事始めて、半年たつけど…俺たちが探してる海洋エネルギーって何?」
桃瀬は少しタブレットを見つめ、言葉を選びながら答えた。
「スゴイ簡単に言うと、なんか海にあるといわれてるエネルギーです」
「なんじゃそら」
桃瀬は顔をしかめ、続けた。
「海洋エネルギーは良く分かってない部分が多いんですよ。だから海底にあるといわれてるエネルギーとしか言えないんです!」
阿賀白は腕を組み、海面を見つめる。
「ふーん、まだ分かんねぇのか。しかし、そんな何かも分かんねぇエネルギーに、頼らずをえない人類もだいぶ進退窮まってるよな〜」
桃瀬はタブレットを操作しながら、小さく頷いた。
「ですねー。でも、だからこそ私たちの任務は重要なんです。今のエネルギーが枯渇する前に見つけなきゃダメなんです!」
阿賀白は海面をじっと見つめ、少し間を置いて呟いた。
「…本当にそんなエネルギーあるのかねぇ」
3号機が海中に入ってから二時間経ち、2号機と交代となる。
『収集装置設置完了。引き上げお願いします』
宇城からの通信により、海中から3号機が引き上げられ、コックピットから宇城が降りてくる。
「さぁて、俺の出番かぁ〜…」
阿賀白は腕を伸ばしつつ、2号機へ向かい乗り込んだ。
2号機が海中へと降ろされ、暗い海中をゆっくりと進んでゆく。
「えーと、俺の任務はなんだっけ?」
ブリーフィング中、居眠りをしてしまっていた阿賀白は任務を覚えていなかった。
『海中にある未確認物体の確認と引き上げ作業の補助ですよー!』
阿賀白は自分の任務内容に気づき、ため息をついた。
「まぁ…簡単で退屈な任務だよなぁ…」
『なら、パパっと終わらせましょう!』
鈍重な2号機が周囲を確認しつつ、海中を進んでゆく。
「お?アレかな?」
岩陰に隠れるように存在する金属片のような物体が、ソナーに反応している。
桃瀬がタブレットで状況を監視する。
『左に少し傾けて接近お願いします!引き上げ補助アームの準備してますので!』
阿賀白は慎重に2号機を操作し、アームを物体に近づける。
「よしよし、これで……あ?」
何処かから視線を感じた阿賀白はモニターに視線を移す。
「ちっ!解像度低くて分からねぇな、なら目視で」
機体前方に備え付けられた舷窓を覗きこむ。
前方50メートル先に何かが見えた。
「桃瀬ちゃん、何かいるようだけど、どうする?」
桃瀬からの通信がヘッドセットへ返ってくる。
『うーん…ソナーでは反応が無いですね、見間違いか生物じゃ?』
「いや、そんなはずは…」
阿賀白はもう一度、舷窓を覗き込む。
「いない…追いかけるか?」
不明物体はすでに消えていた。
『いや、今回はミクマリもいませんから下手に追わないで下さい』
「…ああ、OK」
胸騒ぎがしながらも、阿賀白は引き上げ作業へと戻った。
それから海底に沈み込んでいた金属の未確認物体が2号機と共に、地上へ引き上げられた。
「こりゃなんだ?」
阿賀白は引き上げ上げられた金属片を、腕組みをしながら眺める。
「なんでもどこかの国の機体の残骸らしいですよ」
桃瀬がタブレットで、金属片の様々な角度の写真を取りつつ答えた。
「ふーん…つまり、人様の海域で何かやってたって事か」
阿賀白は金属片に触れ、軽く指先で軽く音を確かめる。
−カン、カン−
「しっかりしてんな。錆もねぇし、かなり最近のものだなこれ」
桃瀬はタブレットを確認し、写真を拡大する。
「エンブレムも識別番号もないですねー、どこのものか判別は難しそうです」
「ふーん…まぁでも分析に任せりゃなんとかなるだろ、多分」
阿賀白は海面を見つめ、眉を顰める。
(…海中で見えた影、あれは恐らくコーストライン合衆国の機体に似ていたな)
コーストライン合衆国、北大陸に位置する大国。傲慢さと奔放さの中に歪んだ正義感を持っている国。
「阿賀白さん、海中に何かいたのに気づきましたか?」
宇城が背後から声をかける。
「…お前も気づいたか?」
「はい、変な駆動音が海中に響いてましたから」
二人は夕陽に照らされ、オレンジがかった海面を凝視する。
「なんだかきな臭いよなぁ」
「ですね。近い内に何か起こるのかもですね」
二人は嫌な予感に身を任せつつ、海面に映る夕陽を眺めた。




