第七話
−−妙日、整備ハンガーにて−−
「だいぶ手痛くやられたな」
「ええ、まぁ…」
俺は整備班長の黒岩と共に傷つついたハヤアキ1号機を見上げていた。
「お前、開発者の気まぐれを使ったらしいな?」
「使わなきゃやられてた可能性がありましたから」
黒岩は腕組みをして、少し考えこむように機体を眺めた。
「…まぁ、現場のお前が言うならそうなんだろうな。ただ、何度も言われただろうが、2分が限界だからな」
「2分…それ以上は無理なんです?」
「無理だな、2分以上にすれば炉がオーバーヒートで融解する」
炉、ハヤアキの動力源である水中高密度プラズマ式深海核の事だろう。
「…まぁ、気まぐれに頼ったんだ。機体もそうだが、お前も相当負担きてるだろう」
「ええ、全身痛いです」
黒岩は軽く鼻で笑い、ハヤアキを工具で軽く叩く。
「でも、よくやった。今回の経験は次に活きる」
「だと、いいですけどね」
「海底では孤独だ。お前の判断力と反応が試される。今回の教訓を覚えておくといい」
「…次はもっと冷静に、機体を上手く使えるように」
俺は痛む体を伸ばしながら、小さな決意を胸にハンガーを出た。
俺は分析室へと向かった。昨日の敵性機体−−その正体について、報告があるらしい。
「お、来たね。体は大丈夫?」
分析室にすでに五十嵐が来ていた。コーヒーを片手に腰掛けている。
「まぁ、なんとか大丈夫。それより分析結果は?」
「こちらの映像をご覧ください」
分析官の富士川の操作で薄暗いモニターに映像が映し出された。昨日の戦闘の様子だ。
蛇のようにうねる機体、魚雷を迎撃し突進を仕掛けてくる場面、ハヤアキが振動ナイフを深く突き立てる瞬間−−映像を見て、良く生還出来たものだと我ながら感心する。
「敵性機体は、やはり東州連合の物です。ただ、過去の東州連合の機体よりも攻撃性が増しています」
ズームされる背部の機関砲、過去のデータによると本来は単なる無人探査機でそんな武装は存在しなかったはずだ。
「攻撃性が増してる、か…それは東州連合による改修?それとも第三勢力の改造?」
腕を組んだ五十嵐がモニターを凝視しつつ、富士川に疑問を投げかける。
「第三勢力って…そんなのあるのか?」
第三勢力という言葉に引っかった俺は口を挟んだ。
「第三勢力はいますよ。ですが、この武装は東州連合の改修です」
富士川はモニターを一部を拡大し、指で示した。
「機体のマーキングと背部機関砲を見て下さい」
拡大された映像に、ハッキリと東州連合の公用語が刻まれた機体の一部が
映っていた。
それはまるで、挑発するように俺たちに向けられたサインのようだった。
「この背部機関砲は東州連合製の物。それもついこないだ開発、配備されたばかりの物です」
装備は最新鋭、横流しの線もなし。
確実に第三勢力の可能性は消えてなくなった。
ため息を吐き、苦々しげに五十嵐が口を開く
「やっぱり東州連合かぁ…抗議出してもいつもの言い訳しか返ってこないんだよねぇ…」
「いつもの言い訳?」
俺は聞き返した。
「AIの暴走、不具合、いっつもこれ…本音は海洋エネルギーの探査にちょっかい出したいけど、戦争はしたくないってところなんじゃない?」
「じゃあ、俺たちはその探査妨害の犠牲者ってわけか…」
俺はモニターを睨みながら呟く。
「犠牲者かどうかはともかく、警告はしとくよ」
五十嵐は肩をすくめて、でも目は真剣だ。
「今回の件、外交の方から抗議を出しますか?」
「そうだね…とはいえ、うちの外交じゃのらりくらりやり込められるだけだろうけど」
五十嵐の声には諦観が込められていた。
「…なら、俺たちに出来る対処をするしかないか」
俺はモニターを見つめながら、先の事を考えていた。
「うん、椙原の言う通りだね。不測の事態に備えるしかない」
五十嵐も俺と同じ気持ちだったようだ。
「そうですね。なら徹底的に分析していきます」
お硬い雰囲気の富士川もやる気になっている。
今回の事を徹底的に分析し、次へと活かす。その為に今やれる事を最大限にやっていくしかない。
それから−−敵性機体の挙動、武装の配置、動力炉の出力変化…あらゆるデータを洗い直し、海底戦闘のシュミレーションを繰り返した。




