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第六話

次の日から、座学と実地訓練のラッシュが始まった。


(なんというか、目まぐるしい一ヶ月だったな…)


訓練の間、俺は操縦に苦戦しつつも徐々に機体に慣れ、1号機の問題点も把握していた。

問題点はどうやら、開発者が気まぐれで入れた機構にあるらしい。

発動すれば一時的に出力を限界以上に引き出せるらしいが、使うことはおそらくないだろう。


座学は……なんとなく惰性でこなしていた。

(20歳すぎてからの勉強ってダルいな…)


そして、最終応用訓練の日を迎えた。


「よーし、じゃあ最終応用訓練始めるよー」


五十嵐の一声で整備員が慌ただしく動き始めた。

だが、今日はいつもよりも人が少ない。

「なんか今日、人少なくないか?」


訓練海域の埠頭には、宇城も阿賀白も桃瀬も、当然富士川も見当たらなかった。

「宇城たちはもう任務に入っちゃってて、コッチに構ってる暇なんか無いんだよね」

五十嵐がタブレットをカチカチ弄りながら答えた。


「でも、今回は無人機も帯同するんだろ?誰が動かすんだよ?」

無人機は桃瀬の担当のはずだ。


「ここにいるじゃん。動かせる人なら」

五十嵐が自分に指を差した。


「…動かせんの?というか、局長がやっていいものなのか?」

俺の疑問を五十嵐は軽く笑いながら、肩をすくめるようにして答えた。


「大丈夫大丈夫。操作方法、今パパッと見て覚えるからさ」


彼女はタブレットを操作し、無人機のシステム画面を開く。

海域のレーダー上で小さな光点が動き出し、指示に従って無人機が滑らかに動き始めた。


「ね、簡単でしょ?さ、あとはあんたが1号機を動かす番だよ」


俺は深呼吸を一つして、コックピットに腰を下ろした。

冷たいシートの感触と共にモニターが一斉に点灯し、駆動音が唸りを上げる。

今日の応用訓練−−そして、防衛という建前の潜在的な戦闘の一歩−−は、ここから始まる。


『準備Ok?今回はオペレーターも私がやるからね』


海底に着き、ヘッドセットに通信が響いてきた。

五十嵐がほぼ全てをやるらしい、局長なのに良くやるものだ。


「準備完了」

俺は操縦桿を握り直し、気合いを入れる。

『じゃ、私の無人機と一緒にレーダーに映ってる赤いマーカーのターゲットに近づいて』

「了解」


俺は無人機ミクマリと共に無人標的機に近づいていく。

もはや操作には慣れたもので、歩行ペダルの真ん中にあるスラスターペダルも使いこなしている。


『到着ーっと…じゃあ、標的を破壊して』

「了解」

俺は一気に距離を詰める。標的機がモニター上で大きくなっていくのを確認しながら、スラスターペダルを微調整。海中の流れに機体を強く押され、微かに揺れるが握った操縦桿でバランスを保ってゆく。


「よし、標的に近づいた…」

ユラユラと揺れる標的機。スラスターペダルと歩行ペダルを交互に微調整しながら、少しずつ進路を合わせる。

心臓が高鳴る。目の前の赤いマーカーが揺れ、まるで意思を持っているかのようだ。


『今!』

俺は左腕スティックレバー上部にあるスイッチを押し込んだ。

スイッチを押し込んだ瞬間、コックピット内に衝撃が走る。

モニター越しに、標的機に小型魚雷が当たり、弾け光る瞬間が見えた。


『よし、ヒット!』

五十嵐の声がヘッドセット越しに響き、ミクマリが周囲を旋回しながら標的機の破片を確認していく。

「ふぅ…」


俺は操縦桿を握り直す。海中の流れをバランスを取りつつ受け流し、安定させていく。

メインモニターの端にミクマリが破片の確認をしているのが見える。


「さ、次は?」

俺は次の指示を仰いだ

『次は白兵戦で…ん?これは…』

指示を出そうとしていた五十嵐の声に困惑が感じられた

「ん?なんかあった?」

『そっちのレーダーも確認して、未確認機体がこっちに近づいて来てる!』

俺はレーダーに視線を移す。確かに、標的機とは違う、未確認を示す灰色の点がこちらへ接近してきている。


「未確認機体…!?な、なんだよ!?未確認って…」

『落ち着いて、まだ遠い、まずミクマリでコンタクト取ってみるからそこで待機!』

ミクマリが未確認機体の方向へと単機で進んでいく。

俺はなんとか呼吸を整えつつ、コンタクトの結果を待った。


『ちっ…撃ってきた…!』

五十嵐の怒気を含んだ声がヘッドセットに響く。

「撃ってきたって…?まさか、敵!?」

操縦桿を強く握り込む。緊張と冷や汗で手が滑りだす

『…そうなるね、仕方ないか…防衛行動開始!』

「り、了解」

スラスターペダルを踏み込み、ミクマリの元へと急いだ。


現場へ着くと、ミクマリと敵性機体の戦闘が繰り広げられていた。

敵性機体は蛇のようにうねる形をしており、高速で動き回る。ミクマリは翻弄され、何度も軌道を外しているのがモニター越しに見える。

『ミクマリじゃあ捉えられない、椙原、アンタの出番!』

「わ、分かった!」

俺は息を整え、緊張と恐怖で震える手を握りしめた。無人機は後方に下がり、支援に回る。


左腕スティックを操作し、標的の動きを読みながら小型魚雷を放つ。が、蛇のようにうねる敵性機体は素早く回避し、魚雷は水面を切る音だけを残して、空しく通りすぎた。


「クソっ…!」

心臓がバクバクと鳴り響く。冷たい汗が額を伝い、手が僅かに震える。

標的は予想の軌道を外れ、海中で縦横無尽に動き回る。


「落ち着け…冷静に…」

自分に言い聞かせ、呼吸を整える。ペダルを踏み込み、バランスを取る。

ミクマリの支援と連携しつつ、再び魚雷を発射するタイミングを計る。


しかし、敵性機体はこちらの動きを読んでいるのか、一点に留まらず動き回る。レーダーの灰色の点が絶えず動き続け、モニター越しの敵性機体は目まぐるしく動く。

「くそ、全然捉えられない…」

魚雷はあと1発のみ、外すわけにはいかない。

息を整え、俺は左腕スティックをギュッと握り直す。敵性機体は蛇のようにうねりながら動き、ミクマリの攻撃も掠りもしない。


『…ミクマリの攻撃した瞬間を狙って!それなら当たるはず!』

五十嵐のいつもの軽い調子ではない声がヘッドセットに響く。

回避行動を取った瞬間を狙えという事だろう。

「お、おう!」


俺は心を無にして、モニターの敵性機体の動きを凝視する。ミクマリが攻撃の瞬間に体をひねる。その瞬間、敵性機体が一瞬だけ軌道を乱した。


「よし…今だ!」

俺は息を止め、スティックを微妙に操作しながら最後の魚雷を発射。水中を切る音が耳に響き、魚雷は敵性機体に向かってまっすぐ進んでいく。


「な?!」

軌道を乱した敵性機体の背が開き、小型機関砲が露わになる。赤い閃光と共に高速の弾丸が魚雷に向かって発射される。魚雷は迎撃され、爆風が水中に響きわたる。

「ぐぅっ…!!」

操縦桿とペダルを調整し、爆風に防御姿勢を取る。機体は爆風により激しく揺れる。


さらに敵性機体は背を開きつつ、こちらへと突進を仕掛けてくる。

「うげ!?」

早急に防御姿勢を解き、回避行動を取る。スラスターペダルを最大限に踏み込み、なんとか避ける事に成功した。


『前はあんな武装してなかった筈…』

五十嵐の声に困惑の色が感じられる。

「…どうすればいい?」

五十嵐に指示を乞う

『…攻撃手段は右腕の格納式振動ナイフしかない…けど…』

「右腕の振動ナイフか…」

俺は呟きながら、装備を確認する。小型だが、高速振動で敵を切断出来る代物が右腕に格納されている。しかし、相手は高速でランダムに動き回る。正面からではとても当たる気はしない。


「アレって使えるんだよな?」

俺はモニター横の赤いボタンに目を移す。触るな!とテープが貼られまくっている。

『…あの開発者の気まぐれを使う気?』

「…こんなところで死ぬのはゴメンだからな!」

俺はテープ越しに赤いボタンを叩き押した。異常な駆動音、出力計器は振り切れ始めた。

『その音、まさか…押した?』

五十嵐の声にわずかに動揺が混じる。

「…押した、気まぐれは大体何分で終わる?」

『2分』

機体の異常な振動を体全体に感じつつ俺は操縦桿を強く握り、決意を固める。

「…分かった、今すぐケリつける!」


スラスターペダルを強く踏み込む、さっきまでの速度とは明らかに違う。

「ぐっ…!」

さらに体にかかる圧力もかなりのものだ。

だが、それを気にしていてはあの敵性機体を捉える事が出来ない。

あっという間にうねうねとする敵性機体に接近していく。

「一気に!」

敵性機体が蛇のようにうねり、目の前に迫る。俺はスラスターペダルを踏み込み、機体の出力を極限まで引き上げる。振動と圧力が全身に響き渡るが、ここで手を抜くわけにはいかない。


「ここだぁ!」

右腕の振動ナイフが敵性機体の表皮を裂き、深く食い込む。敵は最後の悪あがきか、バタバタと激しく動き回る。

しかし、極限まで引き上げた1号機と振動ナイフの威力は凄まじく、蛇の様な動きも次第に鈍くなる。

「これで、終わり!」

スラスターペダルを調整しながら、最後の一撃を狙う。ナイフが体に深く入り、敵性機体は電池が切れたかのように静止した。


−−−応用訓練、戦闘後−−−


気まぐれの機構を使い、敵性機体を倒したがハヤアキ1号機はうんともすんとも言わなくなり、引き上げられた。

地上まで引き上げられ、1号機のハッチがゆっくりと開かれる。

俺はまだ震える手を深く握りしめたまま、深く息を吐いた。全身に残る振動と圧力の余韻が、戦闘の激しさを思い出させる。


「はー…なんとか、生きてる…」

俺は呟き、濡れたシートから立ち上がる。

振動ナイフやスラスターペダルの操作が、まるで昨日の夢のようだ。


「よくやったね、無事で何より」

五十嵐が近づいてきて、タオルを渡してきた。

普段の軽口はなく、少しだけ安堵が混じっていた。


「そうだな…で、あいつはなんだったんだ?」

「あれは…多分、東州連合(とうしゅうれんごう)の自律型無人機、だと思う」

長い髪を指でクルクルと絡め、何かを考えているのか。

眉間に皺をよせた五十嵐が答えた。

「東州連合の無人機がなんで俺たちを攻撃してくるんだよ?」

「自律式AIの暴走…って言うだろうね、東州連合は」

「暴走、ね…」

俺は渡されたタオルで頭を搔きながらため息をつく。

東州連合、アジア地域の大国…世界各国の資源が少なくなってきてからやけにきな臭くなってきた国家でもある。



「…まぁ、でも今日は生きて戻れた。それだけでいいか」

「うん、ホント今日は無事で良かった」


潮風が港を吹き抜ける中、俺たちは静かに海を見つめた。今日の戦いで得たものは、恐怖と緊張だけじゃない。ほんの少しだけ、覚悟も積み重なった。



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