第五話
実地訓練終了後、ある個室居酒屋にて−−−
「いや~、流石だったね椙原!」
だいぶ酔った五十嵐が俺の背中をバシバシと叩く
「うんうん!初めて乗ってあんなに動かせてる人、初めて見ました!」
桃瀬もだいぶ酔っているようで、ワイシャツのボタンを三つ目まで外している。
目のやり場に困るんだが。
「けっ!あんな訓練、誰でも出きらぁ」
阿賀白は褒められている俺に嫉妬しているのか、隅の方で日本酒をあおっている。
「あー…そういえば、宇城と富士川さんは?」
褒められるのがいい加減照れくさくなってきた俺は話題を変えた。
五十嵐は少し残念そうにビールをあおる
「二人はこういう場に滅多に来ないよ、古臭い飲みの場に興味無いんだってさ」
確かに飲み会という文化は、100年以上前の化石だと言うのを聞いた覚えがある。
「ふーん、なるほど…でさ、聞きたい事があるんだけど」
酔っぱらいの五十嵐に聞いてちゃんとした答えが返って来るかは謎だが、聞きたい事が山程ある。
つまみの焼き鳥にかぶりつきながら気怠げな五十嵐は答える。
「あ?ナニ?」
「ハヤアキはなんで人型なんだ?」
純粋に疑問だった。
海中で人型にする必要性はほぼ皆無と言っていい筈だ。
「カッコいいからですよ!」
桃瀬が食い気味に割り込んできた
「あはは!うん、そうカッコいいから!」
五十嵐もそれに同調する。
「は?え、そんな理由?」
俺は耳を疑った
「ってのは、冗談でまぁ…スポンサーの意向と人型機の有用性の証明、かな」
「有用性の証明ってなんだ?」
俺はさらに質問を重ねたが、五十嵐は嫌な顔をして
「あーもー、しつこいなぁ!色々あんのよ、色々」
「色々ね…まぁとりあえずそれはいいか、あとさ、防衛ってのは何?」
五十嵐は一瞬眉ひそめ、ジョッキを持ち上げ軽く喉を潤す
「防衛?あー…まぁ、簡単にいえばコチラから仕掛けない戦闘行為、かな」
俺はまだ疑問を抱えていると、横で桃瀬はベロンベロンになり後ろに倒れ込む。
「かんたんにいうとぉ、まもるってことですぅ…zzz…」
呂律も回らず、もう会話に参加出来そうもなかった。
俺は頷きながら、まだ心のどこかで引っかかる
「うーん…まぁ、とりあえずは分かった」
隅の方で日本酒をあおっていた阿賀白がこちらに近づいてくる
「椙原ぁ、仕事の話はもう終わり、こっからは楽しい話しようや」
そこからは阿賀白のとてつもなく下世話な話に付き合わされた。
「あんた、ほんと色欲に塗れてるな…」
俺は半ば呆れていた。
阿賀白はお猪口の日本酒を一気に飲み込み
「おん?そりゃお前…いつ死ぬか分からねぇんだ、塗れたくもなるさ」
阿賀白の開き直りっぷりには呆れるよりも関心が上回った。
「ま…ほどほどにな」
ここまで開き直られると俺はそう言うしかなかった。
飲みの席でも時間も大分過ぎた。
桃瀬は酔い潰れ夢の世界へ、阿賀白は野暮用とやらで何処かへ行って、残るは俺と五十嵐のみになった。
「なぁ、なんで俺をスカウトしたんだ?」
グラスの酒をカラカラと回しながら、俺は一番気になっていた事を聞いてみた。
「んー…勘って事じゃダメ?」
五十嵐は笑ってグラスを傾けた。
だが、その笑顔の裏に何かがあるような気がした。
「……勘、か」
俺は曖昧に頷きながら、胸の奥に違和感を残した。
それから、酔い潰れた桃瀬を連れて五十嵐が帰り、飲み会はお開きとなった。
店を出れば、夜の空気は冷たく酔いの熱を奪っていく。
五十嵐の勘という言葉を、何度も頭の中で反芻していた。
夜空の雲と、頭のモヤモヤがリンクしているような気がした。




