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第十話

桃瀬は、残骸に関する報告書を仕上げるため、深夜の管理室で一人データを整理していた。

何度も見返しているのに、ある数値がどうしても引っかかる。

腕を組み、首を傾げながら唸る。

(うーん……?やっぱり変なんだよなぁ…うーん)

桃瀬は端末を叩き、さらにデータを調べ上げていく。

画面に浮かび上がった波形データに、一瞬だけ乱れている。

「…これ、やっぱ五十嵐さんに報告しなきゃだよね」

桃瀬は身を乗り出し、再生と巻き戻しを繰り返し

調べ上げていった。


翌日、桃瀬は朝一番で五十嵐に不審なノイズを報告した。


「確かに…これは気になるね、行って調査しようか」


現場へは、阿賀白、桃瀬、椙原の三人が向かう事になった。


「まぁた、こんな田舎かよ」

現場へ着くと開口一番に阿賀白が文句を呟いた。

「大体、俺じゃなくて宇城でいいだろうに」

「仕方ないです、宇城さんの機体だと万が一の時困るんで」

文句を垂れている阿賀白を桃瀬が宥める。

宇城の3号機は探査としては優秀だが、防衛戦闘に於いてはあまり期待出来ない。


「だが、2機も必要なのか?」

俺は疑問を抱く。

現場に運搬されたのは1号機と2号機。

通常探査を差し置いてまで、こんな調査に来る意味とは


「まぁ…なんかあるんだろうな」

文句を垂れていた阿賀白の表情が、ふと真剣に変わる。


「恐らく…敵性機体がいる可能性があります」

桃瀬もいつもの元気さは影に隠れ、真剣な顔をしている。


「また敵か。勘弁して欲しい」

俺はため息をつく。

また前回のように戦闘になるのは懲り懲りだ。


「退屈な探査より楽しいだろ?」

阿賀白が語りかけてきた。

戦闘のが楽しみなのか、少しニヤけ面をしている。

「俺は平和的な探査のが良いよ…」


準備を終え、阿賀白はすでに2号機に乗り込み、海中へと降下中。

重たい機体が波を割り、暗い蒼の闇へ沈んでいく。

モニター越しに見えるその背を、俺と桃瀬はしばし無言で見送った。


「…ほんとに何もなければいいんですけど」

桃瀬が随伴する無人機をタブレットで操作しつつ、小さく呟く。

俺は曖昧に頷いた。

(楽観は出来ない。けど、願うしかない)


ゴウン、と機体が水圧を押し分ける振動が伝わる。

シートに沈み込む阿賀白はモニターに映る蒼黒の世界を睨みながら息をついた。

(さて、何が出てくるのやら…東州連合か、コーストラインか…どちらにしても厄介なのに変わりはないが…)

警戒をしつつ、大胆に歩行ペダルを左右にリズミカルに踏み込み進んでいく。

ズン…ズン…と進む2号機の後ろを無人機ミクマリがついて行く。


『あと100mほどで異変ポイントに着きます』

桃瀬の声が骨伝導ヘッドセットに響く。

「…もう見えてる」

阿賀白の目に、異変の正体は既に見えていた。


(あれはコーストラインの旧式か…!)

水中で蠢く機体は、コーストラインで運用などとっくにされていない旧式の人型無人機だった。

(恐らく、横流し品か何かだろうな…)

阿賀白は思案しつつ、何かをしている無人機へと近づいてゆく。


(コイツ、こないだ設置した探査装置を破壊してるのか…?)

無人機は設置した探査装置をアームで黙々と破壊している。


「桃瀬ちゃん、ミクマリで早いとこコンタクト頼む」

『了解!不明無人機にコンタクトします!』

ミクマリが近づいてゆき、不明機にコンタクトを試みる。

だが−−返答は、無い。

(まぁ…当然無視か)

阿賀白の背筋に緊張が走る。

「もう攻撃してOK?」

『まだもう少しコンタクトしてみます!』

桃瀬が操るミクマリは諦めず、コンタクトを試みる。


−−ボシュッ…!ボシュッ…!


低くくぐもった発射音が、水圧に押し潰されるように響いた。

無人機の腹部から白い泡の帯が二筋、弾かれたように走る。

「チッ、撃ってきやがった」

阿賀白は冷静に機体を操縦、2号機が水底の泥を蹴り上げた。

濁った海中を、二本の魚雷が光跡を引きながら迫る。


「桃瀬ちゃん!」

『危なっ!』


1発がミクマリの側面を掠め、水柱のような泡が爆ぜた。

機体がグラつき、モニターにノイズが走る。


「桃瀬ちゃんは後ろに。誤射るかもだからな」

『了解!』

桃瀬はミクマリを後ろに下げた。


「撃ってきたなら、こっちも返してやるよ!」

阿賀白は操縦桿を握り直し、冷静に狙いを定める。

(撃墜は狙わない。行動不能に収める…!)


肩部の大型ランチャーを使えば撃墜は楽に狙える。

だが、行動不能に抑えたい阿賀白は右腕部のハードポイントを開き、小型魚雷ポッドを展開する。


「…捉えた!」

ポッドから吐き出された小型魚雷が、水を切り裂くように滑り出す。

光跡が蒼黒の海中を蛇行し、ターゲットに向かう。


−−ドバンッ!!−−


小型魚雷が無人機の脚部に当たり、衝撃が水中に響く。白い泡が一斉に立ち上がる。

機体は前方へ倒れ込み泥を巻き上げ、視界が一瞬濁る。


モニター越しに揺れる映像を見ながら、阿賀白は冷静に操縦桿を握り直す。

「よし、着弾。捕獲と行くか…」

倒れ込んだ無人機へと機体を進ませる。

しかし、阿賀白の胸に一抹の疑念が浮かぶ。

(…やけにアッサリだな)


阿賀白はゆっくりと倒れた無人機に近づき、アームで捕獲用のケーブルをかけようとした。

その瞬間、機体胸部に仕込まれた小さな赤いランプが、不規則に点滅を始める。


『…あれ?旧式に赤いランプなんかついてましたっけ?』

阿賀白は瞬間的に身を引き、眉をひそめた。

(…まさかコイツ…!)


赤いランプの点滅は徐々に速くなり、微かにだが機体内部から低い振動が伝わってくる。

「桃瀬ちゃん!離れて防御態勢!」

『え!?え!?』

阿賀白と桃瀬は即座に距離を取り、ミクマリと2号機を後退させる。


その瞬間、水中に閃光が走る。

−−ドボォンッ!−−


水柱と泥煙が激しく巻き上がり、海中の視界は一瞬で真っ白になった。


阿賀白はシートに沈み込みながらも冷静に機体を操縦し、振動を吸収して後退する。

(自爆か…2号機だからなんとかなったが…1号機が出ていたら、ヤバかったな)

近接主体の1号機では自爆により破壊されていた可能性があった。


モニター越しに見える残骸は、旧式無人機の姿をほとんど留めておらず、白い泡がゆっくりと海上へ浮かんでゆく。

桃瀬はタブレットを握りしめ、思わず小さく息をついた。

『はぁ…まさか自爆機能なんて…』


阿賀白はしばらく沈黙した後、深く息をつけながら言う。

「…残骸は後だな。とりあえずまず上にあげてくれ」


水圧の中、2号機とミクマリはゆっくりと浮上を開始し、細かい残骸の浮かぶ水面に向かって進む。

阿賀白の胸には一抹の警戒が残っていた。

(…こりゃ、まだ何か仕掛けてきそうだな)


海中の静寂が戻り、白い泡と泥がゆっくりと消えていく中で、阿賀白は次の行動を慎重に考えるのだった。



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