表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
濡れた部屋  作者: ユヅキ
プロローグ
1/2

プロローグ

 ホラーというジャンルには、幽霊や怪異といった“非現実”を扱うものが多くありますが、私が本当に怖いと思うのは「人の記憶」や「思い込み」、あるいは「説明できない現象が、説明されないまま続いていくこと」です。


だからこの物語では、派手な演出よりも、“じわじわと濡れていく足元”のような恐怖を大切にしています。


読み進めるうちに、あなたの足元が濡れていないことを、どうか願っています。


都会って、異常があっても、誰も気にしない。

夜中に聞こえる怒鳴り声も、昼間に道路に落ちてる靴片方も、

「関わらない方がいいな」って、目を逸らす。


誰かが急に消えても、「引っ越したのかな」で終わるし、

同じ場所に何日も花束が置かれてても、

通り過ぎるだけで、由来なんて調べようとしない。


東京に限らず、どこの街でもそうだ。

「異常」に慣れすぎてて、怖がることすらしなくなってる。


でもね、そういうのって、確実に“におってる”。


ごく普通の風景の中に、ほんの少し、湿った“異物”が混ざってる。

誰も気づかないだけで、

毎日飲んでるコップの水の底に、それは沈んでたりする。


水って、不思議な存在だと思う。

どんなに澄んでいても、底のことはわからない。

ただの液体のくせに、私たちの命を握ってる。


誰かの死体を流し、誰かの記憶を浸し、

過去も罪も、何もかもを“無かったこと”にしてしまえる。


そして怖いのは、水が“覚えてる”ってこと。


私たちが忘れても、水は忘れない。

何年たっても、あの日の温度や、湿った言葉や、震えを、

どこかに閉じ込めたまま流れ続けてる。


そう思うと、水って“墓場”みたいじゃない?

でも、誰もそれに気づこうとしない。

飲んで、流して、当たり前のように扱ってる。


私たちは、水にずっと見られてるのかもしれないのに。




――私は今、小さなルポ記事を書いて暮らしている。

フリーライター。

有名でもなんでもない。


それでも、たまに届くんです。

「ちょっと聞いてくれませんか」っていうメールや、封筒が。


半分以上は、ただの愚痴か、誰かへの復讐だったりするんだけど……

今回の件は、ちょっと違った。


送られてきたのは、複数の写真と、短い文。


“あの部屋のこと覚えてる?”


正直、最初は「またオカルトか」って思った。


でも、その部屋には妙に見覚えがあった。


管理会社に聞けば「その部屋はもう人が住んでいない」と言っていた。


私は、最初の一歩を間違えたんだと思う。

本当は思い出すべきじゃなかったのに、

気づけば、取材ノートとカメラを持って、

その“あの部屋”に向かっていた。


雨でもない、風でもない、

誰もいないはずの部屋の中から、確かに――

水の音がした。


 ここまで読んでくださったあなたに、心から感謝します。

この物語はフィクションですが、私自身が日々感じている“現実の歪み”や、“何気ない違和感”を詰め込んで書きました。


たとえば、電車の窓に映る自分が、ほんの一瞬だけ“違う顔”をしていた気がする瞬間。 たとえば、なぜか濡れている部屋の隅に、誰かが立っていた気がする記憶。


誰もが持つ「説明できない記憶」は、もしかしたら水のように、静かに、どこかへ流れついているのかもしれません。


この物語が、あなたの中の“濡れた記憶”に、そっと触れることができたのなら幸いです。


最後までお付き合いくださり、ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ