第4話 初めての家臣
第4話 初めての家臣
隠れ家 鳥羽雄親
私が夏夜さんに連れられて青年の前に姿を現すと私は背筋を正すと
「お初にお目にかかります、鳥羽雄親と申します。お武家さんだとは聞いておりますが何方様でしょうか?」と私が尋ねると青年はまだ体力が回復しきっていないのか立ち上がったがよたってしまった。そんな青年を貞俊が支えてあげていた。
貞俊に支えてもらいながら青年は
「私は森脇久貞が嫡男で森脇久仍と申します。」と名乗った。
私は貞俊に目配らせすると
「久仍さん、わしは鳥羽貞俊と申します。」と名乗った貞俊に久仍さんが反応すると
「貞俊って貴方。もしかして、毛利家の家臣だった方ではないのですか?福原の。」と腰を抜かさんばかりの様子で言った久仍さんに貞俊は
「…貴方を見込んでお話いたしましょう。わしは貴方様のおっしゃる通り福原の出のものです。隣にいる鳥羽雄親様はわしの主君です。」と言って語った。
「福原さん。私は鳥羽雄親殿にお仕えしたいと思います。その代わり教えていただきたい。雄親"様"は何者です。」と言った久仍さんに私に仕えると宣言されたことと尚且つ雄親様と呼ばれた私は動揺したが
「それは私からお話します、久仍さん。私は本当は毛利元就が四男で幼名を祐寿丸と言いました。私は生まれながらに父上から追討命令を受けています。何時殺されるかも分かりません。ですが、今の私には貞俊と夏夜がいます。彼らを巻き込みたくない。その一心でここまで生きてきました。」と赤裸に思いを告げると久仍さんは絶句してしまった。
それから、暫くすると
「雄親様、私の決意は変わりません。雄親様の戦いが終わりを迎えるその時まで私を家臣として置いていただきますようお願い致します。」と言って久仍さんが平伏した。
私は嬉しく思いながらも
「久仍さん、貴方は尼子の人間。父親も尼子にいる。本当に大丈夫ですか?」と尋ねると久仍さんは懐から短刀を取り出すと
「私の言葉に嘘はありません。嘘だとお思いならこの短刀をお取り下さい。私の元服時に父上からいただいた思い出の品です。これで私の首をお取りなさいませ。」と言って首を差し出す久仍さんに一本気な性格なようだと私は思いつつ久仍さんの手を取ると
「久仍さん、いや久仍かな?どう呼んで欲しい?…久仍さん。私が呼び捨てした以上はもう私の家臣だし私や貞俊、夏夜さんの鳥羽家の家族だ。よろしく頼むよ。」と言うと久仍は夏夜さんの肩を借りずに自分の力で立ち上がると
「…孫三郎と呼んで欲しゅうございます。」と言った。
「孫三郎、よろしく。」と私が言うと貞俊と夏夜さんも近寄ると
「孫三郎さん、よろしくお願いします。わしは先ほど自己紹介致しました、福原貞俊と申します。普段は鳥羽貞俊を名乗っておりますのでよろしくお願いします。普段は弥五郎さんと呼んでもらえれば結構でございます。雄親様が家臣として家族として孫三郎さんを認めたのならわしが認めぬ理由がありますまい。」と言った貞俊に心震わせる孫三郎に私は
「孫三郎、普段は私のことを雄親様と呼んでくれるなよ。私は普段鳥羽勝丸と言う名で通ってる。孫三郎も勝丸って呼んでくれな。」と言うと孫三郎が
「はいっ!」と元気良く返事したのであった。
日野山城 ???
俺は吉川元春だ。俺は山陰の尼子氏と戦う要を担っていたが尼子晴久殿が新宮党を滅ぼしたと聞いて知らせを待っているとその知らせが俺に気になる情報を告げてきた。
「駿河守様、一つのあぶれ者の集まりである村が宇山久兼殿率いる接収部隊を打ち破りましてございます。総大将は鳥羽雄親を名乗る者で聞いたところによりますと齢8つの少年に御座います。この者が宇山殿に鉄砲で狙撃したなどの噂もあり申す。」と告げた。
「なんだと…。」と俺が驚愕の声を上げると
「となれば、鳥羽殿が我らに助けを求める可能性が高いかと準備しておくべきではないかと。」と言った経世に俺が頷くと
「準備します。」と言って去っていったのであった。
それから、政務に励み始めると俺の補佐役である口羽通良が凄い勢いで俺のもとに駆け込んでくると
「大変です!鳥羽殿からの使者が!」と言って駆け込んでくるが俺はそれだけでここまでの顔になるとは思えなかった。
「通良、なんでそんなに動揺している。らしくないぞ。」と俺が言うと通良は少し落ち着いたのか息をつくと
「鳥羽殿の使者を名乗っているのが福原貞俊殿だったのです。」と言った。
俺はそれを聞いて目の色を変えた。福原貞俊。彼は同母弟の小早川又四郎隆景の補佐役へと親父から期待されていた男だったが又四郎に野蛮を振るったことで親父の怒りを買い福原の家禄剥奪の上で強制隠居を彼の父である福原広俊に命じたのだ。広俊は彼を隠居させたがそれからというものの何かと彼を気遣っていることを俺を知っており彼が無事だと知って俺は密かに胸を撫で下ろした。
それにしても、その彼があの鳥羽殿の使者として現れたと言うのはどういうことなのだろうかと思いつつ俺は通良に
「貞俊を通してくれ。」と言うと通良は
「はっ。」と言うと去っていくと面会場の待合室で暫くして
「準備が整いました、殿。」と経世に言われて俺は頷くと貞俊の目の前に屈むと
「久しいな、貞俊。」と俺が言うと貞俊は不快感を露わにすると
「なぜに貴殿に呼び捨てされねばならぬのです。今のわしは鳥羽雄親様の家臣である福原貞俊です。貴殿に呼び捨てされる謂れはありませぬ。」と毅然とした態度を貫いたままそう言った。
粗暴でありながらどこか気弱な印象のあったかつての貞俊とは別人かって言いたくなるほど今の貞俊は堂々としていた。
俺は
「そうか。」と一言言うと一つ天を仰ぎ
「福原殿、御用は何かな?」と尋ねると
「我が主君である鳥羽雄親様は毛利家に本領安堵の上で支配下に入ることを望んでおられます。ご検討のほどをお頼み致したく思います。」と言って貞俊が平伏した。
俺は利のない話だとは考えていなかったため引き受けるつもりでいたがその前に聞きたいことがあって俺は貞俊に対して口を開いた。
「福原殿、その話謹んで受け入れることにしよう。だが、その前に聞きたい。福原殿にとって鳥羽殿はどういう存在だ?」と俺が尋ねると貞俊はふぅと息を吐くと
「失っては生きて行けぬほどに大切な主君ですよ。…小早川殿のようにはしたくありません。」とはっきりとした口調で言ったのであった。
貞俊は鳥羽殿を又四郎のような結末にしたくないと言った。そこには、貞俊の又四郎に対する負い目や様々な感情が見て取れた。
「そうか、話してくれて感謝する。」と言うと俺は貞俊を追い出すと又四郎や父上に文を出したのであった。
吉川元春……吉川の当主で血縁上は主人公の同母兄。
口羽通良……吉川元春の補佐役。
宇山久兼……主人公の初陣の相手となった人物。史実では尼子の忠臣。