第3話 恋の自覚
隠れ家 鳥羽貞俊
…どうしたら良いんだろう?そう目の前で眠る勝丸を視線に映しながら思っていた。さっきは勝丸に本気の殺気を浴びせていた。夏夜さんを相手に勝丸が顔を赤らめているのが許せなかった。なんで、自分じゃないのかと問い詰めたくなった。この良くわからない得体の知れない何かがいつか勝丸を傷つけてしまうのではないかと思うと強く畏怖した。そして、もう勝丸に素は見せない空気で居るんだと強く決意して勝丸のもとから走り去ったと言うのにわしが足を運んだ先は勝丸と一番多くの時間を過ごしたこの部屋に足を運んでいた。それだけでも驚いたと言うのに夏夜さんが勝丸を連れてきてくれた時にふっと湧き立つように"嬉しい"と思ってしまった。更には、勝丸に幼さの見える声で"さだとし"と声をかけられ思わず愛おしさが勝って勝丸の髪の毛を撫でてしまっていた。己の身体の中に宿る衝動のような物はわしを非ぬ行動へと導いていた。
わしはふと思考の渦から脱出すると
「っ!!」と思わず声も上ずるような息が漏れた。
自分は気づかぬうちに勝丸に接吻を落とそうとしていてわしが慌てて離れようとすると寝ているはずの勝丸に手を掴まれた。
「勝丸。」とわしが言葉に詰まりながら言うと勝丸は勢い良く起き上がると
「貞俊、ひどいっ!接吻してくれるのかなってわくわくしてたのに!」と言って泣き始めてしまった。
わしはてっきり怒られ失望されると思っていたので予想外の反応に驚きつつも妙に冷静に
「分かったから泣かないでくれ、勝丸。お主の泣き顔だけは見たくない。」と言うと勝丸は立ち上がるとどんどん勝丸の顔が近くに寄ってきてわしが顔を真っ赤に染めていくと勝丸の唇がわしの決して好めはしない頬に触れて接吻を落とされたことを悟って慌てはしたもののすんなりと受け入れた自分が勝丸に恋愛感情を持っていたことを認めると勝丸に接吻を返した。
「…貞俊?」とポテンとした様子で声をかけてくる勝丸をわしは抱きあげると
「勝丸、わしの恋人になって下さい。」と目を見ていった。
わしはもはや勝丸の存在なしでは生きられないほどに勝丸のことが大切だった。勝丸に断られてもいい。せめて、この胸に抱く想いを告白という形にしておきたかった。
勝丸はわしに満面の笑みで微笑むと
「勿論!こちらから、お願いしたいぐらいだよ!」と言ったのであった。
わしが我を忘れて勝丸を抱き締めていると
「中に入りますよ、貞俊さんに勝丸くん。」と言って入ってきたのは夏夜さんだった。
入ってきた夏夜さんはわしと勝丸の状態に目を丸くしながらも入って来ると
「良かったね、勝丸くん。貞俊さんと恋人関係になれて。」と言って勝丸の頭を撫でると勝丸はわしの腕に収まりながら嬉しそうに
「はい!」と言った。
夏夜さんはそんな勝丸に
「勝丸くん、いや雄親様に用事があるんだ。」と言った夏夜さんに勝丸は雰囲気を鋭利に変えると
「どうしたんだ、夏夜?」と尋ねた。
これは勝丸が生まれ持った素質のひとつなのかこの手の切り替えはとてつもなく早かった。
「あの青年が目を覚ましたのだけど雄親様に会わせてほしいと私に頼んできたの。」と夏夜さんが言った。
勝丸はそれを聞いてわしの腕から出ると
「分かりました、会いましょう。夏夜は先に行ってて下さい。貞俊は私と一緒に来て!」と言った。
夏夜さんが先に
「分かりました、雄親様。先にお待ちしています。」と言うと駆け出したのであった。
隠れ家 ???
私の名は森脇久仍と申します。私は父森脇久貞に従って戦っていたが投石攻撃に遭ったり馬も泥濘んだ地面に足を滑らせるわで気を失い気がつけばこの敵大将鳥羽雄親殿の家で治療されていたのだ。
私の面倒を献身的に見てくれるまだ若い女の子に
「私は森脇久仍と申しますが父森脇久貞に合わせる顔がないのです。おまけに父上はここに居らぬよう。息絶えたのか。」と情けなくも不安を暴露してしまうと
「…いえ、お父上は生き延びたのでございまょう。判別のつかぬ死体もありますから分かりませんが貴方が人の子ならお父上のことを信じなさいませ。」と言って勇気づけてくれた。
私は意外な言葉に
「忝ない。」と言うと少女は
「私の名は鳥羽夏夜と申します。貴方は武家の子のようね。名前は?」と名乗ったあと某にそう聞いてきた。
私は正直この少女に驚いていた。少女は鳥羽姓を名乗った。
となれば、敵大将の血縁者かと私が警戒していると
「…私は若く見えるかもしれませんが雄親様の乳母なんです。元々、私は孤児で雄親様に居場所を与えられた身なんです。だから、久仍さんも大丈夫ですよ。居場所がないならこの家にいつまでも居れば良い。」と言ってくれて私の涙腺は崩壊してしまい涙が止まらなくなってしまった。
「…申し訳ございません…申し訳ございません。」と言うと夏夜さんは
「良いよ、心ゆくまで泣いていいからね。私は雄親様を呼んでくるからね。良いですか、久仍さん?」と言って尋ねてきた夏夜さんに私は
「お願いします。」とだけ言うと床にに突っ伏せると
「鳥羽雄親様…か。仕えてみたいな…。」と独り言を呟いたのであった。
第3話の登場人物
森脇久仍……尼子の家臣で主人公との戦で負傷し主人公たちに保護された。