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第2話 鳥羽雄親の出自

隠れ家 鳥羽雄親

私は介抱していた青年を瑛次郎さんに預けると貞俊と夏夜さんから呼び出された。呼び出されたことに心当たりのあった私は貞俊が精神的に不安定な時によく来ている隠れ家の中でも瀬古浦村の湖を望める部屋に行くとやっぱりそこには貞俊が夏夜さんと一緒に佇んでいた。

夏夜さんは私の視線に気がつくと

「勝丸くん、貞俊さんの苦しみを悔恨を共に背負い受け止めることができるのは貴方しか居ないわ。」と言われて私は一つ頷いた。

そして、苦しそうに顔を歪ませる貞俊に近寄ると

「貞俊、貴方はいつまで一人で苦しむつもり?私だって貞俊や夏夜が実の父母じゃないことぐらい分かってるよ。でも、貞俊と一緒に8年間過ごしてきた身の上としてこれ以上貞俊に苦しんで欲しくない!」と私が思いの袖を貞俊に語ると

「…これほど、人間らしい心が戻るとは。勝丸にはいやこの仮芝居も勝丸の為には辞めたほうが良いですね。祐寿丸様と夏夜さんには感謝しています。わしの気持ちをかき立ててくれて。」と言った貞俊に私はヘヘッと誇らしい気持ちになった。

それと同時に

「…祐寿丸。それが私の本当の幼名か?どうも、手に馴染む。」と言う本音を言うと貞俊が一つ頷くと

「…やはり、貴方様は腐っても毛利の御曹子でしたか。貴方様は安芸の戦国大名毛利元就とその正室妙玖様の間に生まれた末子です。妙玖様は貴方様が生まれてすぐに亡くなられました。祐寿丸と言う名は妙玖様が生前男子であったならばそう名づけたいと常日頃から言われていた名で正式な物ではありません。それと貴方様は大殿に命を狙われています。あのあと、大殿から追討命令が発されわしは貴方様を連れて必死にここに逃げてきたんです。」と言った貞俊に私は

「…思い出してしまったよ、貞俊。お主の名は福原貞俊。違うか?鳥羽貞俊じゃないはずだ。」と私が思い出したことを貞俊に言うと貞俊は目を見開いたあと頷くと

「えぇ、わしの生家である福原家は毛利家の一門衆にして重臣の家系で父上は宿老です。わしはその中でも心の病を患っていたのもあり福原家においては少々特殊な立場で福原家にいた頃に儲けた息子である弥五郎の姿も一目たりとも見ていません。今、成長して父上の家禄を継いだのかはたまた若くして亡くなってしまったのか。そこさえもわしの知るところではありません。弥五郎自身もわしが実父であることなど知る由もないでしょう。わしにとっては祐寿丸様だけが我が子同然でした。それと隆景さまのことも少しお話致しておきましょう。隆景さまは祐寿丸様の同母兄でありわしの旧主君でした。隆景さまにわしは我が分からなくなって野蛮を振るってしまいそれがきっかけで大殿から補佐役の役割を解かれてからは疎遠になりましたが。」と言って思いを語る貞俊に私は

「私は毛利祐寿丸だ。でも、その一方で鳥羽勝丸でもあり鳥羽雄親でもある。私は鳥羽雄親として生きたい。だから、父上とはお別れしたい。」と言うと

「勝丸くん…。」と言った夏夜さんに私は微笑むと

「私には貞俊と夏夜がいれば問題ないって言ったでしょう?そう言えば、夏夜と貞俊の出会いは何だったの?」と私が無邪気な口調で尋ねると夏夜さんと貞俊が顔を見合わせると微笑み合うと

「夏夜さんとはこの瀬古浦村の地で会ったんだ。夏夜さんは孤児だった。怪我の手当をしてあげると懐かれてな。話を聞くと子を失ったばかりだと言うからわしから誘って勝丸の母親代わりになってもらうことにしたんだ。」と貞俊が言うと夏夜さんが

「そう。最初は不安だったよ。我が子ですらまともに育てられぬ私のもとで勝丸くんが育つのかはね。でも、勝丸くんが私に乳を欲しがってくれて私はもう一度母としてやってみようと決意出来た。ありがとう。」と言われて私は頬を赤らめたのであった。

その瞬間、貞俊から恐ろしい殺気のこもった視線が送られて私が首を傾げると貞俊が気づいたのか貞俊からスッとその殺気が止まった。

「…まさか、勝丸に…。」と泣きそうな声で言った貞俊は耐えられなくなったのか顔を覆うと走り去っていったのであった。

「…貞俊…。」と私の口を衝いて出たのは我が父同然に愛している存在の名だった。

私は貞俊のことが好きなんだよ?ずっと、物心ついたときから。貞俊、そろそろ気づいてよ。何時まで、私を一人ぼっちにするの?そう思うとドクドクと高鳴る胸の鼓動を半ば押し込めるような感じで体の内側に閉じ込めたのであった。

隠れ家 鳥羽夏夜

私は不器用なことをと走って去り行く貞俊さんを見つめつつそう思った。勝丸くんは無意識の意識だとしても貞俊さんをとても愛している。それこそ、何にも代えがたいぐらいの存在に。その証拠は勝丸くんが貞俊さんのことを呼び捨てで私のことをさん付けして来ることです。でも、私が見るに勝丸くんは幼いながらに貞俊さんに恋愛感情を持っていることを自覚している。問題は貞俊さんだ。貞俊さんは自分がどれほど勝丸くんのことを想い強い独占欲を発揮しているのかを自覚していない。さっきの勝丸くんに対して送られた凄まじい強さの殺気だってそうだ。貞俊さんの中で自分の気持ちを制御できなくなったからに決まっている。

「…貞俊は優しい人だよ。だけど、自分で自分を傷つけるようなことはして欲しくない。」と言った勝丸くんの横顔は貞俊さんを案じているようだった。

「勝丸くん、貞俊さんを追いかけなくて良いんですか?夏夜には良くわかりません。貞俊さんが御自身の気持ちから目を背けているような気がして。」と私が素直な気持ちを曝け出すと勝丸くんは

「貞俊は恐らく過去の因果から自分に自信が持てなくて己の気持ちからも目を背けているんだと思う。」と言うと不意に胸をキュッと押さえた。

勝丸くんは私の下に足をほつれさせるかのようにやって来て私が勝丸くんを抱き締めてあげると勝丸くんは泣いてはいないが泣きそうな声で

「夏夜さん、私は物心ついた頃からずっと貞俊が大好き。」と言った。

「そうだね、勝丸くんは貞俊さんのことが大好きだもんね。貞俊さんも勝丸くんのことを大切にしてますよ。大丈夫。」と言って背をさすると勝丸くんは余程に疲れていたようでウトウトすると眠りに就いてしまった。

私は勝丸くんを抱き上げると抱かれた状態の勝丸くんがモゾモゾと動き出すと

「さだとし…かつまるをおいていかないで…」と言って手を伸ばした。

寝てても貞俊さんを求める勝丸くんの甘えた声に貞俊さんとの絆は私が思うより遥かに強いものなのだと感じた私は目を細めた。

私は勝丸くんを抱きかかえたまま貞俊さんの居る場所を探し回るとついに探し当てた。その部屋と言うのは貞俊さんが勝丸くんとともに日々武家としての研磨に励んだり薬を調薬したりしている部屋で勝丸くんと貞俊さんが一番多くの時間を過ごしている部屋だった。私が勝丸くんを連れてなかに入ると貞俊さんが私たちの方を振り向いた。

「夏夜さんですか…。…わしにはもう何をどうしたら良いのか分かりませんよ。一瞬だけ本気で勝丸を打ちのめそうとして居ました。我を失ったんです。勝丸を大切にしたいという気持ちも旧主君である小早川殿への思いも全部一瞬にして消えて行きました。」と言いながらも私が傍に横たわらせた勝丸くんの髪の毛を愛おしげに撫でたのであった。

撫でられた勝丸くんは嬉しそうに寝返りを打ちながら

「さだとし。」と言って頬をほころばせた。

私はその様子に甘ったるい空気を感じると

「貞俊さん、勝丸くんをお願いしますね。私は負傷者の様子を見ていますから。」と言って勝丸くんと貞俊さんを二人きりにしたのであった。

そして、負傷者のところに行くと勝丸くんが気にかけていた青年が目を覚ましていた。

第2話の登場人物

鳥羽夏夜(とばかよ)……主人公の乳母(めのと)瀬古浦村(せこうらむら)で出会った孤児。

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