真夏の夜のルームメイト
大学生になった私は、イギリスのヨークという街に短期留学をした。大学の寮に入って、語学学習に勤しむ。寮は二人部屋で、気のいいイギリス人のメグがルームメイトだった。
メグは、分からない事があって困っていると絶妙なタイミングで助けてくれる。特に当時の英語の発音が得意で、役を演じながら台詞を読んでくれた。演技が上手で、まるで舞台を観ているようだった。
ある日、シェイクスピアのクラスで悪戦苦闘していた私に、話しかけてきた女の子がいた。
「困ってる?手伝おうか?」
「ありがとう。いつもルームメイトに予習を手伝ってもらってるんだけど、昨日はページを間違えちゃったの」
「ルームメイト?」
「そう。すごく親切な人と同室になれてラッキーだったわ」
「……今度遊びに行っても良い?」
「もちろん!」
「ルームナンバーはもしかして130?」
「驚いた!合ってるわ」
「今夜お邪魔してもいい?」
「ええ。メグには私から伝えておくわ」
「やった!楽しみ!」
クラスが終わって部屋に戻るとメグはいなかった。約束の時間になってもメグは戻ってこない。
「こんばんは」
「ごめんなさい。メグ帰ってなくて許可が取れなかったの。申し訳ないけど今日はごめんなさい」
「そっか。残念だけど仕方ないね。なるほど、こういう人が選ばれるのか。じゃあまた明日」
クラスメイトが帰った後私は机に突っ伏して眠ってしまった。
目が覚めると背中に毛布がかけられていた。
「おかえり。毛布ありがとう」
「うん」
「この部屋にクラスメイトを招いてもいい?」
「もちろん。泊まっていくのは困るけど」
「分かった。ありがと」
「うん。おやすみ」
その日からクラスメイトが一人ずつ遊びに来た。皆課題を手伝ってくれる。共通の話題がないからかもしれないけど、とても助かった。クラスメイトが帰るとメグが帰ってくる。
ついに留学最終日を迎えた。
「メグ、今までありがとう。楽しかったわ。特に当時の英語で台詞を読んでくれた時間が大好きだったわ。あなたには助けてもらってばかりだったから、日本からお礼の品を贈りたいの。住所を教えてもらえる?」
メグは悪戯っぽく笑って天井を指差した。
「住所はないの。強いて言うなら天国?私も貴方と過ごせて楽しかったわ。じゃあね。元気で」
メグはそう言うと消えてしまった。
その時私は留学前に友だちに言われた事を思い出した。
「ヨーク?イギリスのヨークに行くの?会えるかもよ?出るって有名なんだよ」