2-1 ローリスクな女
やっぱり湾田さんの周りは人が多くて、二分だか三分だか会話したくらいでは湾田さんにとってのレギュラーメンバーにはなれない。
俺は友達と駄弁りながら、遠く離れた座席から湾田さんを見守る。
「ねー! 誰か『饅頭パズル』上手い人いない? 五重同時消しのやり方教えてよー。妹に勝てないんだよー」
妹がいるのか、とまた新しい情報を仕入れつつ俺は湾田さんを見ている。
あ、また御蔭が来やがった。まさか御蔭は饅頭パズルまで達人なんじゃないだろうな? 最近、御蔭がちょくちょく湾田さんに話しかけているような気がして非常に脅威だ。
なんか、湾田さんの周りにいる他の男子も全員、湾田さんを狙っているような錯覚に襲われる。先日、少し仲良くなれたつもりでいたから余計に焦燥感が出てくる。
あー、湾田さんは動きがちょっとガサツだからときどき開いた脚の隙間からパンツが少し見えてしまう。白! 湾田さんは絶対に白だよなあというイメージだから、それが実物と一致してテンションが上がる。他の奴が見ていませんように……。
だがこっそりパンツを目撃して浅ましく喜んでいられる状況じゃない。
俺と同様、遠巻きに湾田さんを見ている奴らがヒソヒソと話している。
「穂緒さん可愛いよなー」
「お前、この間は法上さんが最強だって言ってたじゃん」
「いや、法上さんは超絶美人だけど、俺らなんかには高嶺の花だろ。しょせん手の届かない相手だよ。でも穂緒さんはどうだ? 俺でも狙えそうじゃね?」
「まあわかるけど。偏差値55くらいの大学みたいなコスパがあるよな」
「その喩えはよくわからんけど」
「告白成功率は高そうだけど、そのわりにちゃんと可愛い!みたいな」
「おお、そうそう。わかってんじゃん。いけそうなのに可愛いんだよ」
「コクられてフったとしても、それを周りに言い触らしたりしなさそうだしな」
「わかる。他人を見下さない。他人を尊重する。そういう感じあるよな。告白するリスクも低そうっていうか」
「お前、コクってみたら?」
「いやいや、えー……どうするかな」
「満更でもなさそうじゃん」
「いや、マジで悩んでるんだよな。告白して損するわけじゃないし?」
これ、クラスの男子はだいたいそう思っていそうなんだよなあ。早い者勝ちではないだろうけど、湾田さんは告白されたら「ありがとう! 試しに付き合ってみるかー!」くらい言いそう。