1-1 失敗スタート
高校に入学して、はや二週間。
人間関係も固定され始めて、環境も落ち着いてくる。
俺も友人がほどよく出来たり出来なかったりで無難なスタートを切れそうだ。
しかし、心残りがひとつだけある。
それは……
「おっはよー」
朝、教室の戸を勢いよく開き元気いっぱいに登校してくるのは、クラスメイトの湾田穂緒。
ボブカットが似合う小柄な女子で、クラス内だと五番目くらいに可愛いかなといった顔立ちだ。猫顔と表すればいいんだろうか、愛嬌があって見ていて楽しい。
「ねえ、昨日のアプデで出てきた新しいダンジョン、クリアできた?」
よく知らない他の男子に話しかけている。
湾田さんはゲームをプレイしていたりもするのだ。
オタク趣味なのかと思えばそうでもなく、ギャルの友達と踊ったり、いきなり校内で鬼ごっこを始めたり、アクティブになんでもやりたがる性格らしかった。
部活もやっていて、バスケ部。中学校のときは小柄ながらもキャプテンを務めており、彼女の代は全国大会にも出場したとのこと。
メチャクチャ綺麗なわけではなく、スタイルがよくてエロいわけでもないが、なんかいいのだ。ほどよい。
異性に対しても気さくだし、誰もがワンチャンあると踏んでいるんじゃなかろうか。俺だってそう。
でも致命的なミスが俺にはあり、入学してこの方、湾田さんとまったく言葉を交わしていないのだ。
出遅れている……。
他の男子に遅れを取っている……。
だけどウチのクラスには湾田さんよりも美人な子がまだまだいるし、心配しなくても案外と競争倍率は低いよな……?
自分に言い聞かせていると、また湾田さんの声が聞こえてくる。
「すっごーい! 御蔭くんもうクリアしたんだ! ねえ、フレンドになってよー。強いキャラ貸して」
御蔭だと!? まずい。クソイケメン男子じゃないかよ。ゲームでまで俺達を圧倒するつもりなのか? しかも湾田さんとフレンドになるだと? その調子で違うフレンド目指したりするんじゃねえぞ?なあ?
俺はスタート地点が他の男子より後ろであることもあり、御蔭道明が首を突っ込んできたこともあり、なんだかんだ言ってもやっぱり焦る。
多少なりとも湾田さんに存在をアピールせねば。
湾田さんはそもそも俺のこと自体知らない。
何か策はないか……。