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「王の影」とは俺のこと!〜背中を押されたら〜  作者: 大木 雫


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19/22

影武者リハーサル

 翌日。

 ルイは式典用の衣装を着付けられていた。今日は、ルイが式典でアルバートに成り切るためのリハーサルだ。


 王家の儀礼服は、黒と金を基調とした重厚な装いだった。

 胸元には紋章が縫い込まれ、肩から流れる外套には深紅の裏地が走る。

 細身の金の飾り紐が腰に巻かれ、動くたび微かな光を反射した。


 「……重いな、これ」

 裾を気にしながらつぶやくと、ルースが答えた。

 「ええ。なにせ広大な国土と民の上に立つ皇帝の衣装ですから。それはそれは重いですよ」


 「なるほど……物理的にも精神的にも、ね」

 ルイは苦笑しながら鏡を覗き込む。

 そこに映るのは確かに自分だが、昨日までの“沢村塁”ではなかった。

 (馬子にも衣装、ってやつか)




 「いい感じだな」

 アルバートが扉のそばからにこやかな笑顔で声をかけた。

 「肩のラインも合ってるし、顔色も悪くない。このまま式典に出ても……まあ、九割は誤魔化せるね」


 「残り一割は!?」

 「顔は瓜二つだが、ルイはなんだか素朴な雰囲気だからな。残りは王の風格で補ってくれ」


 ルイが呆れ顔をしていると、アルバートの後ろで控えていたレオナルドがうんうんと頷いていた。「まあまあ、いいんじゃない?」という顔だ。



 「では、最終確認を行いましょう。ルイ様――いえ、陛下。“王”として歩いてください。」

 ルースがそういい、ルイは頷きで応じた。


 部屋の中央に一本の赤い線が引かれている。

 それは“玉座への進路”を想定した訓練用の目印だった。


 ルイはゆっくりと一歩を踏み出す。

 背筋をまっすぐに伸ばし、顎をわずかにあげる。


 “王としての歩み”を、繰り返し練習してきた通りに再現する。


 靴音が静かに響く。

 一歩進むごとに、部屋の空気が少しずつ変わり、研ぎ澄まされていく。

 先ほどまで窓をわずかに軋ませていた風音も、いつの間にか静かになっている。ルイが歩くことに、この世のすべての要素がひれ伏しているのではないかというほど、静寂だった。


 窓から差し込む光がルイの纏う衣の金刺繍を輝かせた。重厚感のある外套は、歩みに合わせて裾が緩やかにはためく。

 

 アルバートもルース、レオナルドも、いつの間にかその姿にただ見入っていた。

 そこにいるのは、確かに“王”だ。


 ルイは止まり振り返ると、静かに、ゆったりと、周囲へ視線を投げかける。

 式典用の挨拶を口にした。


 声は静かに、しかし確かに響く。

 凛としていて、柔らかく、まっすぐな熱を帯びていた。


 わずかな沈黙。


 アルバートが、ゆっくりと微笑んだ。

 「……見事だ、ルイ。今のは“王”そのものだった。」


 レオナルドは背筋を正したまま、見張っていた目を微かに細める。

 「陛下、申し上げにくいのですが……。

 いまのルイ様は、私が仕えてきた“陛下”よりも威厳がありましたね」


 「な......!?」

 「冗談っす」


 驚くアルバートと軽口を言うレオナルドのやりとりに、ルースも口元をわずかに緩めた。

 「そもそもお二人は瓜二つですし、これであれば誰一人違和感を覚えません。……完璧です。」


 ルイは少し頬を赤らめ、息をついた。

 「……なんか、背中がむずむずするな」


 

 明日はいよいよ式典本番。

 ルイはアルバートと比較すると髪が短いため、明日はつけ毛をつけて臨むことになっている。正装のための準備に時間がかかるため、いつもより早い起床になると伝えられ、ルイは早めに眠りについたのだった。

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