影武者リハーサル
翌日。
ルイは式典用の衣装を着付けられていた。今日は、ルイが式典でアルバートに成り切るためのリハーサルだ。
王家の儀礼服は、黒と金を基調とした重厚な装いだった。
胸元には紋章が縫い込まれ、肩から流れる外套には深紅の裏地が走る。
細身の金の飾り紐が腰に巻かれ、動くたび微かな光を反射した。
「……重いな、これ」
裾を気にしながらつぶやくと、ルースが答えた。
「ええ。なにせ広大な国土と民の上に立つ皇帝の衣装ですから。それはそれは重いですよ」
「なるほど……物理的にも精神的にも、ね」
ルイは苦笑しながら鏡を覗き込む。
そこに映るのは確かに自分だが、昨日までの“沢村塁”ではなかった。
(馬子にも衣装、ってやつか)
「いい感じだな」
アルバートが扉のそばからにこやかな笑顔で声をかけた。
「肩のラインも合ってるし、顔色も悪くない。このまま式典に出ても……まあ、九割は誤魔化せるね」
「残り一割は!?」
「顔は瓜二つだが、ルイはなんだか素朴な雰囲気だからな。残りは王の風格で補ってくれ」
ルイが呆れ顔をしていると、アルバートの後ろで控えていたレオナルドがうんうんと頷いていた。「まあまあ、いいんじゃない?」という顔だ。
「では、最終確認を行いましょう。ルイ様――いえ、陛下。“王”として歩いてください。」
ルースがそういい、ルイは頷きで応じた。
部屋の中央に一本の赤い線が引かれている。
それは“玉座への進路”を想定した訓練用の目印だった。
ルイはゆっくりと一歩を踏み出す。
背筋をまっすぐに伸ばし、顎をわずかにあげる。
“王としての歩み”を、繰り返し練習してきた通りに再現する。
靴音が静かに響く。
一歩進むごとに、部屋の空気が少しずつ変わり、研ぎ澄まされていく。
先ほどまで窓をわずかに軋ませていた風音も、いつの間にか静かになっている。ルイが歩くことに、この世のすべての要素がひれ伏しているのではないかというほど、静寂だった。
窓から差し込む光がルイの纏う衣の金刺繍を輝かせた。重厚感のある外套は、歩みに合わせて裾が緩やかにはためく。
アルバートもルース、レオナルドも、いつの間にかその姿にただ見入っていた。
そこにいるのは、確かに“王”だ。
ルイは止まり振り返ると、静かに、ゆったりと、周囲へ視線を投げかける。
式典用の挨拶を口にした。
声は静かに、しかし確かに響く。
凛としていて、柔らかく、まっすぐな熱を帯びていた。
わずかな沈黙。
アルバートが、ゆっくりと微笑んだ。
「……見事だ、ルイ。今のは“王”そのものだった。」
レオナルドは背筋を正したまま、見張っていた目を微かに細める。
「陛下、申し上げにくいのですが……。
いまのルイ様は、私が仕えてきた“陛下”よりも威厳がありましたね」
「な......!?」
「冗談っす」
驚くアルバートと軽口を言うレオナルドのやりとりに、ルースも口元をわずかに緩めた。
「そもそもお二人は瓜二つですし、これであれば誰一人違和感を覚えません。……完璧です。」
ルイは少し頬を赤らめ、息をついた。
「……なんか、背中がむずむずするな」
明日はいよいよ式典本番。
ルイはアルバートと比較すると髪が短いため、明日はつけ毛をつけて臨むことになっている。正装のための準備に時間がかかるため、いつもより早い起床になると伝えられ、ルイは早めに眠りについたのだった。




