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「王の影」とは俺のこと!〜背中を押されたら〜  作者: 大木 雫


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17/22

サンセティアの歴史と今

 豊かな鉱石と肥沃な大地に恵まれた土地を、一から開拓したのが初代サンセティア王。


 そして、サンセティアはみるみるうちに繁栄し、民や周辺国からは“神の加護を受けた国”と呼ばれるほどになった。

 サンセティアの資源をめぐって、他国から攻め入られることも度々あったが、強大な魔術を操るサンセティア王とその臣下たちの力により、決して侵攻を許すことはなかったとされている。


 そして小さな国土ながら高い経済力を持っていたこの国は、8代目の王以降から国力をより高めるために,

少しずつ他国への侵攻を始めた。

 また、この頃からどこからともなく「この世には『魔力核』と呼ばれる魔力の源があり、魔術を操る全世界の者はこの魔力核から放たれる魔力を得て操作している」という話が生じ始め、それは急速に世界に広まり、自国のものにせんと考える国々による戦乱の世が始まる。


 魔力核の話になると、アルバートが補足を入れた。


 「魔力核の話は、今では信じていない者も多い。実際どこにあるのかはいまだにわからず、存在を証明されていないからな。民の間では、ただの伝説的な扱いになっているだろう。

 しかし、魔力の多い一部の者ーーーー正確には体内に受け入れられる魔力量が極めて多い者は、体感として魔力核の存在を感じ、信じている。

 僕もその一人だ。魔力は僕自身から生まれるものではなく、外部から流れ入ってくる感覚が確かにある」


 操れる魔力量の多いものほど体感的に魔力核説を信じているため、強大な魔力を操る王のいる国や魔術が発展した国ほど、激しく魔力核を求めた。世界的な魔術戦争とも言える。


 そしてかつて「サンセティア王国」だったこの国は、今から5代前の王から「帝国」を名乗り始める。その後も戦いは勝ち続け、サンセティアは周囲の国々を吸収し続けた。


 アルバートはカップに注いだ茶をひと口飲み、遠くを見るように語り出す。


 「とくに前王――父は、“狂王”と呼ばれ、戦の天才だった。強く、そしてあまりにも戦を好み、異常な速度で国土を拡大した。

 当時、表立っては帝国の威光と称えられたが――その影で、どれだけの血が流れたか、誰も数えていない」


 サンセティアは領土拡大のために、いくつもの小国を滅ぼす。一部には形式上、国の名前を残して『属国』という扱いとなった国もあるが、それらも含めて実質的な“サンセティア帝国の所有地”は大陸の5分の1を占めるまでに拡大。


 「国土拡大と共に、内部は多くの傷を負い続けていました。先代陛下の代よりも以前から蓄積していた傷も治さぬまま、“膿”となってしまっていたのです」


 ルースの静かな語りに、塁は疑問を口にする。


 「“膿”って?」


 アルバートの声が静かに重なる。

 「戦を行うたび、勝つたび、民の多くは疲弊した。侵攻のために大切な人を失った人も多い。そして前王の時代までは、支配された側は“敗者”として生涯を生きていく道しかなかった」


 亡国で生き残った者は、労働力や兵として徴用。ーーーーまだ年若い少年少女も。


 帝国に奴隷制度はないが、敗戦国の民をまるで奴隷かのような扱いをしている地域もあった。そして帝国に反意を示した者は、容赦無く粛清され、見せしめのため公開処刑される。


 属国にも帝国軍が設置され、属国出身の者たちは“帝国民”の下に置かれた。属国とは名ばかりで、帝国で管理が仕切れなくなりつつあったため国主を残したまで。実質の支配だ。帝国中央部の目が行き届くわけでもなく、軍が属国の政治に介入し好き勝手やっていた。


 「我々は勝者として生き残ったが、勝つたびに“誰か”を踏みつけてきたんだ。

 奪った土地、奪った民、それを統治するという形で抱え込んだまま、膨れ上がったのが今のサンセティア帝国だ」


 アルバートの言葉に、ルースが補うように言う。


 「広すぎる領土は、統治の難しさを生みます。

 地方の領主たちは税を誤魔化し、民を飢えさせ、反乱を恐れて更に締め上げる。

 戦で心に傷を負った民は、悲しみから逃れるために、敗戦国の生き残った者たちへと矛先を向ける。徴兵された敗戦国出身者の中には、他の者にも自分たちと同じ想いをさせたいと戦に赴き、次なる敗者を虐げる......そんなことが、全土で起こっているのです」


 「要するに、どうしようもなく腐っていたーーーーいや、今も腐っているんだよ。この国は」

 アルバートはそういい、苦笑した。


 「でもねルイ、それでも僕はこの国が好きなんだ。そしてこの国を正すのは、王家に生まれ、こうして生き残った僕の責務だと思っている」


 確固たる意志を宿した瞳を向けられ、目が離せない。


 「僕は――剣ではなく、知で国を導く王でありたいと話たろう?戦をしない王でありたいんだ。武力で押さえつければ、いずれまた恨みが芽吹く。

 だから私は、いずれ属国や植民地を“独立国家”として手放すつもりだ。だがそれは今ではない。今手放しても、民が飢えるだけだ」


 「......ええ。ですからやることは山積み、そして前途多難なのです!!」

 突然、ため息混じりの低い声が耳に入った。

 声のした方向を見ると、いつの間にか室内に宰相ヴァロウがいた。話を聞くのに夢中になりすぎていて、入室に気づかなかったようだ。


 ヴァロウの眉間には深いシワが寄っており、アルバート同様に濃いめの隈が目元に宿っている。

 

 「民が豊かに生活できるようになるには、全土的に制度整備を進めなくてはなりません。

 不正を働いている領主は取り締まり、好き勝手やっている地方軍、属国配置の軍も是正せねば。これだけ国土が広がっていますから......数十年以上かかるでしょう」


 「それも、」とレオナルドがやや呆れたように口を挟む。

 「各国を吸収して成り立っている今のこの国では、地域によって民の風習や考え方がバラバッラ。場所によっちゃー言葉すらも全く違いますから。

 それらを考慮しながらの整備になりますからね。ここには現地に元から住む者の協力が欠かせないっつー話になるんですが......まず協力を得ることすらも簡単じゃねえっていう状況ですわ」


 「なるほど......」


 (今日話を聞いてよかった。こんなに大変な状況なのか、この国は)

 同時に、この困難を乗り越え、アルバートの意思を叶えようとしているアルバートの臣下達に、熱いものを感じた。

 

 塁はつい胸に熱いものを感じていたが、アルバートの声に現実に引き戻される。


 「戦で傷ついた民の心を癒す必要もある。戦争孤児が十分な生活と教育を受けられるよう、孤児院や教育機関の整備なども進めているが......まだまだだ。ほかに優先すべきこともあり、後ろ倒しになってしまっているからな......。子供を育てることは、未来を育てることだというのに......」


 悔しさの滲むアルバートの姿に、レオナルドが慰めるようにそっと肩に手を置いた。


 「ところによっては職がないことで貧困に拍車がかかっている地域も少なくなく、現在新たな公共事業を立て、雇用創出に取り組んでいます。今後は、元々経済が回っていなかった小国の領地も、豊かにして暮らしに不自由がないように整えなくてはなりません」

 ヴァロウはそう説明した。さらにアルバートが言葉を継ぐ。


 「何より、国全体の意識改革が大きな課題だ。

 これは単なる政策実施よりも、ずっと長い時がかかるだろう。私の代で成し遂げられるとも限らない。

 旧サンセティア王国国民による敗戦国出身者への差別をなくし、敗戦国出身者にはサンセティアへの恨みを手放し・希望を感じてもらわないとならない。

 長きにわたる戦乱の世で「力こそ正義」という価値観を持つ戦狂いの男たちも多い。彼らに、平和を尊ぶ心を知ってもらう必要もあるだろう」


 敗戦国者たちは帝国を憎み、帝国民も彼らを恨み、見下している。どちらの不満も、火種になり得る。


 「それでも、やらねばならない」


 次に聞いたアルバートの声は穏やかだった。


 「誰かが止めねば、この国はまた戦に戻る。

 父が残した“狂気の王道”を断ち切るのは、私の役目だ」


 静寂。

 ルースがコポコポと、追加の紅茶を俺たちに注いだ。その音が、今の塁にはとても心地よかった。

 サンセティアの歴史と現在の話を聞いていたのは、ほんの10分かそこらだろう。しかし、その中身は俺の胸に重く残り、長い長い夢を見ていたような感覚だ。


 ルイはその光景を見ながら、小さく息を吐いた。

 (……理想と、現実か)

 貴族たちの嘲笑と、アルバートの穏やかな声が頭の中で交錯する。


 やがてアルバートが立ち上がり、ふぅと息をつき、塁に向き直った。


 「ルイ。この国に興味を持ってくれたようだから、お試しで軽い影武者任務をやってみないかい?今後ずっとやれという話ではない、お試しでね」

 アルバートは足を組んだ膝に自身の左肘を乗せて前屈みになり、軽くウインクをしてくる。

 キザな動きだが、どうにもはまっている。さすが王族だ。


 「えっ、うーんお試しかあ。俺にできる程度ならいいんだけど......座ってるだけとか......」


 アルバートが口元を上げる。

 「なあに、式典で軽く挨拶をするだけの、簡単な役割さ」


 「あ、挨拶......」

 塁はヒクリと笑みを浮かべた。

 だがその胸の奥では、不思議と拒絶の感情はなかった。


 ――この国のことを、もっと知りたい。

 その思いが、塁の心の奥で静かに灯り始めていた。

いよいよ物語が深まっていきます。

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