アルバートの来訪
この国のことをもっと知りたいという塁の一言に、ルースは軽く目を瞬いた。
「......では、ご朝食の後にお時間を頂戴してもよろしいでしょうか」
国に関して知りたがる理由を聞くことはなく、アルバートは部屋を後にする。塁は内心ほっとした。昨日の貴族の陰口についてはあまり触れたくなかったからだ。
塁はメイドが運んでくれた朝食をもぐもぐと頬張る。今日もオムレツからほかほかと湯気が立っている。塁がオムレツを気に入っているのをルースが調理場に伝えたのか、ある時を堺にオムレツを毎日の朝食のラインナップに加えてくれていた。
朝食を食べ終わり、窓の外を眺めているとーーーーー。
「おはよう、ルイ〜〜〜〜!」
部屋の入り口からアルバートの何やらうれしそうな声がし、塁が完全に振り返る前に背中にドスンと衝撃が伝わる。アルバートが背中に張り付いていた。
「ついにこの国に興味を示してくれたのだね。僕はうれしいよ!さすがは僕のルイだ!」
ぎゅむぎゅむと背中から抱きつかれ、アルバートが身につける爽やかな香水の香りに包まれる。アルバートは塁の肩に頭を乗せ、頬を擦り寄せていた。彼のボブヘアーのサラサラ髪が、塁の首元をくすぐる。
「う、ぐ...ぐるしい......くすぐったい......」
「ああすまない、ついね、うれしくてね」
ニコニコとしたまま、アルバートが離れる。振り返ると、部屋にはルースとレオナルドもいた。
「俺が今朝ルースに話を聞きたいとかいったから来てくれたんだよな。仕事は?大丈夫なのか?」
塁が話を聞きたがっていることを受け、ルースがアルバートにも声をかけたのだろうと察し、少し申し訳ない気持ちになる。
「ははっ、気にすることはない。ヴァロウが快く引き受けてくれたからな」
満面の笑みで言うアルバート。それを見てレオナルドが苦笑いする。
「“押し付けてきた”の間違いっすけどね。宰相殿、すごい顔してましたよ?まぁ、なんだかんだ彼は陛下に甘いっすから。そんなに嬉しそうになされていては、止めるなんてできないでしょうよ」
ルースは塁、レオナルドはアルバートのためにそれぞれ椅子を引き、着席を促した。
「さて、ルイはどこまで知っているのかな?まずはルース、君から改めて“この国”を、ルイに話してやってくれ」
「……では、まずこの国――サンセティア帝国のはじまりからお話ししましょう」
彼の声は落ち着いていて、まるで長い年月の記録を読み上げるようだった。
「サンセティアは五百年前、もともとは小さな王国として誕生しましたーーーーーー」