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第8話 12話/朧気

第8話となります。

ご意見ご感想などお待ちしております。

私とガブリエル・スプリンゴラとの手合わせは学園中で翌日には噂となって広まった。


その内容もエミーナに片想いしているガブリエルが彼女と仲の良いグヤコールスに嫉妬して手合わせを望んだと。


どうせ誰かが好き勝手に流した噂だ。


噂の内容は「真実が6割、嘘が4割」と言いたいところだが、私としてはそんな噂などどうでも良かった。


とにかく元凶の一人であるガブリエル・スプリンゴラを叩きのめす機会を得たのだ。


時戻りの前はあの男には辛い思いをさせられた。


勝手にパルダビュー王子に失礼を働いたと文句を言われて場合によっては殴られたこともあった。


エミーナの前で何度も恥をかかされてしまったことか。


いや、あの男に絡まれたその理由もパルダビュー王子との容易ならない関係だったのだから許せるはずもなかった。


「ねえ、本当に大丈夫なの?」


エミーナは私のことを心配してくれていたが、時戻りの前の事を知っている私とっては彼女の親切心は余計なお世話だった。


「別に大丈夫さ」


「本当に?」


「うん」


エミーナの心配をよそに私は早く手合わせ当日になることを望んだ。


それ以降の私は手合わせに向けての準備を進める。、


私はペラック先生の元でのいつも以上に訓練を積む。


いつもと違う様子だったのだろうか。


ペラック先生も私に様子が気になるようで「何かありましたか?」と尋ねてきたが、私は無理して作った笑顔で「大丈夫です」と答えるのみに徹した。


べラック先生もそれ以上は何も言わなくなった。


両親や執事のピエールも私の様子がおかしいことに気付いていたが私はいつもと変わらない態度で彼らに接した。


学園では先生たちは私とガブリエルの手合わせの件は知れ渡っているのに誰も止めようとはしなかった。


担任のドイチュマン先生だけは私に声をかけてくれた。


「先生方は誰もあなた方を止めないように言われています。あなたスプリンゴラ家に何かしましたか?」


なるほどと思った。


どうやたガブリエルは親の力を使って学園に手を回したようだ。


つまりガブリエルが親まで使ってこの手合わせをしたいと願ったと知る。


私が大怪我をしても問題ならないようにしたいらしい。


それはそれでこちらとしては願ったりと言う思惑も出る。


しかしと考える。


・・・もしかして、あの男も時戻りをしたのか?


だが、ガブリエルからはそんな雰囲気は読み取れなかった。


「僕は何もしていません」


「誰がどう見てもガブリエル君は君に一方的な敵意を向けています。何もないとは思えないのですが?」


「それはきっと手合わせをすればわかるかもしれないです」


「そうですか・・・」


ドイチュマン先生は残念な表情を浮かべた。


きっと私とガブリエルの手合わせを止めたいのだろう。


「大丈夫です。怪我のないようにしますから」


私は心配するドイチュマン先生に礼を言った。




手合わせの当日になった。


私とガブリエルは授業が終わると校舎裏にある広場で対峙した。


それぞれの手には訓練で使われる柔らかい木で作られた剣がある。


私とガブリエルの手合わせの話はすでに学園の一番の話題になっていたので、広場には多くの生徒がこの手合わせの結果を知るために見物客として見に来ていた。


その中にはエミーナの姿もあった。


彼女は少しこちらを睨んでいるようであまり良い感じではなかった。


それ以外の見物客はどちらが勝つか予想したり、女性陣の中には私とガブリエルの容姿を比べる者たちもいた。


人と言うのは他人同士の争うが本当に好きだとつくづく思う。


そう考えればあの断罪劇も彼らにはそれもまた一興に過ぎなかったのかもしれない。


貴族階級や経済階級の悪いところだ。


「グヤコールス・ペパリッチ、待っていたぞ」


ガブリエルは剣を肩に踏ん反り返っている。


よほど剣術に自信があるようだが、実際はどれほどの腕なのかはすぐにわかるはずだ。


「うん」


私は冷ややかな目でガブリエルの様子を伺う。


目の前にいるガブリエルは相変わらず私を睨みつけていた。


その態度を見ると何かきっかけで心が乱れると見た。


「逃げなかったことは褒めてやる」


「そうか。じゃあ、さっさと終わらせよう」


私はガブリエルの挑発など少しも気にせずにけろりと答えた。


「なんだと!?」


ガブリエルが私の態度が気に食わなかったようで、大声で叫びながら木の剣を構えた。


・・・ほら、動揺した。


私は心の中で苦笑する。


今のガブリエルは怒りに取り憑かれてしまっている。


私はペラック先生の教えを思い出す。


剣術は常に冷静でならなければならない。


特に剣を合わせる前は相手を見極めることで自分の身を守ることができるものだと。


何より私は二十歳から戻ってきた心の持ち主だ。


この男はどんなに腕に覚えがあっても落ち着いて戦える自信はある。


ガブリエルは雄牛オクスの構えと言う一般的な姿勢になると剣の切っ先を相手に向ける。


これは相手に対して突きや斬り込んでいく一般的な構え方だった。


その様子は基礎をしっかりと積んでいるようだ。


ただ、まだまだ腰に力が入っておらず下半身が不安定だとわかる。


この男は走り込みをしていない。


だから構えや打ち込みしか考えが足りていない。


そうなると私のやることは変わらない。


私は頭の上に剣を構えた。


べラック先生曰く<上段の剣>と言われる先生が考えた構えだ。


この構えはべラック先生の考えたもので「どんな突きが来ようとどんな斬り込みがあろうと体全体を使って攻撃に対処しながら最初の一撃を大きく与えることのできますよ」と自信を持って薦めてくれた剣術の一つだった。


「なんだよ、その構え方・・・」


ガブリエルはこの構えを見た事がなかったようで目を大きく見開いていた。


私は動揺するガブリエルなどお構いなしに「始めようか」と急かすように言う。


「俺を馬鹿にするな!!」


怒りに任せたガブリエルは猪突猛進、私に対して向こう見ずに猛烈な勢いで突進してきた。


ガブリエルの剣先が突きになると私の喉元に向かう。


やはりか。


ガブリエルは最初から私に大怪我を負わせるつもりだ。


しかし動きは遅かった。


日頃から森や裏山で走りながら実戦さながらに打ち込みをしている私には問題なくこなせる動きだった。


私は冷静に体を少しずらしてガブリエルの剣先を躱すと彼はバランスを崩して前のめりになった。


あまりに簡単に私に避けられたのが許せなかったのか、ガブリエルは振り返ると今度は私に向かってまた突きを繰り出してきた。


・・・突きが甘すぎる。


何度もガブリエルの突きを躱しながらそう思うとべラック先生は凄い人だ。


先生の突きは至る場所から現れると自由自在に剣を操って相手を翻弄する。


ガブリエルは真逆だ。


考えもせずにただ突きを繰り出すのみ。


こんな男に私は斬られたのか。


私は怒りがこみ上げてきたのを実感する。


その後も私に攻撃を躱されたガブリエルはさすがに息切れを起こしていた。


「く、くそ・・・」


息をぜいぜいさせながら態勢を整えようとするが体と心が疲労でついていけていなかった。


もうそろそろいいだろう。


私は無言のまま上段に剣を構えたままガブリエルに向かって一気に駆け込んだ。


そして、剣が握られているガブリエルの両手に力の限り私自身の剣を叩き込んだ。


大きな乾いた音と共に痛みで短い悲鳴を上げたガブリエルは苦悶の表情になる。


私はさらにガブリエルに足をかけて畳みかけるように地面に倒した。


さらなる痛みで蹲るガブリエルを私は見下ろす。


「終わりだ」


ついに制裁の時間だ。


私はガブリエルの背中に向けて剣を叩き込んだ。


大きな打撃音が広場に響き渡った。


ガブリエルに何度も剣を叩き付ける私の姿に周囲にいた皆が目を背け出した。


「ひぃ、やめてくれ!」


地面に蹲り顔を両腕で隠したガブリエルは許しを得るために嘆願するが、私はさらに二度、彼の背中に剣を叩き込む。


そんなことなどお構いなしに私は制裁を続ける。


自分の怒りがここまでのものだと信じられないほどに。


「駄目、グヤコールス!」


群衆の中から私を止める声が聞こえたかと思うと、エミーナが私に駆け寄ってきた。


「グヤコールス、もうやめて!」


エミーナが私の両手を掴む。


「どいて」


私は彼女を見ると冷ややかな視線を浴びせる。


「駄目。これ以上やると問題になるわ」


「構わない」


私の返事にエミーナは首を横に振る。。


「違う、彼を見て」


エミーナがガブリエルに視線を向けると私も自然と彼へ目を向ける。


そこには痛みと恐怖で地面で身を委ね泣いているガブリエルの姿があった。


「見ればわかるでしょ、あなたの勝ちよ」


そう言われた瞬間、彼への制裁の気持ちは萎えてしまった。


「わかるでしょ」


そう言うとエミーナは私が握っていた剣を無理やり奪った。


「行きましょう」


私はエミーナに引っ張られる形で広場から連れ出された。




エミーナに連れ出されて広場から誰もいない廊下まで連れ出された私はそこで彼女から説教を受けた。


「さすがにあれはないわ」


エミーナが呆れてしまっている。


「グヤコールス、あなたが強いのはわかっているけどあれはいけないわ。あいつに対して容赦無さ過ぎ。無抵抗の相手にそれも無防備な背中を叩くなんて剣術を習っている者ならやってはならない行為よ」


確かにエミーナの言う通りだった。


時戻りの前の制裁に口実としてガブリエルを追い込んでしまった。


興奮のあまりに私は我を忘れてしまったかもしれない。


「あいつがあなたに何で絡んで来たかは知るつもりはないけど、それとは別にグヤコールス、あなたがここまでやった理由ってあるんでしょ?」


「・・・理由は許せなかったから」


「許せなかったって・・・あいつ、あなたに会うの初めてだったんでしょ?」


そう、ガブリエルと会うのは初対面だ。


だからエミーナには時戻りの前の事が理由など言うつもりはない。


もちろんエミーナも場合によってはガブリエルと同じ事をするかもしれない。


「彼は剣術を蔑視していた。それが許せなかった理由だよ」


私はその場を見繕うためにあえて嘘を言う。


「その気持ちはわかるよ。あいつはあなたをただ叩きのめすためだけに親の力まで使って手合わせができるようにしたわ。まぁ、あなたを闇討ちとかしない分だけいい方だったけど」


エミーナもガブリエルの行為は気付いていた。


彼女もその事に怒っていた。


「でも、あなたは違うでしょ?私、あなたと剣を合わせた時に思ったわ。素直に剣術が好きなんだって。だから、あいつに対してやった事を止めないと思ったわ」


エミーナの言葉に私はどう反応すればいいのかわからなくなった。


本当に目の前にいるのはエミーナ・ナイトレイなのか。


頭の中が混乱しそうになる。


「約束して、今後はこんなことはしないって」


エミーナの真摯な態度は私は反論できなくなる。


「わかったよ。今後はああいうことはしない」


「本当ね?」


「うん」


私は素直に頷くのみだった。


今回の件はエミーナに言い負かされてしまった。


だが、彼女の言うことは至極当然のことだった。


「じゃあ、行きましょう」


エミーナが私の手を掴むと強引に引っ張りながら歩き出した。


「どこへ?」


急な事に私は戸惑った。


「職員室」


「どうして?」


「あいつとの手合わせの件はちゃんと報告するのよ」


私が言われるがままにエミーナに職員室に連れて行かれた。


そこで彼女は私とガブリエルの手合わせの件を先生方に話した。


今のエミーナは曲がった事が嫌いな性格になっていた。


私は無言のまま彼女の様子を眺める。


時折、ドイチュマン先生が私を見ながら安堵の笑みを浮かべていた。


ドイチュマン先生は生徒思いの方だ。


私に何もなかったことにほっとしているのだろう。


結局、今回の手合わせの件は後日、双方の聞き取りでその日は収まることになった。


後にガブリエルは保健室で手当てを受けた後、すぐに家族の元に戻ったと聞いた。


その時のガブリエルは涙が止まらずずっと嗚咽を上げてむせび泣いていたそうだ。


きっと私に敗れて悔しかったのだろう。


私としてはそれなりに時戻りの前の制裁は出来たし、ガブリエルに実力の差を見せつけられたことに満足できていた。


その日の帰り際、エミーナが私にこんな事を言った。


「どこで剣術を習っているの?」


私が「ペラック・ベルドリッチ先生」と答えると彼女は「嘘でしょ!?あの達人で有名な!?」と大層驚かれてしまった。


べラック先生ってそんなに有名だったんだ。


「あなた、いつからペラック・ベルドリッチ先生のところへ通っているの?」


「十歳から」


「じゃあ、3年間もずっと通っているのね。凄いじゃない!」


エミーナはしきりに感心していた。


その姿はとてもあの断罪劇であの王子の側で怯えていた同じ女性だったとは思えない。


これも時戻りの影響だと思った。




私が断罪されるまで残されたのは8年。


まだエミーナを突き放すことができない自分がそこにいた。

・グヤコールス・ペパリッチ

この物語の主人公です。12歳になり中等学園の生徒になりました。

断罪劇の関係者、ガブリエル・スプリンゴラとの手合わせで勝利しましたが、

エミーナのと関係に戸惑いを感じています。


・ガブリエル・スプリンゴラ

時戻りの前、断罪劇の時に主人公を斬り捨て致命傷を負わせた一人。

親まで使ってグヤコールスを倒そうとしましたが逆に負かされてしまい

心にトラウマができたかもしれません。


エミーナ・ナイトレイ

主人公の元婚約者です。

ガブリエル・スプリンゴラと手合わせをした際の主人公の行動に怒っているようで

主人公を説教したりするほど正義漢の強い女性になっています。

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