第7話 12歳/反動
第7話となります。
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入学式が終わった後、私はお祖母様に手紙を送った。
まず、エミーナ・ナイトレイと再会したこと。
時戻りの影響が出ておりエミーナ・ナイトレイの性格が変わってしまったことを。
お祖母様はすぐに返信があった。
お祖母様の考えでは私が時戻りの時とは違う行動を起こす時、時間軸が本来の未来とは違ってしまうとその反動で別の時間の進みが起こってしまった。
そのため私に関係する人々にも影響が出ているのではないかと。
私の記憶が所々に抜けがあるのもその影響だろう。
ただし断罪劇の結果を知る限り、運命に抗い回避を選択した私の責任ではない。
誰であろうと死から逃れるのは当然の行為であり私が何も気にすることはない。
お祖母様は私が思い悩まないよう言葉を選んでくれていた。
そして、お祖母様はエミーナ・ナイトレイの内情を調べてくれた。
まず、ナイトレイ家は高貴貴族でありエミーナは公爵令嬢であった。
この辺りは私の記憶の限りでは時戻りの前の変わっていなかった。
となるとエミーナは性格だけ変わったと言うことなのだろうか。
その後も私は手紙を読み続ける。
そこにはエミーナの時間軸が書かれていた。
手紙ではエミーナは幼少期に流行り病になり生死の境を彷徨ったと言う。
その後、病気から快復したエミーナは自らの意志で剣術の道に入った。
・・・エミーナが?
私には信じられないことだった。
エミーナは剣術など興味のない一介の令嬢だった。
彼女は付き合った頃はショッピングやティータイムを楽しんだり、他人の恋の話に興味を持つ年頃の女の子だった。
そんな彼女の姿は想像できない。
つまり、エミーナに変化が訪れた。
そのきっかけは病気になったからのようであの性格もその影響なのかもしれない。
お祖母様の手紙は最後にこう書かれていた。
「近々、ペンダントの件は進展があるかもしれません。その時はすぐに連絡しますね」
お祖母様も変わらずペンダントの件は気に続けていた。
時戻りの件はお祖母様にも影響があるようだ。
・・・確かにこれも反動かもしれない。
私の行動は確実に周りに影響を与えていると自覚する。
◇
入学から一週間が経った。
私のクラスの担任はドイチュマン先生と言う男性だった。
時戻りの時とは違う担任だったが、大人しそうで真面目な先生だった。
「来週は実力テストがあります。皆さん、頑張りましょう」
実力テストは入学式のオリエンテーションの時に話に出ていた。
まず、生徒の基礎知識を知るために行われるものだったが過去の知識がある私には復習さえすれば問題なくこなせる内容だった。
・・・ここで手を抜くかどうか。
それはあの王子から身を隠す手段だったが、ここで逃げるのはどうなんだろうか。
優秀な生徒のまま王都に進学すればパルダビュー王子と会う確実は高まる。
目立つことはよろしくない。
とは言え、私は剣術使いを目指すと決めている。
この頃には私にはペラック・ベルドリッチと言う大きな目標もできていた。
べラック先生のように強い剣術使いになるためにも逃げることは許されない。
私は悩んだ末に手を抜かないことにした。
実力テストの結果は当然、私は首席だった。
前世の記憶があるのだから、これは当然の結果だった。
廊下に貼り出された成績上位者50名のリストの中に私の名前を見たクラスメイトは感嘆の声を上げた。
一方、エミーナの方は39位だった。
時戻りの前の彼女は勉学が悪くなくいつも一桁代にいたのだが今回は剣術を学んだ影響か勉学の実力は落ちていた。
「凄いじゃない」
貼り出されたリストを見ているエミーナが声をかけてきた。
「うん、ありがとう」
私は素直に答える。
「君も凄いじゃないか」
「そう?私はあなたよりもう少し上だと思ったんだけど」
エミーナは負けず嫌いで私に負けたのが悔しがる。
「でも、剣術なら負けないわ」
そう切り返すエミーナは相当に剣術に自信があるようだ。
「その時は覚悟なさいね」
エミーナの自信満々の笑みに私は心の中で苦笑した。
◇
そして、私とエミーナは剣術の授業で剣を結んだ。
結果、私は彼女から有効打を3本奪って大勝した。
「なんで剣術も強いのよ!!」
エミーナが悔しさのあまり大声で叫んだ。
・・・いや、十分に強いと思うけど。
むしろ、彼女の実力は本物だった。
剣術の授業は自ら希望した生徒のみで行われる。
エミーナはその中で唯一の女子生徒だった。
剣術の講師も最初は彼女のことを侮っていたがその考えはすぐに覆された。
エミーナはすでに基礎が出来ており同学年の男子生徒の多くが彼女に敵わなかった。
その自信があったのだろう。
エミーナはすぐに私に手合わせを願ってきた。
「私が勝ったらランチを奢りなさい」
「う、うん」
なんとも言えない戸惑いを覚えながら私はエミーナと立ち会った。
その結果、私はエミーナに勝利をした。
「頭も良くて剣術の腕も強いって卑怯よ!!」
と言われてもこちらが困ってしまう。
剣術はべラック先生仕込みだし、今年からべラック先生の元で実戦経験に近い訓練も積み始めていた。
実際に本物の剣を手にべラック先生の道場の裏山や森を走り回りながら剣を振っていた。
もちろん手合わせをするのはべラック先生だ。
実戦経験さながらの訓練に私の腕はより実力をつけていた。
だから、エミーナとはそもそもの実力が違う。
だが、彼女は私の実情など知るはずもない。
目の前で悔しがる彼女の姿を見るとうんざりしてしまう。
「わかったよ、ランチを奢るよ」
私は面倒くさくなりエミーナを慰めることにした。
「いいの?」
「うん」
私の返事にエミーナは嬉しそうに立ち上がると「じゃあ、休日に行きましょう」と勝手に日程を決めた。
・・・なんだ、この生物は。
これはあのエミーナなのかと改めて思った。
やはり、剣術の授業は取るべきではなかったと私は後悔してしまった。
同じ頃、私の剣術の腕がエミーナと共に知れ渡ると私に絡む者も現れた。
その中に一人だけ会いたくない人物が現れることになる。
「お前がグヤコールスだな」
私を睨みつけるその生徒はどこかで見たことのある人物だった。
「そうだけど?」
「俺と手合わせしろ」
その生徒は語気を強めながら私に詰め寄った。
「名前を言わないとは失礼だと思うけど?」
「なんだと!?」
自分の名前を言わない事ほど失礼な事はない。
つまり、この生徒は所詮、そこまでと言うことだ。
「君は誰?」
「俺はガブリエル・スプリンゴラだ」
その生徒は私をより強く睨みつけながら名前を告げた。
私はその名前を聞いた瞬間、すぐにガブリエル・スプリンゴラの事を思い出した。
・・・私を斬った男じゃないか。
私の心に動揺が走る。
あの時、斬られた胸の箇所は疼き出す。
いや、疼く理由はそれだけではない。
何故、この男がここにいる?
私の記憶ではこの男は高等学園で出会うはずだった。
だが、ガブリエル・スプリンゴラに中等学園にいる。
時戻りの影響はここでも起こっていた。
そして、私の感情にどす黒いものが漂った。
ここでトラウマを一つ解消するには良い機会かもしれない。
今ここでこの男を倒そう。
それも徹底的に心が折れるまでに。
「いいよ。相手になるよ」
私はあの時の復讐を決意した。
私の態度が変わったことにガブリエル・スプリンゴラは気付いていない。
彼は私を変わらず睨むことに徹していた。
「では、明日の放課後でどうかな?」
「いいだろう、お前の実力などへし折ってやる。覚悟しろ!」
ガブリエル・スプリンゴラはそう言うと私に肩をぶつけながらその場から離れていった。
「大丈夫?」
すぐにエミーナが私に駆け寄る。
「・・・まだ婚約者気分か」
「えっ?」
やりきれない悪感情が肥大してか、エミーナに対して私は聞き取れない小さな声で独り言を呟いた。
「どうしたの?」
私の冷たい態度にエミーナが戸惑っている。
・・・お前も同類。
そう思えるだけで私の心は冷ややかになってしまった。
「ねえ、大丈夫?」
「・・・あ、ごめん」
私は何とか自分の心を落ち着かせる。
あの断罪劇の日、パルダビュー王子の隣で笑みを浮かべたいたのは一体、誰か?
決して、あの光景を忘れることはできない。
いくら時戻りの影響で性格が変わっていても心を許す訳にはいかなかった。
エミーナは不安そうに私を見ていたが、私は挨拶もそこそこに屋敷へ戻った。
その日は両親とも食事は取らず私は部屋の中で一人になると憎しみや苛立ちを抱えながら明日に備えた。
私が断罪されるまで残されたのは8年。
ついに運命の歯車が動き始めた。
・グヤコールス・ペパリッチ
この物語の主人公です。12歳になり中等学園で断罪劇の関係者と再会します。
・ガブリエル・スプリンゴラ
時戻りの前、断罪劇の時に主人公を斬り捨て致命傷を負わせた一人。
前回はパルダビュー王子とは肉体関係があり、主人公への嫉妬と王子への愛を示すために主人公を斬りました。今回は主人公と出会うのは早くなっており、主人公に対して難癖をつけてきました。
エミーナ・・ナイトレイ
主人公の元婚約者です。ガブリエル・スプリンゴラと会った主人公の態度の様子を見て戸惑っています。