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新緑の森の君へ10

 ユーファと行動を共にしていたマクレガー家お抱えの平民の魔道士の証言によれば、ユーファが襲われていた森は王都から丸1日以上離れた距離にある、マクレガー家の寄り子の領地とのことだった。休憩もそこそこに直走りたどり着いたその家で、魔道士が魔力切れを起こしたため、予定を変更して滞在延長していたのだという。そして夜半にユーファミアの殺害命令が出され、同行していたマクレガー家の騎士が彼女を追いかけたというのが、後に判明する事実だ。


 しかしながらユーファミアを王宮に連れ戻した直後は、すべての真実はまだ明るみになっておらず、事態は混乱を極めた。ただ、あの場にいた男たちがマクレガー家の家紋がついた剣を握っていたことを見抜いていた私は、すべてメラニア・マクレガー、またはマクレガー家が仕組んだことと看破し、ひとまずバルト伯爵とカイエンを呼び出した。彼ら義理の親子も共謀している可能性も疑い、手始めに別々に拘束する強硬手段をとったが、ほどなくしてカイエンが自白を始めたことでバルト伯爵は釈放、代わりにメラニア・マクレガーを拘束すべく行動した。だがカイエンの自白のみで物的証拠がなく、宰相や近衛総長の妨害もあり糾弾しきることができなかった。


 諦めの悪いメラニア・マクレガーはその後、王太子妃選定会議にまで乗り出し、嘘八百を並べたわけだが、こちらにはそれを証明する手立てがない。ここにきてあの森で男どもを焼き尽くしたことを後悔したが、それを表沙汰にすればユーファが暴かれたという事実無根の不名誉に繋がりかねなかった。ぎりぎりのところで婚約者にはユーファが内定したが、すべてを(つまび)らかにすることは叶わず、後味の悪い結果となった。


 だが事態は、卒業式後のパーティの場で大きく動く。メラニア・マクレガーがユーファミアを襲わせた事実を逆手にとろうと画策したが、魔道士の証言とカイエンの働きによりその目論見は崩れ去った。加えて彼女自身がユーファミア殺害の嫌疑をかけられることとなった。


 ユーファに想いを寄せていたカイエンが最後の最後で再びこちらの味方をしてくれたのは、私への贖罪ではなく、ユーファへのその想いを断ち切るためだったのだろう。ユーファを先に王宮に帰し、マクレガー親子との最後の対決に挑む私に、彼はある物を差し出した。


「メラニア嬢が用意した契約書です。ユーファミア嬢の署名のほかに、父親であるマクレガー侯爵のサインもあります」

「なんだと……? だがこの契約書は」

「お気づきの通り、無効です。まだ成人していないユーファミア嬢の単独のサインに効力はありません。それ以上に……」

「――わかった。カイエン……すまない」

「……いえ」


 ご苦労だったとか、助かったとか、ほかに相応しい言葉があったのかもしれない。それなのに口を出た言葉は、謝罪とも礼ともどちらともとれる挨拶だった。カイエンの罪が表沙汰になることはない。彼は未だバルト伯爵の息子で、学院を次席で卒業した優秀な側付きのままだ。


 だが我々が言葉をかわすことは二度とないだろう。私はどうしたって彼を許すことができない。それは立場的にもだが、心情的にもだ。


 ユーファを譲ることは断じてできない。たとえ相手が、最も信頼する男だったとしても。


 頭を垂れたまま不動のカイエンに最後の一瞥を投げて、私はマクレガー宰相が待つ部屋の扉を叩いた。







次回マクレガー宰相との対決の裏側です。

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