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学院の学期について、前期は9月ー1月、短い休みをはさんで後期は2月−6月。7月8月は夏休みです。カーティスとユーファミアの誕生日は6月。カーティスの方が2週間ほど早い設定です。
季節は4月を迎えていた。春のやわらかな日差しが王都中を包み、芳しい花の香りがどこからともなく漂ってくる。私が王都にきて6回目の春だ。
学院は後期課程のため、通学は週に1度。行きの馬車の中で殿下は変わらず外を眺め、私は膝に目を落とす。学院に着けば待ち構えていたかのようにカイエン様とメラニア様がやってきて、3人で教室に移動するのを後ろからついていく。幾度となく繰り返された光景を見るのもあとわずかだ。殿下の誕生日は6月の頭。その日、私は王太子宮を辞し、マクレガー領へと発つ。
見るのが辛かった殿下とメラニア様の姿だったが、いつの間にかそれも苦ではなくなっていた。愛する殿下の姿を見られるのもあと2ヶ月だと思うと、恋人とのツーショットだってずっと眺めていたいと思う。我ながら見事なこじらせっぷりだ。
実家には手紙で、卒業後の進路が決まったことだけを伝えることが許された。検閲が入る手紙で詳細が書けないことは母も承知している。せめて安心させてあげたいとそのことを書き記すと、思わぬ返事が帰ってきた。連絡役のバルト伯爵から私の詳細を伝える手紙が別に届いたのだそうだ。「おめでとう、本当に誇らしく思う、あなたなら大丈夫、どうか幸せに」と娘の巣立ちを喜ぶ言葉が連なっているのを見て、やはり実家に寄生するのでなく自立の方向に舵を切ったことはよかったのだと改めて感じた。
卒業論文の仕上がりも順調で、私はかつてないほど穏やかな学院生活を送っていた。
そのまま月日は飛ぶように過ぎ、とうとう殿下の誕生日の前日を迎えた。
すなわちそれが、私の契約満了日だった。