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旅の23~30日目


どーも。つい先日、悪役令嬢を演じて、今は、真っ白に燃え尽きているイザベラ・ハムレットでっす。まだ、王太子妃の身分は剥奪されていないから、王家のハムレット姓ですよ~。


現在、悪役令嬢を演じていたところをエリックに見つかってから一週間と少し経ったところです。何故こんな事態になるのか、この世界の強制力の強さに慄きつつ、馬車で王都に連行されています。隣には完全に無表情で無言の怒れるエリックがいて、これまでにない、断罪の危機を感じています……。


さてさて、あれから辺境伯領であったことを、お伝えします……。






山の麓の村の争いの際に見た、リリーと一緒にいた、紫色の長い髪の男性は、隣の公国の神官だった。そして、なんとクレアさんの弟だったらしい。


公国では、この国の王家の横暴を訴えるアルフレッド様に求められたということで、公国の王家がこの国を攻める準備をしていたらしい。しかし、公国の神殿は王家の言い分を信頼できず、この国の実情を調べるため、神官であるクレアさんの弟をこの国に派遣したとのこと。


そして、クレアさんの弟は、この国の辺境伯領に来て、王立学院出身で、この国中に知り合いがいるリリーと知り合い、この国中を案内してもらうことにした。リリーの案内でこの国中を見たクレアさんの弟は、公国の王家やアルフレッド様が主張する様な、王家の横暴はないと判断し、王都で、エリックを始めとするこの国の王宮の人間に相談した。


タイミングのいいことに、王宮には、辺境伯領で捕らえられ、王都に送られた特別顧問がいた。クレアさんの弟が、特別顧問に状況を話すよう説得したところ、母国の神官の言葉は重かったようで、アルフレッド様をハニートラップに仕掛けて脅したことや、すぐにでも公国の王家は争いを起こそうとしていることを吐露したとのこと。そこで、皆で辺境伯領に急いでやって来て、山の麓の村で、我々と公国の人間が争っているのに出くわした、という訳らしい。




その話を聞き、やはり、今はRPG風乙女ゲーム「光の国~Road to Revival~」の続編の世界だったんだと確信した……。


ヒロインであるリリーの活躍は勿論のこと、ゲームの舞台も、私の知る前作での王立学院を中心とした王都から、続編の世界ではこの国中とスケールが大きくなっている。ヒロインが旅をするのであれば、旅先で出会ったことにすれば、新旧の攻略対象も出し放題。しかしながら、ストーリーの主軸は変わらず、前作同様、ヒロインの成長を描きつつ、外国の陰謀を止めるものになっている。


うんうん、ゲームとしては、前作ファンの私もプレイしたくなる。


納得するけれど、それなら、悪役令嬢もイザベラ以外にアップデートしても良かったんじゃないですかねえ……。






山の麓の村から辺境伯領の街に戻ると、今回の事態を王宮から聞かされた、アルフレッド様のご両親である公爵夫妻が来ていた。アルフレッド様を優しく抱きしめ、重圧をかけてしまっていたことをアルフレッド様に詫びていた。


ついでに、私の父であるアームストロング侯爵も来ていた。そして、私は父に激しく叱責された……。


こんなこと、王太子妃がしてはいけないのは分かるよ。分かるけど、立場もしでかしたことも、アルフレッド様も私も同じようなものなのに……。


アルフレッド様のことを、悪役仲間だと思ったけれど、どうやら違ったらしい。アルフレッド様の裏切り者め……。






エリックは、公国の神官であるクレアさんの弟、レイモンド公爵、辺境伯らと、王太子として今後の話し合いを開始した。国王陛下からも、ここでの判断を一任されてるみたいだ。


私も何かできないかな、と思っていたけれど、まだ私への容疑が晴れていないのか、王宮から来た護衛と一緒に待機するよう言われ、仕事は任されなかった……。


護衛という名の監視……、なんか前にも同じようなことがあったような……。


アルフレッド様も、メルヴィンも、山の麓の村の皆も、エマら侯爵家の人間も、私は公国に寝返るつもりはなかったと証言してくれたのに。エリックの私への不信感が根強い……。






そんなわけで、再び、財団の別邸を借りて、王宮の監視を受けつつ、ダラダラと時間を持て余していると、リリーとダニエルが会いに来てくれた。


リリーは、リリーのお母さんから、私がリリーの学友だと名乗ったのを聞いて、喜んでくれていた。

潤んだ目で嬉しそうに、何度もそのことにお礼を言われると、いい気になってしまって、友達になりたいと言ったら、快諾してくれた。ついでにダニエルも友達になってくれるという。


リリーはともかく、ダニエルには、幼い頃、平手打ちをしてしまったことがあるのだけれど、水に流すということでいいのか確認したら、険しい顔だったけれど、頷いてくれた。騎士に二言はないよね? うん、良かった!






メルヴィン、若頭、クレアさん、サラも来てくれた。


皆は、エリックに着替えさせられた、王家の品位を感じさせるドレスを着て、王家の護衛を連れた私を見て、本当に王太子妃をしているとようやく信じてくれたようだった。


聞いてみると、私のことは王宮で非人道的な扱いを受けている諜報員だと思っていたらしい。実家の家業から遠からずなところが、何とも……。アームストロング侯爵家は、一応、非人道的な雇用はしていないはずだけれど……。


まず、クレアさんが、弟と再会できたことを嬉しそうに教えてくれた。クレアさんの弟は、私がリリーにプレゼントした、サラの刺繡入りのストールとリボンを見て、クレアさんが辺境伯領にいると察したらしい。すごい偶然もあるものね。ヒロインがなせる技だろうか。


何にしても良かった、と思ってニコニコしていると、皆から申し訳なさそうに、エリックと私が話していたところに、口を出したことを謝罪された。

確かに話は多少拗れたかもしれないが、皆は優しさで言ってくれたわけだし、そもそものきっかけを作ったのは私だし、エリックは皆が何か言う前から怒っていたし、どうせ悪役令嬢だし……。


強がりだったが、笑って「気にしないで」と言うと、皆から痛ましそうな顔をされ、メルヴィンに言われた。


「殿下は随分とこの件で思うことがあったようで……。仲直りできればいいが……」


そして、メルヴィンが私の護衛についている人間に声を掛け、護衛の視線を反らした。その瞬間を狙って、若頭、クレアさん、サラから小さな声で言われた。


「もし身の危険があれば、ここに身を寄せてください」

「私は公国の王家から逃げた経験があります。山にあるとっておきの隠れ場所を案内します」

「私達、その時こそ、命を懸けて、イザベラ様を守ります」


皆の厚意は嬉しいが、ちょっと怖くなってきた。やはり、客観的に見ても、私は危機的なのだろうか……。






さて、そんなエリックは、一緒に来た宰相補佐と共に、すごい勢いで話をまとめている。そんなに急いで全部片づけようとしなくても。辺境伯領もいいところだし、もう少し、ゆっくりしていってもいいんじゃないかな……?


まあ、公国の王家が侵攻しようとしてきたという状況を考えると、悠長になんてしていられないのは当たり前で、私が物事を先送りしたくて思っているだけなのだけれど……。


そして、良いのか悪いのか、色々なことがうまく回って、話がまとまっているようだった。




公国に脅されていたアルフレッド様は、公国の手口や、この国に潜む公国の人間を洗いざらい教えてくれて、その全員を王都の騎士団で捕えることができた。


公国の諜報員養成所にいたというクレアさんと、公国の神殿で神官をしているというクレアさんの弟は、捕らえた隣国の諜報員を説得し、公国の王家の命であったことを証言させ、企みを吐かせ、一部を公国の神殿やこの国に寝返らせた。


企みを暴かれ、やけになった公国の王家が攻めてこないよう、王都の騎士団とアームストロング侯爵家の騎士団が、辺境伯領に応援に来てくれたので、辺境伯領の街や国境沿いの山の麓の村の警備は万全になった。悪徳業者が公国と繋がっていたことを知る、辺境伯領の人達は、公国への不信感もあり、突然やってきたにも関わらず、皆が、王都の騎士団とアームストロング侯爵家の騎士団を全面的に歓迎した。


また、息子が嵌められていたことに怒るレイモンド公爵を中心にして、クレアさんの弟が紹介してくれた公国の神殿の人々と共に、無用な争いを起こそうとしていたと、公国の王家を糾弾した。外交が得意というだけあって、公爵は、公国周辺の諸外国と共に圧力を掛けている。公爵は、派閥の領袖らしく、身内中の身内が害されたことにすごく怒っていて、公国の王座がこちらが満足する人間に入れ替わるまで、徹底抗戦する気みたいだ。




事情聴取のため、皆が集まる辺境伯の屋敷に呼ばれた。行くと、王都から来ていた宰相補佐とばったり会った。


来るべき私の断罪はさておき、色々うまく回っているみたいなので、「良かったですね〜」と言うと、胡乱な目、というか、気味の悪いものを見る目をされた。何故。






そして、悪役令嬢を演じてしまってから一週間経った日、エリックの「大体片付いたから、王都に帰るよ」という一言で、その日の夕方に、エリックと私は辺境伯領を発ち、王都に戻ることになった。




辺境伯領を去る際、ヒロインであるリリー、公国の神官、クレアさん、若頭、サラ、メルヴィンが仲を深めた様子で、朗らかに手を振ってくれた。アルフレッド様、辺境伯、クリフ様、ソフィア様、副団長、ダニエルも見送ってくれた。


馬車から見る景色は、エンドロールのようだった。物語は、大団円を迎えたみたいだ。


そう、エリックと私を除いて――






こんな訳で、現在、私は、王都に向かう馬車の中、エリックの隣でガクガクブルブル震えているのである。


王都に戻る前、エマに促された父がやって来て、神妙な顔で「一度、侯爵家に、帰ってきてもいい」なんて言ってきた……。あの冷酷な父ですらそんなことを言い出すなんて……。これはそんなにまずい状況なのだろうか……。


帰ってきてもいいって、離縁されるの……?






二泊三日の辺境伯領から王都への帰路を経て、王宮に辿り着いた時、それまでずっと無言だったエリックがポツリと言った。


「……辺境伯領では頭に血が上っていたけれど、ようやく冷静になれてきたよ。ずっと逃げていたけれど、戻ったら、今後の話をしよう」

「え……」




王太子宮に帰ると、使用人への挨拶もそこそこに、エリックに手を引かれ、一室に連れられた。旅に出る前、毎日、エリックも私も、一日の終わりを過ごしていたエリックと私の寝室だった。


寝室の鍵を閉めたエリックが大きく息を吐いた後、口を開いた。


「最初に、どんな選択をしても、イザベラの不利にはならないようにすると、約束する」

「え……」

「公爵家派から妃をという話もある。今のタイミングで、上手く話を持って行けば、私の有責ということにもできると思う」


エリックは俯き、続けた。


「イザベラがどうしたいかを聞かせてほしい。身分を戻して、侯爵家に戻るのでも、身分と立場を変えて、辺境伯領に行くのでも構わない。イザベラは、これから、どうしたい?」




これは、王太子妃はクビだと告げられている? だから、今後の身の振り方を考えろということ……?!


さあっと青褪めながら、とっさに悲鳴交じりに言った。


「こっ、ここに、変わらずいたいですううう……!!」


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