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11歳


皆様、御機嫌よう。スパイ教育真っ最中の侯爵令嬢で、悪役令嬢予定のイザベラ・アームストロングでっす。


テンションのおかしな挨拶でごめんなさいませ。何を隠そう、私は、かつてないほど、幸せに満ち溢れた毎日を送っているのです。

というのも、エマという友人に加え、可愛い弟ができたのです。一歳年下の十歳で、名前はエリック・アームストロング。






もっとも、弟といっても、父と母の間に私という子がいたように、父に新たな隠し子が見つかったわけではない。エリックは養子として、アームストロング侯爵家にやって来た。

どこかの家のお家騒動で骨肉の争いに巻き込まれて追い出されたということで、子供が私しかいないアームストロング侯爵家で引き取る事にしたらしい。


あんな冷酷な見た目に中身の父に、新たな隠し子が見つかっていたなら、女性にどんな無体を働いているのかと、ただでさえ良く思っていない私の父への評価が、地に落ちるところだった。




義弟となったエリックは、線の細い、金髪碧眼の正統派王子様といった容貌だった。所作も洗練されていた。


エマが銀髪に赤目という、アニメのヒロインみたいな見た目なので、エリックとエマが寄り添って話しているだけで絵になってうっとりしてしまう。二人を見つめては、眼福ってこういうことなのね、と実感する毎日だ。


にしても、何故、異世界に転生したというのに、私は黒髪に黒目なの……。いや、そもそも、何故、悪役令嬢なの……。


そんな感じで、うっかり、神を恨みたい気持ちになることもあるけど、まあ、それは置いておこう。




そして、エリックの性格は、純粋培養の箱入り息子だったことが分かる、純真で素直なものだった。更に、教養があり、勉強も得意だった。


最初こそ、元々いたという家で骨肉の争いに巻き込まれたからか、悪人顔の父に連れてこられて怯えていたからか、引きつったような笑顔や不安げな姿が多かったけれども、お菓子を持って行ったり、エマと一緒に屋敷の近くを案内したりしていると、徐々に慣れてきたようで、最近では明るい笑顔を見せてくれるようになった。


私の言うことを一生懸命聞き、「はい、義姉様」と真っ直ぐな目で返事をしてくれる姿を見ては、「はあああ、かわいい!」と、つい、心の声を駄々洩れさせてしまう。姉の威厳はいずこ。でも、可愛いから、いい!!


可愛過ぎて、色々な顔が見たくて、私やエマが、本当のような嘘の話をついつい織り交ぜてしまうのに、驚いた顔で聞く姿がたまらない。好きな子を虐める小学生男子か……と自分の精神年齢の低さにげんなりするが、止められない。

もっとも、エマの話は、どこまで本当なのか嘘なのか、私も分からない話が多いんだけどね? 私の侍女になるための試験が、狼との一騎討ちだったっていうのは、流石に嘘だよね……?






容姿も性格も良く、能力もあり、無限の可能性を秘めた、こんな天使みたいなエリックに、私が受けているような、スパイになるためのアンダーグラウンドな教育を受けさせてたまるか……と父の様子を注視していたが、意外なことに、エリックは通常の貴族子息として教育を受けているようだった。


父も、エリックの可愛さに絆されたのだろうか? いや、それとも、女性の方が、スパイとして使いやすいと思っているのだろうか? もしや、娘として引き取った私に、女の武器を使わせる気なのだろうか……?

流石、クソ親父。やはり、女の敵だ。


語学、歴史、護身術を三人で学んだ後、続きはエマと私だけ、別室に連れていかれる。表向きは礼儀作法ということになっているが、実際は毒と暗器の使用方法の座学に実践……。


スパイ教育について、「エリックには言うな」と父に口止めされたけど、こんな血なまぐさいこと、清らかで私の癒しのエリックに言う訳がない。


だが内心を隠して、口止め料として、『訓練の後、エリックやエマと遊ぶ権利』や『街に行く権利』や『屋敷でパーティーをする権利』などを父からもぎ取っている。






あ、救護院、孤児院は、気づけば領地中を見て回ることになった。領地内の福祉は、領主の仕事でしょう?! 父め、手を抜いて、子供に丸投げとは……。


そうは思いながらも、監査の依頼がひっきりなしにくる上、真面目に監督しないと、困る人がいるので、真面目にしている……。

することは、救護院や孤児院から必要な物を聞いて、侯爵家の人間に伝えることと、目についたところの掃除とかなので、子供でもできるしね。


ただ、スパイ教育に加えて、領地中の施設を回るというのは、割ときつい……。

なんとかしないと、悪役令嬢になる前に、過労死してしまうのでは……。本気でなんとかしなければ……。


ちなみに、領地の救護院、孤児院を回るときは、エリックとエマもついてきてくれる。漏れなく掃除つきだけど、文句一つこぼさない。立派だ。

何処に行っても、文句ばかり言っているのは、私だけ……。






まあ、そんな毎日なので、エリックとエマと遊ぶのが、貴重な癒しの時間で、それを楽しみに、日々を過ごしている。


屋敷の裏には森があり、そこで、エリックとエマと一緒に駆け回ることが多い。鬼ごっこやかくれんぼをするのだけれど、異様に楽しい。前世の記憶があっても、精神が、肉体に引き摺られ、幼児に戻っているのかな……。


あとは、やたらサバイバル能力が高いエマ指導の下、キャンプをすることもある。自然を感じながら自分たちで手を動かすのも、とても楽しい。キャンプファイヤー、木の実の採集、釣りから、野生動物の狩りまですることもある。

それにしても、エマ曰く、『家の方針』ということらしいけど、エマが何でもできるのを見ていると、私にスパイができるか自信を失うわ……。


また、エリックの誘いで、屋敷の使用人から紅茶とお菓子を入れてもらい、可愛らしいピクニックをすることもある。おいしい紅茶とお菓子を木陰の下で食べて、小鳥のさえずりを聞きながら、昼寝をするのは、ゆっくりして最高に癒される。

それにしても、私が屋敷の使用人に頼んでも「旦那様から禁止されています」「食事は決まった時間に」なんて言って、全然リクエストに応えてくれないのに、エリックが頼めば百発百中、ピクニックセットを準備してくれる侍女やメイド達って、どういうことなの……。




悪役令嬢の威厳はどこ?!


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