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旅の19~21日目


辺境伯領にやってきて十九日目になった。


メルヴィンやサラを中心に、皆で大急ぎで準備を進めた、山への日帰りツアーと街での祭りを、今日から開催する。




早朝、メルヴィンとサラが、興奮した様子で、我々の滞在先にやってきた。私は、二人に思い切り腕を引かれ、街に連れられた。


街の広場は、早い時間にも関わらず、多くの人で溢れていた。それを見て、三人で顔を見合わせて笑った。


二人に急いで連れられたので、フードを被っておらず、思いっきり、黒髪黒目が出ていたけれど、見た目のことで、私に奇異の目を向ける辺境伯領の人はおらず、私達三人は「楽しみにしてる」と次々に声を掛けられた。




その足で、メルヴィンとサラと一緒に、リリーの家族が営む食堂に行き、注文したランチボックスを受け取りに行った。乙女ゲームファン丸出しで、ヒロインの生家の食堂に迷わずランチボックスを注文したけれど、リリーの家族からすると、いきなり、こんなたくさんの注文をして怪しかっただろうか……と思い、リリーさんの学友です、と自己紹介した。すると、リリーに似た可憐な笑顔で挨拶をされ、不在を謝られた後、「リリーと仲良くしてくれてありがとう」と言ってもらった。


ちょっと話したことがあるだけなのに学友とか図々しかったかな、と思ったが、同級生ではあったし、数日前、リリーも、私と王立学院で同級だったことを覚えているみたいだったし、ぎりぎり許されるだろう。許してほしい……。




山への日帰りツアーと街での祭りは三日間、行うことにした。私は一日目と三日目に山への日帰りツアー、二日目に街での祭りにスタッフとして参加した。




ツアーでは、街から馬車に乗って、山の麓の村に向かった。


綺麗な山の美しさに、街の人達は感嘆していたし、商いをしている人は、山の美しさに加え、新たな取引を見込んで、「定期的に街から馬車を走らせてもいいのでは?」と盛り上がっていた。


ツアーに来た人達を、村の中でも、景色がいいところに案内し、リリーの実家の食堂で作ってもらったランチボックスと村でいれたハーブティーを配った後、少し外れたところで、若頭や侯爵家の皆、財団の人達と昼食を食べた。


雑談中、財団の人達に若頭に綺麗な奥さんがいることを言うと、若頭は照れたように顔を背けた。山賊のような風貌の若頭が、どうやってあの綺麗なクレアさんと知り合ったのか、野次馬根性丸出しで、何度も馴れ初めを聞いたところ、渋々、山で行き倒れていたので、助けて嫁にした、と教えてくれた。思った以上に山賊っぽい馴れ初めだった……。

でも、若頭は奥さんを心の底から大事そうにしていたし、奥さんも信頼を寄せていた。うん、きっと想い合っているのだろう。


考えてみれば、私だって、正統派王子様のエリックを誘惑して結婚したと思われているみたいだし。悪役顔は苦労するよね……。


人は見た目じゃない。地顔が怖い仲間なのに、失礼しました。




街の祭りでは、山の麓の村にある教会の聖杯や山の名産を展示したり、村で作ったハーブティーやハーブの練り込まれた焼き菓子を売り出したりした。街の店も、この機にそれぞれの店の商品を売り出し、街は賑わった。


先日、たくさん買い物をしたので、上客だと思ったのか、街の店の人達からあれこれ声を掛けられた。もう先日みたいな買い物はできないので、ハッキリ言っておこうと思って、「お金は全部使って、なくなった!」と伝えると、街の人達から同情するような目で見られた。そして、可哀想に思われたのか、食べ物を色々貰った……。


食べ物は有難く受け取り、祭りの裏方として働いてくれている人達や、こんな祭りの日にも、財団の一角で報告書を仕上げてくれたりしている人達と、美味しく食べたけれど、複雑だ……。




ツアーでも祭りでも、笑顔が溢れていて、私はそれを間近で見ることができた。


辺境伯が領土を上げて私を迎えないことを、エマは怒っていたけれど、今となっては良かったんじゃないかな。王太子妃だってばれたら、動きにくいし。

リリーは旅に出ちゃったから、辺境伯領で私が王太子妃をしているって知っているのは、辺境伯夫妻、王都の騎士団、ソフィア様ら財団の人達、クリフ様くらい? あ、あとは、アルフレッド様か……。


アルフレッド様は屋敷の中にいるところを、侯爵家の人間が確認している。

でも、街が祭りで賑わう中、アルフレッド様は、屋敷から一歩も出てこなかった。




三日間の山への日帰りツアーと街での祭りを終え、片付けをしていると、若頭ら山の麓の村の皆に、酒盛りに誘われた。ツアーと街での祭りが成功し、今回、街から商談をいくつか受け、今後の資金繰りが改善しそうだから、ご馳走してくれるとのこと。


是非、ご馳走になろうとニヤニヤしていると、メルヴィンに見つかって、「俺も参加する」と言われた。未成年だから駄目だ、と反対したが、酒を飲まなければいいんだろう!と押し切られた。「保護者の許可を取ってきてよ」と言ったが、メルヴィンの父である辺境伯は「ベラさんと一緒なら」と一も二もなく答えたらしく、メルヴィンの山の麓の村でのお泊りが決定した。まあ、そうなるか……。


メルヴィンが山の麓の村に来ると言うと、「だったら私達が案内する!」と言うサラら山の麓の村の子供達も参加することになった。


子供達を巻き込むことになってしまったけれど、辺境伯も村の皆も笑って許してくれたし、まあ、いいかな。


……そろそろお別れだし、私も名残惜しい。




村の人達を苦しめていた悪徳業者は捕まった。辺境伯は、王都の騎士団もしくは王宮の監督の下、悪徳業者の関係者を洗い出し、しっかり状況を明らかにすると言っていた。今回の顛末をまとめた、辺境伯領の憲兵と王都の騎士団の共同の報告書も、辺境伯と私が納得できるものが仕上がった。


明日にでも、辺境伯領の調査のため、王都から人が来るから、何名かを私の護衛に割いてもらうこともできるだろう。


二十日近く借りていた、滞在先も引き払い、飲み会が終われば、翌朝、王都に帰ることにした。






諸々の片付けを済ませ、村の皆が待つ、山の麓の村の教会に来た。


飲み会の最初に、明日、私やエマ達も、ここから去り、王都に戻ることを伝えた。メルヴィンも村の皆も、驚きつつ、別れを惜しんでくれた。


私達がいなくなるのに、惜しむだけでなく、村の人達は少し不安になる気配も感じた。その気配を感じ取ったメルヴィンが「俺は辺境伯の息子だ。あとは俺に任せろ」と宣言し、今まで一緒にいた少年が、領主の息子だと知り、場がわっと沸いた。


私やエマ達はお礼を言われ、食べ物と飲み物をいっぱい勧めてもらった。ワイワイと飲んだり食べたりしていると、若頭がそっと私に話し掛けてきた。


「……また、すぐに会えるよな?」


すぐに会おうね、と言えればいいけれど、一度、王宮に戻ったら、こんな気軽にここに来ることはできないだろう。


「仕事でちょっと連絡が取りにくいところにいることが多いから、次にいつ会えるかは分からない。でも、遠く離れても、貴方たちの幸せを祈っているわね!」




想定より長くここにいて、辺境伯領に住む人々と仲良くなれた。離れることに、寂しい気持ちは拭えない。


でも、周囲を見回すと、皆、笑顔で楽しそうだった。そして、サラが父母と一緒に笑い合う姿を見て、胸にじんと温かいものが広がる。本当に良かった!




私も戻ろう。エリックのところに帰ろう。遅くなったから、心配かけただろうな。小言も色々言われそうだ。


それでも、旅で気付いたことが沢山ある。戻ったら、いっぱい話をしたいな。


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