表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/52

旅の10~12日目


辺境伯領での滞在延長中の王太子妃イザベラ・ハムレットでっす。


王都に戻るのが遅れるのは、誘拐事件に巻き込まれたので、やむを得ずです! ええ、断固として、私が騒ぎを起こしたとかそういうことではありません。


エリックに向けた、辺境伯領での滞在延長を伝えるための手紙を書きながら、自分に言い聞かせる。






山の麓の村に住むサラやサラの両親である若頭とクレアさん、そして、村の皆から話をよくよく聞いてみたが、金貸しが、やはりクレアさんを無理やり連れ去って、望まない場所で働かせるようとしているとのこと。

また、村の皆が一様に、少額の借金だったのに、利息があっという間に膨れ上がって、返済が難しくなったと言っていた。この国では利子に上限が設けられていることからもおかしい。

色々と違法な気がしたが、片方の言い分だけを信じて動くこともできないので、アームストロング侯爵家から護衛に来てくれたエンリケにその金貸しを探ってもらった。そして、同時に、侯爵家から護衛に来てくれていたジェーンには、サラのお母さんであるクレアさんに変装してもらった。


クレアさんに変装することについては、エマが「私がする」と名乗りを上げたが、次期女侯爵が危険を伴う身代わりをしては駄目だと、皆で止めた。エマは「出来るのに……」と悔しそうだった。私には分からないプロフェッショナルとしての意地があるのだろうか。キュンとした。


翌日、サラ達が言った通り、金貸しが来た。そして、本当に強引な手段でクレアさんに変装したジェーンを攫っていった。




ジェーンにはそのままクレアさんのフリをしてもらい、連れ去られた先を確認した。


すぐにソフィア様夫婦が滞在している別荘に向かい、「刺繍の買い付けに行った王太子妃の侍女が誘拐された」と王都の騎士団の副団長でもあるソフィア様のご主人に助けを求めた。新婚生活が始まったばかりで申し訳ないと思ったが、山の麓の村の皆の話を聞くと、辺境伯領の憲兵を頼りにしてもいいのか、若干怪しかったので。

辺境伯領内の事件だと王都の騎士団の任務外だけど、王太子妃である私の関係者が巻き込まれたなら、王都の騎士団に動いてもらえるからね!


辺境伯領で、私達が勝手なことをしていないことを確認してもらうため、辺境伯領の憲兵も無理やり連れ出した後、騎士団の副団長と結婚式参加のため辺境伯領にいたダニエルらに、金貸しのアジトに乗り込んでもらい、金貸しを誘拐の現行犯として捕らえてもらった。


金貸しは、クレアさんじゃない人間を攫ってきて、捕まってしまったことに愕然としていたが、そもそも誰が相手でも誘拐なんてしなければ、こんな事態にはならない。誘拐するのが悪い。




さて、これでひとまずクレアさんが狙われることはしばらくないだろうけれど、私達が去った後に山の麓の村の皆が、報復を受けるような事態になってはいけない。どう次の一手を打つかと思っていると、アジトに大量の武器があるのを、王都の騎士団が見つけた。それを見た辺境伯家出身の副団長が、事態を究明したいと言った。


そこに、金貸しを探ってもらっていたエンリケもやってきて、やはり金貸しはこの国で禁止されている利子で金を貸していること、他にもこの業者からお金を借りている人がいること、怪しい相手との付き合いがありそうなことを教えてくれた。


故郷にこんな悪い人間がいれば、副団長も、落ち着いて王都に戻れないかないかもしれない。そして、金貸し、改め、悪徳業者は幅広く活動をしていそうだったので、しっかり根を絶っておかなければ、山の麓の村の皆が逆恨みされて、何かしらの不利益を被る可能性が高いと考えられた。


副団長の提案に全力で乗っかることにした。




その後、王太子妃が巻き込まれた事件ということで、王都の騎士団の騎士服をまとった副団長とダニエルら副団長の部下を引き連れて、辺境伯領の憲兵の本部に乗り込んだ。そして、現行犯の逮捕だけで済ませず、王都の騎士団と辺境伯領の憲兵で、徹底的に事態を明らかにするよう求めた。


辺境伯が王都に行ってしまったらしく、「辺境伯がいないので判断できない」とか「勝手にこの領土を探られるのはちょっと……」とか憲兵の団長は渋ってきたので、あまりしたくなかったが、「まさか、辺境伯が王太子妃の侍女の誘拐事件の調査を渋る可能性があるなんて」と驚いて見せた後、国王陛下や王太子殿下に告げ口しようかな、と匂わせた。


そこでようやく状況のまずさに気付いたようで、憲兵の団長は真っ青になって、王都の騎士団に調査いただくのはもちろん構いませんし、辺境伯領の憲兵にも調査を行わせてください!と言ってきた。




これで、辺境伯領で調査を行う形は整った。副団長を始めとする王都の騎士団には、思い切り調査して欲しいし、必要な場面では私の名前を使ってくれればいいと思っている。それでも、以後は、王都の騎士団には、可能な限り王太子妃の名前を出さないようお願いした。

副団長はこの辺境伯領出身だから、故郷を思う義侠心と受け取られるだろうけれど、他領出身、かつ、新米王族の私があれこれしてしまうと、恐らく要らぬ波風を立ててしまう。特に、辺境伯は王家と対立する公爵家派らしいし。


そんなわけで、私や侯爵家から護衛に来てくれた皆は、裏方に回ることにした。




憲兵を何処まで頼りにしていいか分からない状況なので、騎士団に加え、侯爵家から来てくれた皆にも事態の調査を当たってもらうことにしたが、調査を行うための人も物も足りない。

どうしようかな、と思っていると、ソフィア様がやってきた。ソフィア様はイザベラ財団の辺境伯領支部の一角を貸してくれた上、辺境伯領支部の職員を動員し、更に、付き合いのある福祉施設に声を掛けて、情報を集めてくれるという。そして、「最初から私にも声を掛けてください。水臭いです!」と怒られた。


結婚式を終えて、蜜月期間が始まったばかりで、夫婦揃って、仕事に引っ張り出すことになったのに、そんな風に言ってくれて、ありがとうございます!




辺境伯領の財団の支部の一角で、悪徳業者の調査を行っていると、リリーが家庭教師をしているという少年が街角に隠れているのに気付いた。名前はメルヴィンだったっけ?


先生であるリリーが旅に出て、暇を持て余しているのかもしれない。小間使いが欲しかったので、「お小遣いをあげるから、手伝いをしない?」と誘ったら、「そんなもの要るか!」と怒られた。そういえば、リリーを家庭教師として雇うくらいなんだから、お金持ちの家の子供なんだった。

でも、そんなことを言いながらも、やはり暇だったようで、財団の一角で手伝いをしてくれた。少年はこの領土のことにすごく詳しくて、何でも教えてくれて、思い付きで声を掛けたというのに、期待以上に頼りになった。




一応、私の命で動いてもらっているので、侯爵家の人間も、騎士団や財団の人達も、色々と相談に来たり、報告を上げたりしてくれる。

王太子妃の侍女の誘拐事件の立件をどうするか、金銭の借用書の契約内容の違法性、悪徳業者による他の被害の取りまとめ、辺境伯領の憲兵の調査状況とこちらの調査の比較により分かったこと、等々。


何となくこの忙しさは、アームストロング侯爵領にいた時に、身に覚えがあった。けれど、長らくこういうことから離れていた身には堪えた。


王宮での仕事はエリックにかなり手加減されていたみたいだし、言われたことしかしてこなかったもんね……。王宮から離れてみると、自分の駄目さが色々見えるなあ……。王都に戻ったら、もっとちゃんとしよう……。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ