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旅の4~6日目


ご無沙汰しております、皆様。イザベラ・アームストロング侯爵令嬢、改め、イザベラ・ハムレット王太子妃でっす。現在、再び悪役令嬢として登場中かもしれません……。


旧知の仲であるソフィア様の結婚式の参加のため、自然豊かな辺境伯領に来ると、私が前世でプレイしていたRPG風乙女ゲーム「光の国~Road to Revival~」のヒロインである可愛いリリーに出会った。

更に、何かに導かれるように、リリーの周りに格好いい男性陣が集まってきた。具体的には、王族の血を引く公爵家令息であるアルフレッド様、ソフィア様の弟で商人であるクリフ様、リリーの教え子であり、辺境伯領の少年であるメルヴィン君、騎士団長の息子で王都の騎士団に勤める騎士のダニエルだ。見目麗しいヒロインと男性陣、更に元・悪役令嬢である私が集う景色を見て、乙女ゲームの続編が始まっているのではないか……と閃いた。


今が、ゲームの続編の世界で、私は再び悪役令嬢として登場していると仮定して、私がプレイしたゲームの舞台である王立学院の学園生活以上に危機的なのは、話が全く分からないということ。これから起こることも、私が行う悪事も全く見当がつかない。


この状況で、どう対策をとればいいのか……。






この先に不安を覚えつつも、一日、休憩を挟んだ後、ソフィア様の結婚式に参加した。なお、旅の間は、辺境伯領にあるイザベラ財団所有の別荘を借りて、滞在することになっている。


結婚式は、辺境伯領の落ち着いた教会で静かに執り行われた。ソフィア様が商家の出だけどお相手は貴族家出身とか、ソフィア様が二回目の結婚だとか、色々な事情を踏まえ、大々的な式にするのは止めたらしい。

それでも、白いレースをふんだんに使ったマーメイドラインのドレスを身に纏っていたソフィア様は、最高に綺麗だった。控えめに言って、女神だった。

結婚相手の騎士団の副団長は大柄で逞しい男性で、でも、結婚式では緊張した面持ちだった。ソフィア様が安心させるように微笑まれ、副団長もそれを見てほっとしたように笑ってから、結婚の誓いをされるのを見て、尊くて泣いた。


なお、私は、エリックが手配した、澄んだ青地のドレスに金細工のネックレスを身に着けて、結婚式に参列した。鈍い私でも、これがエリックの色だとよく分かるくらい露骨で、気恥ずかしい。結婚相手の色を纏うとかよくあることだし、こんなものだ……と自分に言い聞かせるけれど、でも、色味も完全に再現されているし、離れていても、思いきりエリックを意識してしまう……。




結婚式の後、高い山々を臨む、自然豊かな辺境伯の庭で、立食形式での食事会が行われた。




辺境伯の弟であり、ソフィア様のご主人となった王都の騎士団の副団長に、ソフィア様と共に挨拶に来ていただいた。


「改めまして、王太子妃殿下。この度は、我々の結婚式にお越しいただき、ありがとうございます」

「こちらこそ、お招きいただき、ありがとう存じます」

「妻とは旧知の間柄と聞いております」


そう言われたので、ソフィア様が美しく、聡明で、思慮深く、忍耐強く、素敵な女性であると思っているか、エピソードを交えながら話した。本当に話すことがいっぱいあったので、ついつい予定外のことまで延々語っていたら、「もう、やめてください……!」とソフィア様に強制終了させられた……。私って話が長くなるタイプだったのね……。


あとは、私が育ったアームストロング侯爵領と同じ国境沿いの領地育ちということで話が弾んだ。ソフィア様との財団立ち上げの時の話でも盛り上がった。


一通り話し終え、やり切った気分でいたところ、最後に、エリックとの馴れ初めを問われ、ドレスの配色から「仲がよろしいんですね」と揶揄われた。ライフがゼロになる気分を味わった……。




礼装を身に纏ったクリフ様もやってきた。


「イザベラ様、今日は姉の結婚式のためにお越しいただき、ありがとうございます」

「とんでもありません。ソフィア様のためなら、喜んで!」

「姉も二回目の結婚で、幸せになりそうでよかったです」


その言葉から、そういえば、アームストロング侯爵領の福祉事業を手伝ってくれたのは、離婚して手が空いていたからだった、としみじみ思い出した。クリフ様はニコニコしながら、話を続けたが、その言葉に呆れた。


「イザベラ様も王宮の生活は窮屈ではないですか? 隣国である帝国の皇帝陛下も心配されていますよ。陛下の治められている帝国は処女性がこの国ほど重視されていないので、二回目の結婚でも大丈夫ですよ」


隣の帝国の皇帝陛下と仲がいいのは知っているが、私をスパイにさせるの諦めてなかったのか……と呆れた。というか、そもそもめでたい席で人に離婚を焚きつけるな、という気持ちで、じろり睨みつけながら、言った。


「ご心配には及びません。殿下には大変よくしていただいておりまして、仲も良好ですわ」

「はは、強引でしたか? まあ、こんな話も今日で最後ですよ。ここだけの話、皇帝陛下もご結婚を決意されたようで。陛下の友人を自負している私としては、恋を成就いただきたいところでしたが」


あとは隣の帝国の事業も軌道に乗ってきたので、新たな事業を始めたいだとか、クリフ様はそんなことを言いながら去って行った。隣国皇帝と私は遠縁になるらしいし、めでたいのかな。お幸せに!




また、ソフィア様のご主人の直属の部下というダニエルとも話した。すごく険しい顔をしていたけれど……。

ダニエルは、騎士団長の息子で、有望な騎士というだけでなく、実は、この国の名門侯爵家出身で跡取り息子だ。王太子妃として仲良くしないといけないと頭で理解はするものの、道は遠そうだ……。




他にも、辺境伯夫妻、この国有数の商家を経営するソフィア様やクリフ様のご両親、イザベラ財団の幹部と言葉を交わした。


そして、最後にソフィア様と抱き合い、一日を終えた。






翌日である旅の五日目は、辺境伯邸にて辺境伯主催の夜会がある。夜までは自由時間だ。


折角の機会ということで、侯爵家の皆と街歩きをすることにした。大道芸を見て、雑貨屋を冷やかし、屋台で買い食いをした。侯爵家時代の子供時代の街歩きを思い出す楽しさだった。




街を歩いていると、露店で淡い菫色の髪に濃い紫色の瞳の、簡素な服を着た可憐な女の子が、今にも倒れそうな緊張した面持ちで、何かを売っているのを見つけた。

覗いてみると、初めて見る、繊細で美しい刺繍が施されたストール、ハンカチ、巾着袋、リボンを売っていた。どれも隅に羽ばたく青い鳥の刺繍が刺されている。この子が刺したという印なのだろうか。


女の子は私が見ているのに気付くと、ぶるぶると震えながら「い、いかがですか?」と小さく声を掛けてきた。


女の子の様子が庇護欲を搔き立てられるものだった上、売っていたものは旅に丁度使いやすいように思われた。私の護衛に人を送り出してくれたアームストロング侯爵家の皆や、イザベラ財団の職員など、旅をすることが多いので、贈るのにちょうどいいかもしれない。

値段を聞くと思ったより高かったので少し驚いたが、今の私には払える額だったし、品もきちんとしていた。「全部買う」と言うと、女の子は目を見開いた状態で動きが止まった。その後すぐに、ハッと我に返ったようにお礼を言った。

とっても綺麗な刺繍で好きになったことと、大事な人達への贈り物にするということを伝えると、女の子は涙ながらに、再びお礼を言って、はにかみながら「お母さんと一緒に作ったんです」と教えてくれた。


こんな可憐な女の子一人で、路上で物を売っているのだろうか、と思って聞くと、山の麓の村から父親と一緒に来たらしい。お喋りをしていると、しばらくして、燃えるような赤色の髪に焦げ茶色の目の荒っぽそうな男性が寄ってきた。可憐な女の子の父親とは思えないくらい厳つい感じだったので、大丈夫かな……と思っていたが、女の子は男性を見つけると、ホッとしたように「お父さん!」と呼んだ。父親と呼ばれた男性が急いで駆け寄り、女の子を大事そうに抱き上げた。


二人の元から去ろうとすると、女の子は父親に、露店にあるもの全部を私達が買い取ったことを伝えたらしく、後ろからお礼を言う声が聞こえた。振り返ると、二人がこちらを見ていたので、笑顔で手を振って別れた。






その後、辺境伯主催の夜会に出席するため、夜会の会場である、辺境伯邸に行った。辺境伯邸は豪奢な装飾品で溢れていた。

下町育ちだった幼い頃の私にとってはお城みたいに感じていたアームストロング侯爵家の屋敷だけど、本当に貴族としては質素だったのね。勉強になります……。


昨日、結婚式で会った面々に加え、公爵家令息であるアルフレッド様を始めとする辺境伯に招待された貴族、ソフィア様の家族、イザベラ財団とトレメイン商会の関係者も来ていた。


会場を見回していると、人だかりの中に、目立つ金色の髪が目に入った。アルフレッド様だった。スマートで、いかにも貴族の付き合いが上手そうだし、いつも人に囲まれているなあ、と思わずじっと見ていると、アルフレッド様は、私に気付き、にこやかに近付いてきた。

一通りの挨拶を済ませた後、アルフレッド様は辺境伯領に広い別邸を構えているということでお誘いいただいた。明後日には王都に帰る予定になっているので、行けるか分からないと答えると、一歩近付いてきた。少し垂れ目で色気の溢れる顔で、目を覗き込みながら言われた。


「大変だね。イザベラ様ももう少しここでゆっくりして行ったら? 王都は面倒くさいことも多いでしょう」


言われてみて王宮での生活を振り返ったが、王宮での生活で面倒くさかったことが皆無だった。侯爵家時代の方が圧倒的にしごかれていた。

国事に携わる身分でありながら、面倒なことがないはずがない。エリックに手加減されていたんだろうな……。


アルフレッド様には苦笑いを返すことしか出来なかった。


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