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9歳


というわけで改めまして、前世記憶持ち、貧乏育ち、現・侯爵家令嬢、悪役令嬢予定のイザベラ・アームストロングでっす。




母の死を機に、侯爵家に引き取られることになった私は、なんと前世の記憶を思い出した。


前世、私は日本の商社に勤める会社員だった。死んだのは、仕事で行った外国出張で、トラブルに巻き込まれたのが原因だった。人使いの荒い会社でずっとこき使われっぱなしの人生だったな……とか、こんなところで命を落とすとは……とか、その時の後悔とかよぎった思いとかは色々あるけど、この世界のことには関係がないので、割愛する。


そして、その記憶を取り戻して気付いたのだが、私は前世でプレイしていた、RPG風乙女ゲーム「光の国~Road to Revival~」の悪役令嬢に転生したらしい。ゲームは、隣国との戦争で傷ついた国を舞台に、大切な人を失った登場人物達が、学園生活を送りながら、恋愛したり、国の立て直しのために励んだりするものだった。


ゲームの特徴は多彩なエンディングで、それが、私が前世でこのゲームにハマった理由の一つだった。


主人公は、母と兄を亡くしたピンクブロンドの髪に水色の瞳が可愛い、前向きな少女だった。

主人公は、ある時は、大切な人を亡くした若き医者と共に、一般市民にも開けた病院を作った。またある時は、戦争で、仲間が死んでいく中、生き残ってしまったことと折り合いをつけられないエリート騎士と共に、再び攻めてきた隣国と戦った。またある時は、王太子と共に国の復興を目指し、王宮の文官になった。


他にも幾多もの結末があって、ルートによって、主人公が関わるキャラクターも、主人公や周囲の未来も変わっていた。前世の私は、ルートを全て見ようと燃えたものだった。あと、どのルートを選んでも、イケメンに囲まれるというのも、控えめに言って最高だった。




主人公に多くの選択肢が与えられている一方、私、悪役令嬢・イザベラは、主人公がどんなルートを選ぼうと、主人公からヒーローを奪い、主人公どころか国を陥れようとする働き者悪役令嬢だ。


主人公には、様々な相手役と輝かしい将来のルートがあるというのに、悪役であるイザベラはあまりにもどのルートでも出てきて、同じようなことをするから、よく覚えている。もはや、ルートで変わるヒーローや友人よりも存在感があるので、ある意味、準主人公といって差し支えない。嬉しくないけれど!


侯爵家令嬢で、きつそうではあるものの美しい容姿を持ち、そして、プライドが高いイザベラは、可愛い主人公に嫉妬し、主人公からヒーローを奪おうとしたり、主人公を学園から退学させようとしたり、騒乱を起こそうとしたり、とにかくあらゆる手段で主人公の目的を邪魔する。

更に主人公がバッドエンドルート以外に入ると、イザベラは隣国のスパイであり、戦時中にも相手国に情報を売り渡していたことが明るみになり、追い詰められる。

最終的に、イザベラは逃亡、身分剝奪、国外追放、処刑、もしくは、自害……。






恐ろしいことにそんな未来を持つ私は、母の死により、ゲームの筋書き通り、侯爵家に引き取られた。引き取られたからには、ゲーム中のイザベラがそうであったように、貴族として激高なプライドを持つ少女に育てられていくのかと思っていたが、与えられた環境は思っていたものと少し違った。


まず、語学、歴史、礼儀作法を叩きこまれた。ここまでは貴族令嬢として想定されたので、違和感はない。

次に、地政学、護身術。この辺りになると、かなり怪しいが、辛うじて貴族令嬢としての教育と認めてもいい。

しかし、最後に、何に役立つというのか、文書の偽造方法、暗器の使用方法とその実践、毒になる薬草学の心得、毒になる植物を身に入れた時の耐性をつける訓練及びその対処方法にかなりの部分が割かれる。


もし、本当にスラムから来たばかりの世間知らずな少女であれば、これが貴族としての嗜みと信じたかもしれないが、流石に貴族令嬢の教育に必要なはずがない。


その怪しげで過酷なカリキュラムが、朝早くから夜遅くまで組まれている。




前世で社会人経験があり、かつ、イザベラの行く末を知っているこの身からすると、どう考えても、貴族令嬢への教育というより、スパイを育てる教育に思える……。


戸籍上、私の父となった侯爵からは、まだ何も言われていないが、この家は、家ぐるみで隣国のスパイだったのでは……。そして、事態が露見しそうになってイザベラだけ切り捨てたのでは……。






母を失った後で、更に周りに心を許せる人はなく、厳しい教育を受けることになり、精神的にも身体的にも、私は追い詰められていった。

そんな中、これだけ大変で、最終的に断罪されるとは、一体、何のために生きているのだろう……と自問してしまうともう駄目だった。


「こんなんだからイザベラも、悪役令嬢になってしまったんじゃないの……?」


泣き言を、ベッドの上で漏らした。


身も心も限界だった私はベッドから起き上がれなくなってしまった。動けなくなった私を、私の父と名乗る男はどうするのだろう、と自分の行く末がたまに頭を過ぎる。


しかし、疲れ果てた私には、どうせ破滅する身だし、捨てられようとこのまま野垂死のうとどうでもいいとしか思えなかった。




悪役令嬢に転生したのに、悪役令嬢になるところまで辿り着かないかもしれないと思うと、何だか笑えた。


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