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16歳


ある日、国境に隣国の兵士が攻めてきたという情報が入った。


すぐさま、父が、私とエリックを呼び出し、エリックは王都に行かせると言った。渋るエリックに、父は厳しい目を向けた。


「エリック、猶予期間は終わりだ。王都に行け。お前にはするべきことがあるだろう」


いつも素直なエリックが、父の命をきっぱりと拒絶した。


「僕だけなんて、絶対に嫌だ。絶対に僕が守るから、義姉様も一緒に来て! 一緒に来てくれないなら、僕もここにいる!」


エリックの姉を思う気持ちは嬉しく思うものの、同意することもできず、困ってしまい、父を見た。


「父様、私は……」

「エリックは王都に行き、お前はここに残れ。それぞれ、役目がある」


父のはっきりした言葉に、頷くことができた。


後継ぎのエリックは、前線にいるなんてせず、命を大事にしないといけないよね。私は、村の避難経路の相談とか色々してきたし、何かしら、ここでできることはあるでしょう。多分、悪役令嬢の出番が来るまでは死なないだろうし。


「義姉様、侯爵の言うことは聞かなくていい。こっちに来て!」

「イザベラ、エリックには家令を付ける。エリックの安全は心配するな」


エリックが必死に、父が落ち着いた様子で言った。心は決まっていたので、心配させないよう、笑顔をエリックに向けて、言った。


「エリック、私はここに残るよ。元気でね」




私がそう別れの言葉を告げると、エリックは見捨てられた子供のように、絶望的な顔をした。こちらの心も痛むものだった。エリックは俯き、少しの沈黙の後、憎しみの籠った目をこちらに向けた。


「僕は、もう貴女のことを姉だとは思わない。絶対に許さない。何も話してくれず、全て自分で背負ってしまう貴女が、これまでずっと憎かった」




憎しみの籠った目で私を見るエリックを見て、久し振りに、ハッと前世の記憶を思い出した。


金髪碧眼の美麗な王太子が、隣国に情報を売り渡していたイザベラを憎悪の目で見たのに、そっくりだった。






エリックが王都から来た迎えと共に去ったのを見届けてから、ドクドクと波打つ心臓の音を押さえながら、父に聞いた。


「……父様、エリックは王太子殿下ですか?」

「ようやく気付いたか。彼の本名はスカーレット・エルリク・ハムレット。この国の王太子殿下だ」


ゲームではスカーレット殿下と呼ばれていた王太子だ。確か権力者だけあって、王太子ルートの断罪が一番厳しかった。こんなところで恨みを買って、危機を迎えてしまうとは……。


こんな身近に脅威があったことに、気付かないなんてなあ、と自分の迂闊さに肩を落とした。体から力が抜けていくが、自分を叱咤して、何とか起立の姿勢を保った。


「父様は、エリックを正式な後継ぎ、私を駒に育てようと考えていらっしゃると思っていました」

「半分間違っていて、半分正しいな。エリックは王家からの預かりもので、お前がこの家の正式な後継ぎだ。お前は、私と同じ『王家の影』、この国の王家のために、裏の役割を果たす駒になるのだ」




スパイ教育は、この国の王家のためだったのか、と初めて知って驚く私に、父はなおも続けた。


「お前が、私を本当の父か信じきれていないのは知っているが、お前と私は血が繋がっている。お前の母と私は恋仲だった」

「父様と母様が恋仲……。自分にも他人にも厳しい父様と誇りが高過ぎる母様なんて、相性が悪過ぎる。破局が目に浮かぶようだわ!」


思わずがっくり項垂れる私に、父は鼻で笑った。


「そうだな。私か彼女に、お前のように無分別にあれこれ聞く図々しさがあれば、ある日、突然、彼女が私の元を去り、それきりになることはなかったかもしれない」

「ああ、なるほど。私を妊娠した母様が、父様に何も言わず去ったんですね」


むしろ、なんで付き合ったんだ……と思う二人だけど、男女の機微は分からないものだなあ。前世から、恋愛に縁が薄かった私には分からないことか……。初めて父と母に敗北感を感じたわ……。




それにしても、エリックとこんな形で、仲を違えることになるなんて、寂しいなあ。ずっとずっと可愛い弟で、私の癒しだったのに……。




とはいえ、落ち込んでいる暇はなかった。戦争が始まったのだった。


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