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15歳


重傷を負って、生まれて初めての長期休暇をもらった、悪役令嬢予定のイザベラ・アームストロングでっす。


生まれて初めての長期休暇がこんな形とは……。泣けるね!






王都の騎士団の前でぶっ倒れた上、エマ監視の元、絶対安静を厳守させられた私は、実態以上に重体だと伝わってしまったようで、エリック、ソフィア様、侯爵家の騎士団長、兵団長、村長協会(いつの間にかそんなのができたらしい)の協会長、更についでのおまけに、父までもが、王都のタウンハウスまで、お見舞いに来てくれた。


心配を掛けて、申し訳ない……。






また、私が怪我を負ったことは、侯爵領にまで伝わったようで、懐かしい面々から、手紙をいっぱいもらった。


領地の孤児院、救護院、各村からは、また元気な姿を見せてほしいと。

是非、行きたい! 孤児院も救護院も、ソフィア様や財団の人達のお陰で、環境が整っていて、今、私はどこに行っても子供達と遊んだり、流行りの遊びを聞いたり、楽しいことばかりだ。


アームストロング家騎士団、兵団からは、団員一同からの快癒祈願と、今度、一緒に鍛えようという一言。

彼らは、私が侯爵家のご令嬢だと忘れていないだろうか? まあ、鍛えていればこんなことにはならなかったという、彼らなりの思いやりなのかな……。


ガキ大将、もとい、ローガンとその家族からも手紙が届いた。

ローガンのお母さんからの手紙には、ローガンは勉学の道を志し、ゲームの舞台でもある王立学院への入学を目指していると記されていた。寄付金を積まないで学院に入学するとなると難関だが、それでも入学できるよう、毎日、猛勉強中だとか。

最初に、手紙でそのことを知った時は、ローガンは何かにつけて、私に絡んでくる嫌な奴だったので、意外な気持ちだったが、ローガンのお父さんとお母さんは良い人だし、ローガンがこう育ってもおかしくないんだな、と納得した。


「ふふっ」


ローガン一家からの手紙を見つめ、笑みを漏らすと、見舞いに来てくれていたエリックが、不審な顔をした。


「義姉様?」

「なんでもない」


内緒にされたことが悔しいのか、エリックが不貞腐れた顔をした。

侯爵家に来たばかりの頃は不安そうな表情が目につき、その後はニコニコ笑う姿が可愛いばかりだったエリックが、そんな顔をするようになったのに、成長の嬉しさと寂しさを感じる。


「幸せだなあ……」

「大怪我しておいて、何を言っているのですか」


エリックには呆れた顔で言われたが、心からの言葉だ。




そういえば、侯爵領に戻ってから、エリックに私の結婚について聞かれた。

義姉の結婚は、エリックの今後にも関わってくるから、関心を持つのは当然といえばそうなのだけど、そんなことにも関心を持つ年頃になったのか、とその時も成長を感じた。


私が王都に来たのは社交を兼ねていたので、エリックの質問はもっともではあるけれど、王都の皆様には、黒髪黒目のキツイ容貌というだけで人気がないというのが嫌というほど分かっただけだったので、結婚には期待できそうにない……。


まあ、結婚相手が決まったとしても、そもそも悪役令嬢だから、断罪される可能性が高いしね……。

侯爵家を継ぐエリックの邪魔にならない程度になるようであれば、最後は身分剝奪か国外追放辺りを狙うのも、アリかもしれないなあ。






しばらくして、タウンハウスで父から聞いたところ、一番の端とはいえ、王都が敵国からの襲来を受けたことで、王宮では隣国の脅威を改めて認識し、開戦もやむなしという雰囲気になっていて、王国騎士団総出で、守りを固め直し、開戦に備えているということ。


これから戦争が起こるというのは、ゲームのストーリー通りの展開だ。遠い記憶になりつつある、前世の知識だが、こういう時、これが現実なのだと思い知らされる。






やがて、最低限だが、私の傷が癒えたので、王都のタウンハウスから侯爵領に戻ることになった。


病み上がりだったので、馬車でゆっくりとした旅路だった。領内に入ると、私が馬車に乗っていることに気付いた街や村の人達が、手を振ってくれた。


皆の笑顔を見て、幸せだと感じた。これを壊したくないな、と思った。






屋敷に戻り、すぐに日が落ち、夜になった。空を見上げると、月が綺麗だった。バルコニーで月見をしようと、エリックとエマに声を掛けた。


安静にするよう、私を咎めるエリックとエマを宥め、美味しい紅茶ととっておきのティーセットを準備した。






静かで、美しい月の夜だった。


なんの力も持たない私が、戦争を止めることなんてできない。

どれだけの人の命が、零れ落ちていくのだろう。


甘えだと分かっているけれど、涙が出てしまった。


「義姉さま?」

「イザベラ様?」


二人の心配そうな声が聞こえる。

心配を掛けたくないのに、どうしようもなかった。


「ごめんなさい。きっと、近いうちに戦争が起こるでしょう。分かるのに、何で止められないんだろう。なんて、無力なんだろう……」


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