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13歳


戦いを間近で見たことは、私に衝撃を与えた。


人と人が命を奪い合おうとするなんて、してはいけない。


でも、そうやって、命を賭してくれている人がいるから、国は守られていて、私は平穏を享受しているのだ。






私の知る乙女ゲームは、隣国との戦争が終わった直後が舞台だった。


ゲーム開始時点で、私を含む学園の主要登場人物は、十七歳から十九歳だった。そして、今、私は十三歳だ。


つまり、数年内に戦争が起こるということになる。




アームストロング家が任じられている領地は、東側を別の国に、西側を王都に接している。


そして、このアームストロング家が接する隣国に、近年なかった、不穏な動きが見られた。




きっと、戦争が起こるのであれば、我々の領地が戦場になる。


綺麗ごとではなく、命を賭して戦ってもらわないと、守れないものがある。


人の命を賭けてもらわないと、守れないものがあるのが、苦しかった。




隣国との間に、争いを起こさない方法はないのだろうか?




恐らく戦争の相手になるだろう隣国の情勢を、エマに探ってもらった。

でも、隣国では、皇帝、王太后、宰相で実権争いが行われていて、王家や父ですら交渉先が定められない状態だということだった。


ソフィア様に、実家の商家を通じて、隣国の人々の生活を教えてもらった。

政治の乱れが影響しているようで、治安は悪化して、市民の生活は苦しく、豊かな貴族や商人は争いに備え、高価な貴金属を買い集めているということだった。




結局のところ、王家も、隣国に国境を接する土地の領主である父も、力を尽くし、情報を集めているが、隣国の政情は乱れ、一般市民にもその影響が及んでいるということが分かっただけだった。


隣国に、私ができそうなことは、何もなかった。




ならば、せめて、この国の傷を、本当に少しでも浅く、済ませることはできないだろうか?




救護院や孤児院を回るときには、兵士の詰所も回って不足がないかどうか聞いて回った。


孤児院や救護院の院長に村長を紹介してもらって、何かあった時に、村同士で助け合える仕組みを作ったり、避難する時の経路を取り決めたりもした。




思い付くことは全部した。どれだけ時間があっても足りなかった。






ある日、エリックに誘われ、エマも含めた三人で、バルコニーに毛布を持ってきて、月見をした。


エリックに温かい紅茶を差し出され、久し振りにほっと息を吐いた。そこで、ずっと緊張していたということに気付いた。


月は綺麗で、隣にはエリックとエマがいる。近い未来、戦争が始まるなんて信じられないくらい静かな夜だった。


前世の記憶なんて、全部、夢なのではないだろうか? ここがゲームの世界で、戦争が起こるなんて、私の妄想なのではないだろうか?


そんなことを信じたくなる夜だった。






その年の末、父からの命で、私は王都に行くことになった。


まだ領土でしたいことがあると主張したが、もう十三歳だから、王都でも顔を売っておかないといけないらしい。ついでにきな臭い情報があったら仕入れてきて、こちらに流せとのこと。

人使いが荒い。そういえば、前世でも、人使いの荒い職場で働いていた。はあ、妙な縁があるな……。


王都に行くことについては諦め、父に向かって言った。


「ご承知のとおり、隣国の様子が変です。どうか、この土地をよろしくお願いします」


私が父に何か頼むことが珍しかったから、一瞬、驚いたようにしたが、すぐに、いつもの冷淡な口調で言った。


「私が領主だ。娘に言われるまでもない」

「ま、そうですよね。責任をもって、お父様がこの土地を治められているのは知っていますが、ここを離れるので、念のため、です」

「隣国の様子がおかしいことについては、お前が領土中を走り回ったから、危機が迫っているということは伝わっている。世論の醸成には成功しているので、何かあった際、騎士や兵士はもとより、この領土の人間も協力して、事に当たれるだろう」


その言葉を聞いて、ほっとした。でも、もう一つ、念押ししなければいけないことがある。


「あと、エリックですけど、ちゃんと守ってくださいね!」

「だから、それもお前に言われるまでもないが……」


呆れたように、一つ溜め息を吐いた後、父が言った。


「エリックは侯爵家の騎士団の精鋭に任せておく予定だから、安心しろ。安全も守られ、体も鍛えられ、一石二鳥だろう」

「あんな可愛いエリックに、そんな無茶を……」


まさかの予定に、エリックも一緒に王都に連れて行くべきかと迷っていると、珍しく、父は笑って言った。


「若く、優男のように見えても、エリックだって男だ。このところ、お前に除け者にされたことで、鬱憤がたまっている。騎士団での訓練にだって希望してのものだ」


父に、私が気付いていなかったエリックの気持ちを語られ、びっくりした。


そして、このところ、エリックに敢えて頼らなかったことがあることを、エリックに知られていることが分かり、気まずく思った。




私自身が、厳しい教育を受けても、結果がそこそこだから、尚更分かるのだが、エリックもエマも、本当に優秀だ。

そう、ゲームにだって出てきたっておかしくないくらい。


エマは、影の存在として主人公側に認知されなかった可能性があるとして、何故、ゲームに、こんな美麗で優秀なエリックが出てこなかったのだろう?




それに対して、私は一つ仮説を持っている。




エリックは、ゲーム開始前に死んでしまったのではないだろうか。


そして、それを機に、イザベラは心を病んでしまったのではないだろうか、と。


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