天使のように無垢で純粋なスーパー激カワ幼女ちゃんが極悪非道な悪辣極まりない生粋の悪役令嬢に転生した結果、国の人気者になりました
「ふえぇ、あたち、はやくおうちにかえりたいよぅ」
「もう少しだけ我慢なさい、天使のように無垢で純粋なスーパー激カワ幼女ちゃん」
「びえぇ! もうかえりゅううううううう!」
「こら、待ちなさい!」
母親の言うことを聞かず席を離れ、部屋を飛び出してしまった天使のように無垢で純粋なスーパー激カワ幼女(本名)。飛び出した先は運悪くブラックホールだった。今日は宇宙貴族の宇宙会議だったのだ。
「びえぇぇぇぇぇぇええ!」
幼い彼女は為す術もなく黒い渦に吸い込まれてゆく。まあ大人でも同じことなのだが。
「ありゃ? ここどこにゃ?」
気がつくと幼女は真っ暗な場所にいた。肘からハイビームを出して辺りを照らしても、何も見えてこない。恐らく、この闇が無限に広がっているのだろう。ゆえに光が届かないのだ。
「びえぇぇぇぇぇぇええ!」
『泣いてばかりだな、お前は』
「え! だれ! だれがあたちにはなちかけてるの!」
どこからか聞こえる声に幼女は素早く反応した。
『3歳で死んでしまうとは哀れな子だ。次の人生を与えよう』
「ふにゃ?」
幼女は訳も分からないまま、謎の光に包まれた。
「エリー様を診察させていただきましたが、症例のない新たな不治の病『超苦しんで1週間で死ぬんだけど、その3日前から超ヘビースモーカーになって周りの人間をディップソースだと思い込み野菜スティックを付けようとするようになる病』と診断しました。というわけでお気の毒ですが、エリー様は4日後にヘビースモーカーになったと思ったらあなた達に野菜スティックを押し付けるようになってその3日後に亡くなられてしまうでしょう」
「あら、じゃあ早く死んでくれた方がいいわね。面倒なのは嫌だしね」
「え、そんな⋯⋯エリー様はあなたの妹ではありませんか!」
「あなた知ってる? エリーったら王子様に気に入られてるのよ。あんなブスで鈍臭くてうんこ臭くて歯の隙間全部にニラが挟まってていつもぬっるい甘酒を水筒に入れたやつを5本も持ち歩いてるくせに一切飲まなくて人の家の庭に捨ててる上に目クソは目から溢れてるし鼻クソも鼻から溢れてるしなぜか耳に歯クソが詰まってるしスキンヘッドの頭にいろんな豆のカラフルな刺青が彫ってある妹のどこがいいのかしらねぇ」
「いやいや、めっちゃ可愛いじゃないですか、エリー様」
「なんだお前」
昼間からビールを飲みながら大事な話をしているミョーン家長女のミョナーと医者の堀之内 噦。この後飲み会が終わり次第診断結果をエリーに伝えに行くそうだ。
「ドゥオルルルルルオイオイオ! ディール王が怖くて闇医者がやってられっかー!」
「おーうそうとも! もっと飲め飲めぇーっ!」
エスカレートする飲み会。開始13秒でこれとは、先が思いやられる。というわけで飲み会が終わった13時間後へレッツゴー!
「@☆♡&→#%$(^-^)」
「&〆〒÷=呪%&@@(^-^)」
「���4々&&!!(^-^)」
「腥ネャテ 1ニkヒ|M・屹(^-^)」
「蜉ア窶サ郢ァ荵晢ス(^-^)」
「@@@@@@@@(^-^)」
「@@@@@@@@(^-^)」
「@@@@@@@@(^-^)」
「@@@@@@@@(^-^)」
ベロベロに酔っ払ってアビボ化(アビボ共和国に長期滞在すると現れる化学反応。ちなみにここはアビボ共和国とは正反対の場所に位置している国なので、アビボ化した理由は不明である)してしまった2人はその夜ミョーン家のリビングで激しく愛し合ったという。
「おは尿っ!」
2階の寝室から降りてきたエリーがいつものようにリビングにしっこを撒き散らす。
「あれっ!? なんで2人とも裸なの!? っていうかなんでうちのリビングに堀之内 噦が寝てるの!? んでなんで裸なの!? ってこれ2回目か!」
「⋯⋯うるせーなぁ」
目を擦りながら起き上がるミョナー。
「あ、またお前ションベンかけやがったな! 死ね! あ、そうだ!」
「なに?」
「お前、不治の病にかかったらしいぞ! 苦しみに苦しんで1週間後に死ぬらしいわよ! ざまぁ無いね、あっはっはっは!」
「え、私が!? そんな――!」
涙を流し、膝から崩れ落ちるエリー。ショックに違いない。彼女はまだ17歳の少女なのだから。まぁ何歳でも1週間後に死にますと言われたら頭がおかしくなるほどショックを受けるに違いないのだが。
「じゃあ思い残すことがないように余命を精一杯楽しまなきゃ! うっひょひょーいぶりぶり〜!」
いつもポジティブな心を忘れないエリーは尻を出し、ぶりぶり星人になってどこかへ走っていった。それを逆立ちで見送るミョナー。その隣では堀之内が冷たく硬くなっていた。そう、死後硬直である。死因は占殺。どこかの占い師が彼は死ぬと予言したのだ。占い師の言葉は絶対なので、未来さえも変えてしまう力があるのだ。
「さて、王子のとこでも行くか」
ミョナーは全裸で逆立ちのまま指歩行で王子の住むオンボロアパートへと向かった。
「あ、ミョナーさんこんにちは。今日は全裸で逆立ちなんですね、すげぇなおい」
「ごきげんよう、王子様。今日は面白いお話を持ってきましたのよ」
「ムム、お話と言いますと?」
ミョナーが王子に耳打ちをした。
「ひょえー! なんということ! 何が面白いお話ですか! エリーさんは僕の本命のオンナなんですよ!」
「面白いじゃないの! あの子が苦しんで死ぬだなんて、もう想像しただけで笑っちゃうわギャーッハッハ! ウンニャーッパッパァ! フンニョ、フンニョ、フンニョーパッパァ!」
「笑い方キモすぎワロタ」
そう言って王子がミョナーを睨みつけた。そんな王子にミョナーは余裕そうに話しかける。
「だからあの子のことはもう忘れて、私と婚約しませんこと?」
「誰があなたのような最低な人間と婚約するもんですか! エリーさんはあなたの妹なんですよ? その妹が不治の病にかかったという話を面白い話だなんて、許せません!」
「フン、あんな小便臭くて硫黄臭くてニンニク臭くて乳首が背中に付いてて両足の裏にちんちんが30個ずつ付いてて肩から銃口が生えてて顎が4つに割れててその先っぽに夏冬秋春ってマジックペンで書いてあっていつもお弁当箱に筆記用具を入れてて筆箱にウニ海老アワビ黒毛和牛大トロチャーハンをパンパンに詰め込んでてお尻から食べるクソガキのどこがいいのよ。あなたの目も節穴ですこと」
「そうか、ならお前はもう要らない」
そう言って王子はミョナーの髪を掴んだ。
「ぐっ、何するのよ!」
「僕の国に正しくないやつは要らないんだ。ここから落としてあげるよ」
ミョナーをベランダに連れ出す王子。ここは2階なので、落ちたら打ちどころによっては怪我とかするかもしれん。
「肩車より高いよー! 王子がこんなやつだったなんてー! ひどいよー! あんまりだぁー!」
棒読みのミョナーを無表情で見つめる王子。無表情のまま王子はミョナーを放り投げた。
「あばよ」
「地獄で呪ってやるからなぁ! クソ王子がぁ!」
ミョナーは頭から落ち、首が変な方向に曲がっていた。手と足はいつもと同じくゴージャスな金平糖が1000個で装飾されている。
「フン、世界は清くなくてはな」
王子が満足そうに下に落ちたミョナーを見ている。人が集まってきても見ている。それはそれは笑顔で、満面の笑みで見ている。
「あの笑顔、もしや菩薩様では!?」
「そうだ、そうに違いない!」
「撃てーっ! 殺せーっ!」
ミョナーの周りに集まっていた野次馬が王子を見上げて口々に言っている。
野次馬スナイパーが放った菩薩専用巨弾が王子を襲う。
「にゅっ」
王子は王子バリアで難を逃れた。バリアで弾かれた菩薩専用巨弾はそのまま奈良まで飛んでいき、それが東大寺の大仏に命中し、大仏はピラミッドとなってしまった。来年からの修学旅行は奈良のピラミッドである。
「いてて⋯⋯あれ、ここはどこ?」
ミョナーが目を覚ましたようで野次馬達に話しかけている。
「生きてるのか? あんた」
「いきてるよ! あたちはがんじょーなんだから!」
「あんたいい歳してなんちゅー喋り方だよ。見た感じ46歳くらいだろ」
「3ちゃいだよ! あほはげ!」
「あほはげ⋯⋯? 3歳の幼女にそんなことを言われたのか? 俺は⋯⋯あほはげ⋯⋯」
その後野次馬の男は市役所に改名手続きをしに行ったそうだ。職員の手違いであはほげになってしまったと後日語っている。それが原因で自殺未遂をしたらしい。
「王子、この方が自分は3歳だと言い張ってるんですが、どう見ても46歳くらいですよね」
いつの間にか王子の背後にミョナーを連れた若い男性が立っていた。どうやって部屋に入ったんだ、と王子はめちゃめちゃ警戒している。
「ミョナーさんは21歳ですよ」
「えぇ!? めっちゃ老けてるやん!」
本人の前で失礼極まる野次馬若男性1号二郎三郎丸。
「記憶喪失かなぁ」
王子はいろいろな可能性を探ったが、これが1番しっくり来る説であった。我々からするとこの王子の行動は、「タイトルで幼女が転生したって分かってるんだから王子が推理ミスるところとかダラダラとやらんでええわ」なので、スキップさせていただく。
「ということは、君は銀河の遥か彼方からやってきた宇宙貴族の令嬢、天使のように無垢で純粋なスーパー激カワ幼女(本名)ちゃんなんだね。んでいつの間にか死んじゃって、ミョナーさんに転生したんだね、良かった。じゃあ今日から君はミョナーさんだ」
「うん、そうなんだよね⋯⋯」
「それにしても、本当に神様がこの世に存在したなんて、そっちのほうがビックリだよ」
「え、あれがふつうじゃないの?」
「いやいや、転生したなんて話は初めてだからね」
そんなこんなで2人でエリーのいるミョーン家に戻ることとなった。
「こんにちはエリーさん! ⋯⋯あれ、いない」
王子の爽やかな挨拶が虚しく家の中に響く。エリーは今外出中なのだ。ぶりぶり星人でどこかへ行ってしまったのだ。
2人は仲良く正座して待つことにした。初対面同士なので会話が一切なく、なんとも微妙な空気が漂っていた。
『ぷぅさん』
ミョナーの可愛い屁の音が響いた。
「クッサ」
王子が容赦なく呟いた。
「びぇええええええええええ!」
ストレートに臭いと言われたミョナーは泣き出してしまった。見た目は大人だが中身は3歳なのだから当然である。
「ちっ、うっせぇな」
王子が左の脇の下を掻きながら言った。掻いた手を嗅いでいる。
「ただいま⋯⋯あれ、なんで姉さん泣いてるの?」
酷く疲れた様子のエリーが帰宅した。ぶりぶり星人からいつものドレス姿に戻っている。
「あー、こいつがさっき臭い屁をしたから『クッサ』って言ったんだけど、それだけで泣き出しやがったんだ」
王子が説明した。
「あれ、王子そんなキャラだったっけ」
「君のお姉さんのせいで1回頭がおかしくなったんだよ。危うく人殺しになるところだった」
そう言うと王子は部屋の角を見つめた。猫かよ。先程のアパートでの出来事でも思い出しているのだろう。
「はぁあ! 思い出すだけでもムカつくよ、君のお姉さん! でももう大丈夫だ。あの人は死んだんだ⋯⋯」
「え、そこで泣いてるじゃん。もしかしてこれ死んでるの? 人って死ぬと泣きじゃくるんだっけ?」
訳が分からず頭がおかしくなるエリー。
「実はね、さっき僕の家に君のお姉さんが来て、君が1週間後に死ぬ病気にかかってしまったって僕に言ったんだ。あの人はそれを面白い話だと言っていた。僕は許せなかった⋯⋯だから殺してしまったんだ」
「はいはいワロタワロタ」
頭がおかしくなったのは王子の方なんだな、と納得したエリーは彼を適当にあしらった。
「エリーさん、そんな2ちゃんねらーみたいな言葉遣わないでよ。あと僕のことをアホだと思ってそうな顔してるけど、本当なんだよ」
「まあ適当に聞くわ」
「実はミョナーさんはベランダから落ちて死んで、この前亡くなった宇宙貴族の令嬢であるこの子がミョナーさんに転生したんだ」
「え、転生ってそういうものなの? 赤ちゃんとして生まれてくるんじゃないの?」
「知らん」
それから10分ほどの静寂が訪れた。
「おなかへったぁーっ!」
最初に喋ったのはミョナーだった。もうご飯の時間なのだ。
「そういえばエリーさん、元気ないけどどうしたの?」
「いや、やっぱ死ぬの嫌だなって思って」
「だよね⋯⋯」
「おなかへったぁーっ!」
「こいつうっせーな」
王子のイライラが増していく。
「死ねぇ!」ドンッ!
突然王子の頭に超巨大ハンマーが振り下ろされた。王子は頭がかち割れ、脳みそと血を流しながら死んでいった。
「王子ぃぃいい! いったい誰が! ⋯⋯って、あ、あなたは!?」
エリーの目線の先には、隣の隣の家に住む86歳のババアがハンマーを持って立っていた。このハンマーは見た感じ50kgはあるように見えるが、この死にかけのババアのどこにそんな力があるというのか。
「ハハハハハ、私を殺した恨み、晴らしたり!」
「私を殺した⋯⋯? もしや、あなたはお姉さん!?」
「おうよ! 私はこのババアに転生したのよ!」
「にしても力持ち過ぎるだろ! あああ、もう、王子がこんなになっちゃった⋯⋯!」
「おなかへったぁーーーーーーーーっ!!!」
「ハハハハハ! ハハハハハ! 恨み晴らしたり! ハハハハハ!」
「うるせーーーーー!!」
ご覧の通りカオスである。
「いてて⋯⋯あれ、ここはいったい」
死んだはずの王子が起き上がり、しかも喋った。
「そうだ、僕はいきなり死んで⋯⋯ハッ! 生き返ったのか! やった! やったぞー!」
頭から血と脳を流しながら喜んでいる王子。
「馬鹿な! なぜこの状態で生きていられるんだ! もう1発いっとくか!」
「なんか神様がね、転生させてあげるって言っててね、それでグハァ!」
2発目を食らった王子はその場に倒れ込んだ。どうやら王子は自分に転生していたようだ。キモすぎるだろ。
「んで、今のミョナーさんみたいに別の人に転生するのかと思ったんだけどまさかの自分っていうね」ドンッ!
3度目の正直を願って隣の隣の家のババアがハンマーを振り下ろした。
「もう、うっとうしいな! やられっぱなしだと思うなよ!」
頭がペチャンコになった王子はそう言って右ストレートを繰り出した。ババアも容赦なくハンマーを振り下ろす。
「いてて⋯⋯」
「クソ⋯⋯何回やれば死ぬんだ、ってえええ!?」
「ん? ⋯⋯えええ!?」
「もしかして⋯⋯」
「ああ」
「僕たち!」
「私たち!」
『入れ替わってる!?!?!?』
「フーーーーーッ。やっはやにひらふほやっへやえんやあ」
タバコを40本くわえたエリーが言った。もうヘビースモーカーの症状が出てきているようだ。ということは野菜スティックも⋯⋯
「あ、いい感じの味噌マヨネーズが! 野菜つけさせて!」
そう言うとエリーは冷蔵庫から干からびた人参を取りだし、王子の脳につけて食べ始めた。
「おなかへったぁーーーー!!!!!」
ミョナーが人参を指さして言った。
「これは私のよ! あなたにはあげない!」
「びぇええええええええええ! いけずーーーーっ!!」
ミョナーは叫びながら家の外へ走っていった。
40kmほど走ったところで疲れ果ててしまい、その場に倒れ込んだ。
「どうしたのおばさん、大丈夫?」
高校生くらいの少年がミョナーに声をかけた。
「あたちはおばさんじゃない! 3さいなのー!」
「えっ!?」
少年は衝撃を受けたような顔をしている。
「萌えーーー!」
少年は目をハートにして飛び上がった。上空10000メートルほどのところで飛行機の腹に刺さった。
『当機は何者かにより攻撃されたため、ただいまより墜落を開始します!』
「ええ〜〜〜〜〜!?」
大ブーイングの中飛行機がバランスを崩し、先っぽから真っ直ぐ落ちてきた。この下にはちょうどミョナーがいる。
「びぇええええええええええ!?!?」
ドガーン!
奇跡的に全員生還し、ミョナーには多額の慰謝料が支払われた。それも目玉が飛び出て戻ってこないような金額を。無理もない、脳天に飛行機が落ちてきたのだ、国ひとつ分くらいの金を貰わねば納得いくまい。
「ミョナーさん、僕と結婚してください」
飛行機を墜落させた張本人の少年がプロポーズした。
「だめ! あたちまだ3さいだから!」
ミョナーは慰謝料で国を買い取り、この国の王として君臨することとなった。ミョナーの機嫌を損ねた者は全員即死刑となる、とんでもない独裁国家である。
「あたちのことちゅきなひと〜!」
「はい!」
「私もです!」
「僕もです!」
「はっ! 皆ミョナー様のことが大好きでございます!」
「わーいわーいあたちだいにんき〜! みんなあたちのことちゅき〜!」
それからもミョナーは国民の人気者であり続けた。300年くらい。
余談だが、作中に出てきた王子は山本王子という名前のおナベの老婆である。王様の息子みたいな名前でややこしくて申し訳ない。
王道な展開、つまり読者の予想通りに進んでいく物語は読者を気持ちよくさせるという。このお話を読んだあなたは気持ち悪くなっている事だろう。おめでとう。