97 圧がね
「はあぁぁぁぁ、マジでありえん……。何故俺たちがあんな奴と一緒に旅をしなければいけないんだな?」
「ほんとよ。迷惑もいいところだわ。弱い人間なんて一緒にいる価値すらもないのに」
「僕たちの平和な旅を邪魔されるのは……不本意極まりないね」
美凪が準備をするために自分の部屋へいった直後、トウカ達が帰ってきた。途端に質問ぜめにあい、美凪も一緒に行くことを伝えると今みたいに猛烈に反抗し始めた。
おいおい3人とも、本人がいないことをいいことに好き勝手言って……。本人に聞かれたらどうす…………たとえ美凪に聞かれたとしても「それがなにか?」でねじ伏せてそう。
「なんか、、ごめんね?」
「ミアがすべて悪いわけじゃないわ。弱いくせに私達の仲間に入ろうとする向こうが悪いのよ」
いやいやいや。美凪は美凪でどうしても入りたくて入ろうとしてるわけじゃないと思うけど……。誰が原因かって聞かれたら強いて言えばグレイスさん?
美凪がこの中に入ってこれからやっていけるかなあ……。頑張ってフォローに回れるように気をつけよう。
「……ま、しょうがないよ。ミアだもん。どうせグレイスとかいう教皇の頼みだからとか言って断れなかったんだろうし。それよりもこれからのことについて相談しないと」
グレイスさんの頼みだからってわけじゃないんだけどなあ……。私的には前世からの幼馴染がいるほうが心強い。戦力的な問題じゃなくて精神的な問題として。
そろそろ3人にも私が前世の記憶持ってるってこと気づかれそうな気がする。気づかれなくてもそれに準ずることは絶対。特に美凪といれば確実にボロが出るだろう。もう距離取られるとかいう心配はないとはいえ、もしそれで私達の間に亀裂が入ってしまったらそれまでだ。悲しいけど……。でも3人に限ってそんなことはないだろう。
「これからって言っても魔界のときと同じように片っ端から治していけばいいんだろ?」
「いつもみたいに適当に歩きながら感知したところを探し出すっていうのでいいんじゃないのかしら?」
私もトウカやレーインと同じ意見だ。単純な考えだけれどこれが今のところ一番効率がいい。そして旅をしながらいつも感知魔法を使っているせいか4人の感知魔法レベルが異常に高い。努力の賜物である。
こんなふうに簡単に考えていると、ヴィスタから衝撃の事実が私達に伝えられた。
「……でも、魔界と違ってここ、人間界だから、、通貨が違うよ?」
な、何だってぇぇぇ!?!?
それは大問題だ。旅しながらだとしても寝るところがいる。最悪野宿でいいにしてもご飯代がいる。ここは魔界じゃないから迂闊に狩りもできないし……。なんてこった……。
「あ、じゃあここを拠点に……」
「「「絶対に嫌!!!」」」
何で!?
必死に考えた結果を即座に否定されてしまった私……。
そんなにここにいたくないのか。でもこんなに嫌がってるのに無理して押し付けるわけにもいかないし……。
うんうん悩んでいると、どうやら準備が終わったらしい美凪が扉を開けて入ってきた。と同時に鋭い視線が美凪へささる。
「都ー、準備できたぞー。っておい! こいつら帰ってきてんだったら先に行ってくれよ!!」
空気が読めない第二号がやってきた。第一号は言わずもがな。
美凪はトウカ達が帰ってきていることを知らなかったようでドアを開けた途端すぐに締めそうになっていた。ぐっと抑えたみたいだけど。
「お前、自分の立場分かってるんでしょうね」
「ミアがいなかったらどうなってたか……分かるよな?」
「…………」
個人的には最後のヴィスタの無言が一番怖かった。
美凪……可哀相に……。まあ少ししたらそれなりに打ち解けるだろう。美凪のことだ。そう時間はかからんと信じているぞ。私でもフォローが効かないときは充分あるからね。
「お、お疲れ様、美凪!」
「おう。……で、今どういう状況なわけ?」
ひとまず今の状況を伝える。
「…………なるほど。要するに金が必要なんだな。じゃあ冒険者登録をするといいぜ」
冒険者登録???
ラノベではよく聞く言葉だけどこちらの世界では初めて聞いた。どんなものなのか……
「だいたい都が思ってるようなものと一緒だ」
なるほど、よくわかった。
しかし冒険者登録をしてしまうと私の知っている冒険者は依頼とか受けなきゃいけないのが鉄則だ。それって自由に動けなくなる上に面倒くさくないのか?
「依頼とかは受けなくていいの?」
「受けなくてもいいってことはないけど……、冒険者の登録場所、ギルドは常に薬草とか毒草を募集してるんだ。回復薬にもなるし、上手く行ったら上級ポーションにもなる。それに見習いの冒険者でも気軽に出来るだろ?」
ほうほう。なんともホワイトなギルドである。でもそれなら私達の鍛えに鍛えまくられた感知魔法で余裕なのではないか。
よし。善は急げ。とりあえずそのギルドとやらに行ってみようではないか。
よっしゃーと意気込んでいる横で、私と美凪の距離の近さに嫉妬、妬み、疑問などの様々な感情が渦巻いていたことを私は知らなかった。




