96 《アルミナ・アナガリス》
美凪視点です。
アルミナ・アナガリス。
それが今世で受けた俺の名前だった。
こちらの世界で目覚めた時にはすでにアナガリス教会で生活をしていた。どういった経路でここに来たのかはわからない。爺さん……アナガリス教会教皇が言うには俺は教会の前で捨てられていたみたいだ。
物心ついたのは確か3歳……くらいだったかな。そんときからは前世の記憶も持っていたからまずはこの世界に馴染むのに一苦労した。
俺の最後の記憶は都、桜子、玲央達とテストが終わって桜子のパフェについて突っ込んでいたとき、大型バスにはねられたところまで。俺が今ここに生まれ変わってるっていうことは……やっぱり死んじまったか。
ま、薄暗い話しはこれぐらいでおいておこう。死んでしまったのならそれまでだ。今は今でそれなりに楽しい生活を送っていた。
どうやら俺は周りの人間よりも総合値、特にMPの数値が高いらしく、またそれに加えて前世からの知識というのもあり、魔法にどっぷりとはまり込んだ。そりゃ誰だってそうなるだろ。ただでさえ魔法が珍しいのに、自分にはそれを使うための適性があるんだぞ?
その結果もあり、一年前、、13のときに勇者パーティーから声がかかった。そんときの俺のはしゃぎようは……な。勇者といえばズバリラノベ。魔王を討伐し、誰からも尊敬される伝説の人間。こっちの世界に来て勇者という存在がいるって知ったときは絶対勇者パーティーに入ってやるって決めてたからめちゃめちゃ嬉しかった。
でも爺さんは一旦話を保留にしやがったんだ。なんていったか? "まだそのときではない" みたいなこと言ってたな。
その代わりと言っては何だがと、勇者パーティーの勇者と聖女はお前の知り合いなのではないか? と教えてくれた。
爺さんには幼い頃に俺は転生者だって言うのはバレている。俺的にはバラすつもりはなかったんだが……いつにまにかっていうやつだ。
俺の知り合いかもしれないって言ったらもちろん日本人の可能性があるだろう? そして俺と玲央、桜子、都は同じ場所で、同じ時間にたぶん死んでしまっている。ラノベでよくあるじゃん? 一緒に死んだやつが転生してまた会うみたいなやつ。だから絶対勇者パーティーの二人はこの3人のうち誰かだろうって。
あと一年もすれば勇者パーティーに入って前世の幼馴染に会えると安心していた矢先にそれは起こった。
爺さんがゴブリンの大量発生を処理しに行ってたときだった。
◇◇◇
(あれ? 爺さんもう帰ってきてたのか? 今回は数が多いって言ってたからもう少しかかると思ってたけど……)
そう思いながら明かりのついた部屋に入る。すると突然ピリピリとした感覚が体を襲った。初めてだったこともあり、気のせいかと流す。
で、突然爺さんにげんこつを食らわされて横に座らされる。
お? よく見ると爺さんの前に座ってる奴ら、人間じゃないな。女子陣はまだしも男子陣の片方は角が二本ともう片方は肌の色から違う。コイツラ……魔族か? でも俺の知っている魔族とは違う……。
そう考えたところで爺さんからの説明が入った。
なるほどなと納得しているといきなり無理難題をふっかけられる。今日中にコイツラの仲間になるかならないかを決めろだと? 勇者パーティーのときは保留にしたくせにこれはすぐに引き受けるのかよ!
理由はこのあとすぐに知らしめられたが……。
てか怖いんだよ!! 俺、今日何回睨まれた!? あいつらの眼力エグい……。視線で殺せるのなら俺はもう何回も殺されてる。
「アルミナ……だったっけ。あなた、美凪でしょ」
混沌の魔人、ミアの言葉で目がこぼれ落ちるほど見開く。
爺さんから混沌の魔人の話を聞いたときはやっぱりラノベのどの世界にも相手にしたらまずい相手はいるんだなって軽く恐怖してたけどそれが一番近くにいた幼なじみとは誰も思わないだろう。腰が抜けるかと思った。
いやでも実際都のしていることは常識外れで、そりゃあんなにレベルの違いが出るわって実感させられた。3歳とか俺まだこの世界に馴染むのに必死だったぞ? それに他の魔族3人も小学校入るか入らないかの歳でレベル60くらいまであげさせられるって……それについてこれるのもすげーな……。
でも都は話してみると相変わらずの都で安心したと同時に都の考え方に少しカチンと来た。たぶん一緒にいた魔族の奴らも気づいてたんだろうなと思う。だからこそあんなに都のそばを離れるのを渋っていたのか。
こいつは離れるとまた何かしでかす。幼馴染の本能がそう囁いていた。玲央や桜子はまだいない。だったら俺が都を止めるしかないだろう? 幼馴染なめてもらっちゃ困るぜ。
とまあ、こういうわけで都たちの仲間になることを承諾したんだが……帰ってきたときの魔族3人、角生えてんのがトウカで、肌の色が違うのがヴィスタ、もうひとりの女の子がレーインって言ったか? にめちゃくちゃ睨みつけられたら。あ、俺人生終わったわって思った。
……これからあの中に入って味方都しかいないけど、俺、やっていけるかな……。




