87 ローブ、それはチートである。
「えっと……、と、言いますと?」
ちょっと私の頭では理解が追いつかず。
えーと、ケリスナさんの話で行くとケリスナさんが私達のローブを作ってくれるということでいいのかな。
それはとても有難いんだけど別にそこらのを買っても正直問題はないのだ。私達のローブで時間をかけてもらうには少し申し訳ない。
「私達の糸は少し特殊なのを知っていますか?」
申し訳無さが顔に出ていたのかケリスナさんはほほえんでいる。
アラクネ族の糸が特殊なのは蜘蛛の巣の住居たちを見れば一発でわかる。独特な光を放っているし、家になるくらいの強度だってあるのだから。
「私達の糸は強度だけではないのです。やろうと思えば魔力を抑えることも、トウカ様の角も隠すことができますし、少し長めのフードを作ればヴィスタさんの肌を完璧に隠すことができます」
な、なるほど……!!
確かにトウカの角はどうすればいいかずっと考えていたのだ。どうしても出てしまうし、出てしまえば瞬間に魔族だってわかってしまう。
それに……特に私達は魔力が桁違いらしいから溢れ出ているそうだ。頑張って収めようと思ったらできるんだけどなんせ疲れる。人間界では気合で乗り切らなきゃなーって思ってたから勝手に抑えてくれるのはとてつもなくありがた
い。人間界に行くときだけじゃなくて普段着としても使いたいくらいだ。
「是非、是非お願いしたいです!!」
承知しましたとケリスナさんは薄く微笑んで本を閉じ、階段を上がっていってしまった。
……残された私達は一体何をすれば……?
ひとまずはケリスナさんでもないしここにいても暇なだけだということで長い長い階段を登っていくことにした。そういえば本の複写をしてもいいってこと伝えるの忘れてた。あとで言えばいっか。
ようやく外の光が見えてきた頃、何やら上が騒がしいことに気づく。
……どした?
「ああ、ミア様、レーイン様、トウカ様、ヴィスタ様!! お待ちしておりました!! お疲れになっているでしょう、お部屋を準備いたしましたのでどうぞそちらでローブができるまでお休みください! どうしても早くても明日までかかるそうなので……誠に申し訳ございません……」
すぐさま私達の登場に反応し、対応してくれたのは先程受付を担当してくれたお姉さんだった。どうやらケリスナさんが私達のことを言い残したようで。
そしてこの騒がしいのはありえないくらいのギャラリーがいるからであり、なんでも私が扉を開いたときにとてつもない光が蜘蛛の巣全体に降り注いだようだ。その光の原因がこの図書館にあるということで見にきた方々がまあたくさん。
司書のお姉さん方のおかげで少しずつヒトは少なくなっていったもののまだまだどく気がないヒトもたくさんいるようだ。ま、そんなこと私達にはどうでもいいことよ。少し疲れてしまったからケリスナさんのご行為に甘えて休ませて頂くとしよう。
◇◇◇
用意してくれていた部屋はどうやらいわゆる高級ホテルのようなところだったらしく、とてつもないくらいもてなされた。……歓迎されるのはいいことよね。
そして一人ずつに部屋を用意してくれていて、これまで以上にゆっくり休むことができた。
で、今現在私達のお望みのものが仕上がったということでケリスナさんのお家にお邪魔させて貰っている。
「こちらが完成したものになります」
そう言って見せてくれたものは紺色のローブだった。
見たところはなんの変哲もないローブだが……強いて言えば生地が見るからに高そうなくらいか。
ひとまず4人とも問題がないか着用してみる。
…………おお!!
一瞬にして4人の魔力の気配が消えた!!
自分自身抑えている感覚はなく、吸収されているわけでもない。単に外に漏れるのを抑えているだけだ。
これはなんと便利な……!! これ1つあればどこへでも行き放題ではないか。しかも着心地が抜群すぎる。試しにこの部屋の温度を魔法で変えさせてもらったけど暑くもなく寒くもない。着ているだけで体温調節までしてくれるというなんという優れもの!!
本当にありがたいの他に言葉が出てこないよ。
そして一番問題だった点。
そう、トウカの角とヴィスタの肌!
これは……無事解決かな。
トウカの角はどういう仕組みかわからないけど、フードを被ったときに普通は出てしまう不自然な出っ張りが綺麗に消えている。フードを脱ぐと角が現れるため、やはりこのフードが見えなくしてくれているのだろう。あの青い猫のポケットの中みたいな仕組みなのかな。ちょっと気になる。
次にヴィスタ。ヴィスタのローブは私達のものよりもフードが少し大きい作りになっていて顔の下まで隠れている。
これで前が見えているのだろうかという疑問なのだが、本人曰く問題ないらしい。本人がいいのならそれでいいや。
いやー、素晴らしいね。
これで準備はバッチリだ。というかほぼ全部してもらったっていうほうが正しいかもしれない。
…………ま、結果良ければすべてよし。




