86 お土産の反応速度が尋常じゃない
「私、人間界に行こうと思うの」
「は?」
「へ??」
「どういう??」
神界から戻ってきて数十分後。
戻ってきたときも相変わらず「またか」とでも言うようにびっくりするほど興味がなかった。……まったくなかったって言うわけではない。唯一、私の持っていた袋にだけ見事にみんな反応した。帰り際に神様たちが持たせてくれたお菓子達。なんか……私は悲しいよ……。
とまあ茶番はこのあたりにして。
そうなのです。
実は私、少し前から人間界に行こうかなーとうすうす考えておりまして。皆にいったのは今日が初めてかな? 3人ともいきなり言われたからか目が点になってる。
「いやー、結構こっちの闇堕ちも少なくなってきたでしょうか? 何故かどんどん増えてるからいなくなる気配はないんだけど……。それでも昔よりかは格段に減ってきているはず」
「いや、、それはそうだが急にどうした……?」
一番初めにわれに戻ったトウカが私に尋ねる。
「まあまあ落ち着きたまえ。闇堕ちって今までの話を聞く限り人間界にもいるんでしょ? 天使界はわからないけど……。それで、人間界の闇堕ちした魔族たちの中でも何百年と経っていない者たちもいると思うから治せるヒト達は治しておきたいなーって。天使界ならまだしも人間界なら私達の容姿だったら紛れ込めると思うし」
いやまて、ちょっと訂正。
私達の容姿じゃ溶け込めない。私全然大丈夫。黒髪黒目真っ白な肌に小柄な体。どこからどう見ても人間です何だけど……問題は!!
レーインは百歩譲って大丈夫。どこぞの外国のナイスボディなお姉ちゃんで通用すると思う。
トウカも……髪の色おかしいけど……あ、あの子角あった。あれ隠せられるのかな。……無理そう。
ヴィスタは100%だめ。まず目からだめ。個人的にはすっごく好きよ? ミステリアスな雰囲気があってね。いいんだけど人間には絶対こんな子いないから。コスプレでも難しいレベルだ。
ふーむ。早速行き詰まってしまった。
「治せるものは治すって、人間界にいる者たち全員をか? 人間界だって魔界と同じくらいの領域はあるぞ。時間がかかりすぎないか?」
そう、それが問題なんだけど……実際魔界の闇落ちを目に見えて減らすのに要した時間は約6年正直もっとかもしれない。そんな時間を人間界にかけてられないけれど……やらないよりはマシであろう。それに初めはわけもわからずウィスター達振り回してただけだけど今は違う。絶対にこんな時間はかからない。
しかも私達のこの素晴らしき脚力ときた。
「思いっきり走るのはできないぞ。人間の中でそんなことやってたら変な意味で目立ちすぎる」
「はい」
怒られてしまった。
「バカね、トウカ、ヴィスタ。ミアが闇堕ち治すためだけに人間界に行くわけ無いでしょう? よく考えてみなさい。私達が一緒に旅をし始めた理由を」
「「…………!!!」」
……いやいや。二人はなにか気づいたみたいだけど私はさっぱりわからんよ。レーインも一体何を思ってるの? 本人が一番わからないとか無理ゲーじゃん。……本人以外は分かってるみたいだから無理ゲーではないのか。あれか、製作者がわからないバグを見つけた的な心情か? ……ちょっと何言ってるか分かんなくなっちゃった。
「ミアはね……」
「「「人間界の料理!!」」」
あー、なるほど!! 確かに確かに。
確かにそうよ。人間界の料理も食べてみたいなーって思ったことは決して嘘じゃないけれども。今回は本当に二の次だったの!! たぶん言っても信じてもらえない……。
ていうかそこできちんとハモっちゃうって……。何なの? 私はみんなの中では食いしん坊キャラなの?
「人間界の料理ってどうなの?」
「確か魔界とあまり変わらないんじゃなかったっけ」
「だそうだ。残念だったな、ミア」
おいこらトウカ。勝手に残念とか言うんじゃない。
「そんなこと言う人にはもうお菓子上げませーん。あーあ、今日はいつもよりちょっと高めのチョコレートなのに。一人で食べよーっと」
「ちょっとトウカ!? ミアに失礼なこと言わないでくれる? ミアが一番にそんなこと思ってるはずないじゃない」
「そうだよ、トウカ。勝手に決めるのは良くないことだ」
「おい! なんで俺だけが悪者になってんだよ!! てか最初に言い出したのはレーインだろ? お前、元凶だぞ?」
「……っく!! う、うるさいわね!!」
……何だこの至極どうでもいい争いは……。
こんなこと言いながら結局食べるのがこの子達よ。ま、別にいけど。そんなに怒ってもないしこれでチョコレートあげないほど器は小さくないんで、私。
「でだよ。それはいいとして、俺とヴィスタはどうやって人間界に行くんだ? この格好なら一発でバレるぞ?」
そう、そこなのだ……! トウカ、できればちょっと唇についたチョコレートを取ってから言ってほしかった……! 何故チョコレート唇についただけでそんなにも色気が出るのか是非伝授してほしい。
「それならフードを私達、アラクネ族がお作りいたしましょうか?」
突如話に入ってきたのは、先程までの必死に本を漁っていたケリスナさんだった。




