表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

85/179

85 《小さな違和感》

「久しぶりー、玲央、桜子。元気にしてたか?」


そう言い放ったのは目の前の青年、おそらくアルミナ・アナガリスだ。


この世界に数人と数えるほどしか存在しない大魔導士だけが着ることのできる黒のローブ。薄めの赤茶色の髪は腰の位置くらいまで長いのか、一つの団子にしてからゆるく結ばれている。

そして大魔導士とは思えないほどの人懐っこい笑み。

この笑みはもしかしなくてもだ。



「……美凪で、間違いないんだな」


「せいかーい!! びっくりするくらい全く気づかないじゃん、二人とも。まあ仕方ないかー。こっちの世界では姿も容姿も何一つ同じところはないもんな。()美男美女になってるし……」


このノリの軽さは間違いなく美凪だ。

さっきまで色々考えていた僕が馬鹿みたいじゃないか。


「ちょっと美凪! なんであなたそんな綺麗な髪の毛してるの!? 私だって伸ばしたいのにー! ずるいずるい!」


「いやいや、感動の再開だろ!? 初っ端の会話がこれかよ! 仕方ねえから答えてやる。俺の髪が長いのはな、大魔導士だからだ!!」


いや、理由になってないぞ。なるほど〜ってうなずいてるサクラもサクラで一国の王女としてそれは大丈夫なのか?


そういえば……


「ねえ美凪、美凪って確か大魔導士だったよね。どうして面倒くさがり屋の君が史上最年少で大魔導士になろうなんて思ったの?」


美凪といえばお調子者で有名なバカだ。実際は頭はそれなりにいいから馬鹿じゃないんだけど行動が、ね。

都に続く問題児だ。


「そりゃあ、誰でもこんな魔法のある世界に来れば誰だって頂点目指したくなるでしょ。チートスキルとかお決まりじゃん?」


「確かにそうだが……、本当にそれだけが理由か? 大魔導士だ。並大抵の努力じゃなれないだろう」


ヘラヘラ笑っていた美凪は僕の言葉に少し固まった様子を見せた。が、それもつかの間。


「ははは、やっぱ玲央には勝てねーな。そうだなー。全部は話せねーんだが……。あれは……普通死ぬよな……」


最後の方は声が小さくなって聞きづらかったが、何やら過酷な状況だったことだけは伝わってくる。ふっと遠くを見るような仕草で思い出していた。


「美凪が魔導師になってようが平民になってようが大した問題じゃないのよ。二人とも忘れてない? 都は?」


そう。都だ。

何故こんなにも僕たちは運命のように勇者パーティーを組んでいるのに肝心の都がいないのか。他の人達がどうでもいいっていうわけではない。僕たちは4人で揃ったと言える。

一人でもかけていたら、それは成り立たない。


都はどこにいるんだ? まさかこの世界にいないとかじゃないよな。

都のことだ。平民にでもばけているのかもしれない。


「まさか……死んじゃったりしてないよね……?」


サクラが泣きそうな声色でとんでもないことを放つ。


「そんなわけ無いだろう!? あの都だ。きっとどこかで平民にでもなって元気に暮らしているはずだ!!」


そんなことは決してないと、自分に言い聞かせるようについつい声が大きくなってしまった。


「そうよね……。もし魔族のせいなんかで死んでしまっていたら……。私の仕事を全うするまでよ」


サクラの目が正気じゃない……。仕事を全うするということは……魔族を皆殺しにするということか。

と、ここまで黙っていた美凪がふと声を放った。


「二人は……魔族が嫌いなのか?」


「? 何を当たり前なことを言ってるの? 魔族は私達人間と天使の敵でしょ? 嫌いも何も、私達に被害が出る前にやらなきゃ取り返しのつかないことになるわ」


「そう、か」


美凪は何やら言いたげだが、ここで押し黙ってしまった。

サクラの言うことは間違いではない。ただ僕は少し引っかかるところがあるのだが……気のせいだろうか。

そしてこの話はここで終了した。


「ま、こんな重い話はここらへんでいいだろう。どうせもう少ししたら分かることだ」


「どういうことだ?」


「そういうこと」


はぐらかされてしまった。美凪は何か知っているようだがこれ以上問い詰めても教えてはくれないだろう。昔から美凪はそういうやつだ。


「で、勇者パーティーに入ったって言っても俺たちは何をすればいいんだ?」


「詳しい内容はもう少ししたら決まるけど……今は自分の力を高めていかないといけないかな。たぶん旅に出ると思う」


「なんか漠然としてんな。旅に出る必要はあんのかよ」


国の中にいれば確かに平気だが……一歩外に出ると魔族がうようよしていたり、混沌の魔人などというでたらめな存在もいる。きっとそういうのを制裁していくのが仕事だろう。

そういえば、、昔ラムライト国にサクラと視察に行ったとき、少し気になる集団がいたな。フードで姿は隠れていて分からなかったけど……気配が独特というか……何か引っかかるところがあった。あれは一体何だったのだろう。


「美凪って確か、アルミナだったよね?」


突然のサクラの言葉にはっと現実に戻される。


「お前は昔から話があっちこっちに飛びまくってんだよ……。そうだよ、アルミナ。アルミナ・アナガリス」


「じゃあ私達は美凪のことなんて呼べばいいの? ミナ?」


ああ、そういえばそうだ。俺たちはもう名前が変わっている。


「なんでもいいけど……ミナはやめてほしい。ミナは……なあ」


なんでもいいって言った割にはミナは嫌なのか。アルは少し違う気もするし……。


「じゃあもうミナギでいいわね」


どんっと言われてしまってはサクラには何も言い返せない。




という感じで美凪改めアルミナは無事? 勇者パーティーの一員になったのだ。 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ