82 〈過去2〉アルタ視点
息抜きです。
捕まっている教え子たちの方へ向きかえった。
「あなた達は一体何をしているのかしら? これはどういうこと?」
核を破壊させるとそれに伴い大きな爆発が起こる。私達神とてそれに耐えられるかはあやしい。
自殺願望なの? それならもっと別のところでやってほしかったわ。
「くっ……!! あともう少しだったのに……!」
話す前に倒れそうだったため空間の歪みを解除する。その瞬間天使族の幹部4人は一気に脱力し、1人は気が抜けてか意識を失った。
「今日私達がいないことを知っていたのは各界の長だけなのよ。それにこの歪みに耐えることができていたのは何か仕組みがあるのでしょう? 是非教えてほしいわあ」
言っている口調はいつもと同じだ。しかし覇気が違う。
ヒッと悲鳴を上げて残りのミラージェを残す2人は失神してしまった。
「おお、この覇気に耐えるとはあいつもなかなかやるな」
もう核への心配はなくなったからかエレボスが呑気にヒューと口笛を吹く。本当に脳天気なものね。横のアイテールも何も言わずに明後日の方向を見ている。
と、キッとこちらを強く睨んでミラージェがやっと口を開いた。その目は血走って今にも暴走しそうだった。
「もう少しだったのだ……!! もう少しでこの力は私のものだったのいうのに!!」
「どういうことかしら?」
「核を壊せば世界は滅ぶ。その代わり私には世界の行き場のなくなったエネルギーすべてが手に入るのだ!! その力は神であるあなた達の比ではない。それが……邪魔されてしまった! あなたが度々仰っていた歪みへの耐性を死にものぐるいで身につけ、見つからぬように何百年もかけて核の居場所を特定したのに。わかりますか、師匠? あなたが神界へ上ったあの日から、数百年かけて作り上げた計画はすべて台無しだ!!」
つばを吐き散らしながら私達に向かって叫んだにも関わらずまだ溜まっているのだろうか。叫び終わってもずっと何かブツブツつぶやいている。
どうしてこんなことになってしまったのか。
ついさっきまで師匠、師匠と慕ってくれていたのはすべて嘘だったのか。
私の育て方が間違いだったのか。
疑問は消化しきれぬままである。が、核を破壊しようとしていた以上、このまま放置するわけにもいかない。
「ミラージェ……。こうなってしまった以上私はあなたを放置するわけにはいかないわ。きちんとそれに見合った罰を下さなければいけない」
うしろの二人の様子からしても私が罰を下しても構わないだろう。もう興味をなくしたようで違うことをし始めた。本当に自由なヒト達だわ。
「あなたは……魂ごとの消滅。あなた達に加担した3人も同じ罰を受けてもらうわ。これからもし魂が知らぬ間に輪廻転生を果たし、あなた達のようなヒト達が生まれてくることのないように。そして……今日をもって神界と下界を一切遮断します」
ピクッとエレボスとアイテールが反応する。
「アルタ、それは神界と下界の行き来を出来なくする、ということで間違いないか?」
「ええ」
ふむとエレボスは少し考える様子を見せ、数分も立たないうちに顔を上げた。
「まあ、いいんじゃねえか? 今後こういうことがおこらないとは保証できないしな。それに俺達が困ることは一つもねえし」
「そうだな。私は賛成だ」
あまりにも軽いがいつも大事なことを決めるときもこのような感じだ。真面目に決めろというのが無理な話。今回はまだマシな方だろう。
「では、そのように」
そう一言呟いて先ずはミラージェ達の魂を消滅させる。最後に何か呟いていた気もするが……聞き取ることはできなかった。
すうっと意思はなくても抵抗し続ける魂達を一つに集めて握る。
これでこの魂たちは天へ帰ることも、再びこの世に生を送ることなどないだろう。
さて次は……神界と下界の遮断。
簡単なことだ。逆に今まで繋いでいた事自体が奇跡だったのだ。一つ、魔界にある図書館の中の魔法陣を除くすべての魔法陣を機能不可能にする。これで魔法陣は光を放たなくなり、機能を失うだろう。
図書館には……簡単に入ることができないように私の愛剣とエレボスの剣を両方差し込まないと開かないことにしよう。私達の剣を持つものなんてそう簡単には現れないわよね。
「おい、かってに俺の剣を使うなよ」
「あら、別に使ってなんかいないわ。扉を開く鍵にしただけ」
「しかも何で魔界なんだよ」
「単純よ。天界から一番遠いからね。あの子達がいなくなってもまだあの子達の息がかかっている子がいるかもしれないじゃない? 念の為よ。それにエレボスもアイテールもまったく話に参加しなかったじゃないの。自業自得よ」
はあぁぁと盛大にため息をつき、諦めたとでも言うようにエレボスは大人しくなった。
さて、神界に被害が出ていないか確認しないと。もう私達3人以外に生命反応はないけれど念には念を入れておく必要があるものね。
あの子達のことは…………いいえ、もう考えるのはやめましょう。考えても考えても答えは同じところにしかたどり着かないわ。
この日、下界は神界への道が閉ざされたことで大きな絶望で満たされていたことを本人たちは何一つ知らないのであった。




