81 〈過去1〉アルタ視点
元気です。
────数千年前────
まだ神界と外界はつながっており、神は自由に、天使族、人間族、魔族は許可があればお互いの地へと行き来出来ていた。
その日は久しぶりに神達が外界へ訪問していた。
天使族元熾天使、アルタは天使界へ。人間族元皇王、アイテールは人間界へ。魔族元魔王、エレボスは魔界へ。それぞれ別々に出向いていた。理由は視察だったろうか。詳しいことは誰も覚えていない。
まだまだ世界はできたばかりで不安定だった。
だからあんな事件が起こったのだろう。
◇◇◇
「久しぶりだわあ。天使界の空気なんて百年ぶりくらいかしらあ」
アルタは気持ちよく庭を散歩していた。
神に上がる前までは自分の家であった庭園だ。今もまだその姿は変わらず残り続けている。
先程は自分も久しぶりの実家でうかれていることもあり、ついつい飲みすぎてしまった。
私が抜けたあとも天使界はうまくやって行けているだろうか。
私とともに過ごしてきた仲間はもういないけれど幹部はまわっているのだろうか。
飢えているものはいないだろうか。
そんな心配は全て杞憂に終わっていた。
「アイテールからも、エレボスからも連絡は来ないし、彼らもきっと楽しんでいるのよねえ。明日からは普段の生活に戻るからせめて今日だけはゆっくり羽を伸ばしたいわあ」
あと数時間で日も変わる。
そろそろ帰ろうかと思っていたときに、それは起きてしまった。
「…………っ!?!?」
突然目の前が暗くなる。数回瞬きをするともとに戻る程度ではあったがおかしい。
なぜならば私達は神である。体の不調はもちろん、普通の痛み等も感じないように出来ている。だがそれが起きてしまった。
理由は一つしかない。
"核に異常が発生した"
大変だわ……!!
"核"が壊れると世界が壊れる。
それにまだこの世界は完成していない。まだ不安定な部分のほうが多いため、少しの破壊でも致命傷になるだろう。
どうして、何故そんなことが起きるの……!?
しかも私を含め誰も神界に神がいない今日に限って!!
まって。もしかして神界に神がいない今日をわざと狙ってきた……? でも私達が外界に降りることは一部のものしか知らないはずよ……。
私達が降りると知っていたもの。それは……各界の長とその幹部達。
誰が犯人なのか。特定したいのは山々だが今はそれどころではない。それに本当に可能性は低いけれど、何者かの仕業ではなく核自体に何かおきたのかもしれない。でもそれはそれで問題ね……。ひとまず帰らないと。これ以上壊れてしまうと修復が不可能になってしまう。犯人が誰かはすぐに分かること。ひとまず神界へ転移をする。
『アルタ!! どこにいる!! 一体何が起きいるんだ!?』
『私達も今向かっている!! アルタが一番はやいだろう。できるだけ急いでくれ!!』
「急いでいるわ! これは異常事態よ。あなた達も速く来てくれないと!!」
転移しいている僅かな時間に二人からのメッセージを受け取った。二人もこちらへ向かっているそうだ。
あちらも転移を使っているからあまり時間はかからないだろう。が、私が一番早いのも事実。できるだけ急ごうと、よりアルタはスピードを上げた。
いつもは真っ白のはずの空間が歪んでいる。この歪み方は……核に異常が現れたからではない。侵入者である。これで何者かの仕業であるということがはっきりしてしまったわ。
神界は私達神の三人、誰かの許可がないと入ることは出来ない。それが各界の長であってもだ。
侵入者は神界が異物だと判断し、空間を捻じ曲げて追い出そうとする。だから安心していたといのもあるけれど……。
速く向かおうとしているとエレボス、アイテールも転移してきた。二人とも格好を見る限り私と同じようにくつろいでいたようだ。ラフな格好をしている。
「一体何が起きている!?」
「空間が歪んでいる。誰かが入ったみたいだな」
「普通の者はこの歪みに耐えられないはずなのにねえ。私達と同等の力を持っているか、それともこの歪みを知っていて対策をしてきているのかもしれないわ」
「私達と同じ力だと私達が気づかないはずがない。おそらくは後者だろう」
「それに俺達が留守の時をついてきたというのも気になる。ひとまず、核のところへ急ごう!」
核の方へ近づくに連れて歪みが大きくなっていく。下界のものではこれは相当きついだろう。
───そして……純白の翼が目に入った。
「ミラージェ……」
歪みに耐えようとして酷く汗をかいている。先程まで笑顔で一緒に酒を楽しんでいた天使は私の教え子、ミラージェだった。
目の前の光景が受けいることができずすぐに止めにいかなければ行けないのに体が動かない。そんな私に変わってからアイテールがいつの間にかミラージェとその仲間、天使界の幹部達を捕まえていた。
歪みのせいで体力を消耗していたのか多少抵抗はしていたものの激しい動きはなく、縄で縛られるのもあっという間であった。
やっと足を動かすことができ、核を取りにいく。
見たところ大きな外傷はない。傷つけられそうになっただけか。核は多少の攻撃ではびくともしない、が、今回はあと少し遅れると危なかったようだ。
そして、捕まっている教え子たちの方へ向きかえった。




