72 エルフの村4
ドタドタと勢いよく戻ってきたヴィスタ父の手には手帳が握られていた。
ルーズリーフということは……ほぼ確定であろう。
「おまたせいたしました……!! これが書なのですが……」
おお、これは……英語だ。たぶん。アルファベットで書かれてあるからおそらくそのあたりの言葉だろう。
ええっ……! どうしよう……。解読できるかもしれないとか大口叩いてたのに私、英語なんてこれっきし駄目なのよ。いつも赤点回避のぎりぎりのライン攻めてたのに……。こんなところで後悔するとは……。やっぱり勉強はちゃんと真面目にやってたほうがいいね。今更だけど。
解読できないと素直に謝ろうとしたときに、私に希望の光が差し込んだ。
「あの、ごめんなさ……」
「ここのページなのですが」
急ぎ気味に返された返事によって私の言葉はかき消される。そして開かれたページには乱雑に書かれた見慣れた言葉が並んでいた。
「日本語だ……」
そう。その一枚だけぎっしりと日本語で埋め尽くされている。正確には絵とかグラフとかもあるからいかにも設計図ですみたいなのだけど。
私はこっちの世界の言葉に分からないものはない。はじめは意味不明だったような気もするがそれもおそらく数分の出来事。
なんで言葉が理解できるんだっけ? ……神様が言ってたような気もするけど……忘れちゃった。テヘッ。
…………はい。でも理解はできるけど明らかに文章とか見たらよくわからない文字ばかりだ。まあだから喋れるけど文字はかけないのよねー。
「ニホンゴ……とはなんですか?」
私の思わず出てしまった言葉にヴィスタ父が食いつく。
ヴィスタ父は地獄耳なのか? さっきから私の小さな、本当に聞こえるか聞こえないかくらいの小さな声を当たり前ですけどなにか? みたいに拾い取るの軽く恐怖よ。
「はい。ここに書かれている言葉のことです」
「どうしてそんなことを知っているのですか?」
……うん。まあそうなるよ。
別に隠したいわけじゃないけど信じるか信じないかって言われたら普通はこんな非常識なこと信じられないよね。
いやでも、私が一応使徒(それっぽいことは何もできてないけど)ってことは知ってるのかな。みんながみんな知ってるわけじゃないか。逆にこんな一般人まで知られてたら私、前世で言う国民的スターよ。
念の為もふまえ、曖昧に誤魔化すことにする。
「魔王城の書庫の奥の方で偶然目にしたことがありまして……。少し興味があったので覚えてみようかなと思ったのです。まさかこんなところで役に立つとは」
苦しい言い訳だが魔王城の書庫はそう簡単には入れないためこれで行けるだろう。
私が魔王城出身っていうことを言っていいのかって? そもそも忘れがちかもしれないが私の足にはそれはそれは面倒くさ……立派な紋様があるのだ。これ見たら一発で魔王城出身ってわかるらしいよ。
とりあえず笑っとけと、ニコッとしてヴィスタ父の方を見ると、なにか考えるような仕草をして、一人で納得していた。結果オーライということにしておきましょう! これ以上喋ったら何がとは言わないけど絶対にボロが出る。
「では少し教えてほしいのですが……」
とまあこういうふうにして解読タイムが始まった。
トウカ達はここにいても暇らしいのでヴィスタの案内のもとこの村を見学しに行くらしい。いいなー、私も行きたいなー。久しぶりすぎる、もう二度とお目にかかれないと思っていた日本の風景。
グダグダ言ってても何にもできないのでやりますけど!
にしてもどうしてこの人はこの一枚だけ日本語にしたんだ?
カリカリと書かれている日本語をこちらの世界の言葉にしていく。かけないので口頭でね。
喋りながらもこんな小さな疑問がふつふつと湧いてくる。
書をはじめ見たときは向こうの英国の人なのかなーって思ったけど、わざわざこの一枚を日本語で書く必要はないわけじゃん。英語は全国各地で使えるのと違って日本語は需要日本しかないんだから。
日本語であるっていうことは日本の人か……もしくは仕事や親の都合で日本に来た系? 何百年も昔の人のところ行って何人ですか?? って聞けるわけでもなし。
ルーズリーフの中に潰れて少し見えにくい文字が出たため、よく見るために手帳をそれごと持ち上げた。
すると一番うしろのページから一枚の紙がひらひらと私の足元に着地した。
なんだろう、と拾い上げようとするとそこにもびっしりと書かれた日本語があった。
「これは……」
「それも読むことが出来ないのです。ミアさんに教えてもらった解読方法を覚え、それを使って頑張ってみようと思います」
「うん、頑張れ……何ですけど……。これも少し見せてもらえることってできますか?」
「どうそ」
と普通に渡され、以外に呆気なかったためか少し拍子抜けしてしまった。
誤字報告本当にありがとうございます(_ _)




