70 エルフの村2
「あーー、わからん!! さっぱりだ。言葉がわからん。これはどういう意味なんだ? 書の他のページはわかるのに……」
そうぶつぶつ言って入ってきたのは三十代半ばあたりの男だった。
ボサボサの頭に無精ひげ、理科の先生がよくつけていそうな瓶底眼鏡をつけている(偏見入りまくり)。が、ボサボサの髪の間から見える少し尖った耳や厚底眼鏡下の目はエルフ族特有の大きな目をしていることから、このヒトはエルフだと分かる。そしてそのまま私達に気づいていないのか、ヴィスタがおそらくトウカに入れて上げていたお茶を一気に飲みソファーに倒れ込んだ。
ええ……っと……、これは……どうすればいいんだ?
皆いきなり過ぎて頭が追いついていないのか呆然と立ち尽くしている。
最初に我に返ったのはヴィスタだった。
「父さん!! いきなり帰ってきて倒れ込んだら僕はまだしも他のヒトがびっくりするでしょ!! このまま寝るのなら自分の部屋に行って!」
と、父さん……!!
な、るほど? まあ、ヴィスタの父親だったらこの家に勝手に入ってきてもおかしくないのか……。てか私達が勝手にお邪魔している事自体が少しおかしいのでは!? 今更だけど……。
だってノリが前世と全く一緒だったからさ、ついつい嬉しくて調子乗っちゃったところもあるけど……。
ヴィスタの声に反応したのか、ヴィスタ父がムクリと体を起こしている。そして私とバッチリ視線がかち合ってしまった。3秒ほど固まっていきなりヴィスタ父が慌てだした。
「え!? どういうことだ!? 何故ここにミア様が??? いや、その前に僕は何をしていた? は? トウカ様やレーイン様もいるじゃないか。え、え、ヴィスタ?」
明らかに頭の中のハテナマークが溢れ出て来ている状態だけど。
こちらまでつられてオロオロしていると、ヴィスタ父はヴィスタの愛のムチによってすっと背が伸びていった。
「父さん! もういい加減しっかりして。ほら、僕はヴィスタだよ。分かる? 前に旅に出てくるって言ったでしょ。少し用事があるから一旦うちによったんだ」
「ああ……、確かにそんなことも言っていたような……? でもミア様たちがいる事とこれは話が違うぞ?」
おお、見事に会話が成立していない。
この様子だとヴィスタはこの旅のことをきちんと話してなかったのか? 心配……は若干してなさそうにも見えるけど。ヴィスタ父も大概自由だけどヴィスタもヴィスタだな。
「父さん……。ミア達三人と行くって言ったじゃん……。……ああ、その時父さん徹夜明けで倒れてたっけ」
「そうだったな。いやー、あのときはびっくりしたよ。目が覚めたらヴィスタがどこにもいない! ってなってな。そういえばなにか言っていたような気もするしヴィスタのことだからまた帰ってくるだろうと思って放って、、そっとしておいたんだ」
今明らかに放っておいたって言おうとしてたな。普通は意識がはっきりしてきて途端に自分の子がいないってなったらテンパると思うけど、、。
ヴィスタ父強し。
してどうするよ。この感動? の再会を割り込んで邪魔するわけにもいかないし、かといってここに突っ立っていても邪魔なだけだよね。トウカとレーインは目に見えるものすべてが珍しいのかヒトの家にも関わらずあちこち見て回っている。
私の周りは自由人ばかりなのか? いや、もしかして周りが全員こうなのはこれが普通だからなのだろうか。だとしたら私、乗り遅れているかも……。
「とりあえず父さん。どうせアイデアが出てないってことは3日くらいお風呂入ってないんでしょう。髪とかいつ切ったの? どうしたらこんなに長くなるのさ。一旦髪はいいからそのひげを剃ってお風呂に入ってきて! 僕の友達だけど仮にも族長の子息たちばかりだからね。失礼なことはできないでしょう」
そう言われ、はじめは面倒くさいといいそのままソファーで寝る勢いだったが渋々お風呂場の方へと向かっていった。
「洗濯物はカゴの中に入れておいて。特別汚いものは後で洗濯するから」
違う違う、ここじゃない。最近のヴィスタ母化について。もう言ってることがお母さん。懐かしいわー。こっちの世界だとゲルさんはいるし、メイドズたちもいるんだけどこう……上からいえる? 子供を思って言えるが正解かな。母的存在はいなかったから。
よく前世のお母さん達も喧嘩してたなあ。
お父さんが前の日に出せって言われてたゴミを、そのまま玄関に置きっぱなしにしちゃったこととか、後は……ご飯作らなくて怒られてた。仕事が休みなんだったら少しは片付けくらい手伝いなさいよ!! みたいな。
前々からヴィスタの女子力はえげつないくらい高かったし、余裕で私負けてるもん。
……ちょっと私が勝手にダメージ受けるからこの話はやめよう。悲しくなってくる。
そしてそのままヴィスタは仕方ないと言いながら洗濯をしに行き、私一人この部屋に取り残された。洗濯は……洗濯機があるのかな? もう何でもありね。
てかトウカ達はどこに行ったの? 人様のお家勝手にお邪魔してまさか他の部屋まで見に行ってないよね? ……私しーらない。
することもないのでとりあえずソファーに座らせてもらい、皆を待つことにした。
どこからか現れたトウカ達や洗濯を干し終わったヴィスタが帰ってくるまでの2時間、ちょっとつけてみようと思ったテレビではまさかのN○Kらしき番組が流れてて腰を抜かしそうになったのは言うまでもない。




