69 エルフの村1
固くつぶっていた目を開けると、そこには信じられない光景が広がっていた。
「皆無事? この魔法陣は高い魔力量を持つヒト達により過激に効くようになってるから。特にミアとかは気持ち悪いかも」
そんな気遣うヴィスタの声すらも私の耳を通り抜けていく。
これは驚かずにはいられようか。
私が柔らかい光だと感じたものは、│電灯の光だった。
その他にも目に映るものだけで綺麗に舗装された道路、マンション、ビル……。
街をゆきかうヒト達は私の見慣れた服装で歩いていた。
「こ、こは……」
呆気にとられて言葉が出てこない。この街並みは、この風景は、前世の日本とそっくりだった。
「ヴィスタ!! これ、この村……どうなってるんだ!? 何故地面がこんなにしっかりとしている? 何故あんなに建物が高い?」
「それにこの光は何なのかしら? 魔法……ではないみたいね。魔力が少しも感じられないわ」
「これはライヤーと言って自然の原理を少し改造して発明したものらしいよ。魔力は使っていないよ。スイッチひとつで光をつけたり消したりできるんだ。高い建物はビラックって言ってね、あそこの中で仕事をしたりヒトが住んでたりするんだよ」
名前が少し違うけれどもほかは全く一緒だ。まさかこの風景をもう一度見ることになるなんて……。本当にいつもの日本の風景にいる人をエルフにしたような、そのまんまである。
私達以外にも誰か転生したりしたのかな。たまたまエルフ族のところに落ちて、もしくは生まれかわって前世の知識をそのまま引っ張り出してきたとか。それはそれですごいけれど、転生、ラノベ小説ではよくある展開だ。
「ミアは……あまり驚かないんだね」
何を言う、ヴィスタ!? 驚いてないように見えるかもしれないけどこれは逆。驚きすぎて声が出ないだけ。
まあはじめてみたものではないし、何なら前世では毎日見てきた風景だからトウカ達みたいにビルってなに? コンクトって何? ってなるわけではないけれど……。
「進んでる……ね」
もっと他に言うこともあっただろうが今はこれが精一杯だ。魔王城や鬼ヶ里に比べると随分と発達している。エルフはこちらの世界ではあまり聞かないけれど理由はこういうことだったのか。
「僕たちは一応上位種族だけれど他の種族に比べて力がとても弱いからね。その変わりにエルフ族は頭を使ってきたんだ。場所も攻められにくいように地下にあるしね。ここなら攻撃を仕掛けてきても瞬時に対応できるから」
「エルフ族があまり表へ出てこない理由もそれか?」
「いや……」
ヴィスタが口ごもる。
エルフ族が頭を使ってきたということは前世の記憶持ちが貢献したわけではないのかな。
「……とりあえず僕のうちに来る? 立ったままだと何だし。今はちょうど両親もいないと思うから」
そう言われ少し歩き、ついたのは周りよりもひときわ高いビルだった。あ、ここではビラックというのか。
そしてなんとエレベーターまであるらしい。形は少し異世界チックなところがあるけれど乗ってみた感じ見た目以外はほぼ一緒。造りは私が聞いても多分わからないけどおそらくほとんど同じだろう。
そしてついた先は最上階。
…………って、お前もか!!
ヴィスタもお坊ちゃまだった件について……。金持ち……ねえ。確かにこんなたっかそうなビラックにつれてこられたから薄々は感じてたのよ。これだけ権力者的な家に住んでいるのならもしかするとヴィスタはエルフ族の族長に会える術を知っているのかもしれない。だからあんなに余裕こいてたのか。
お父さんがこう……作る系の仕事してるのかな。私の勝手なイメージ、構造考えるヒトって収入が多くてお金持ちな感じがする。偏見だから詳しくはわからないけど……。
「入って。今帰ってきたばかりだからなにもないけどお茶くらいはあると思うから」
わあ!! あれだ、あれ!!
前世のお友達の家にお邪魔するときの会話とほとんど一緒だ!! 懐かしい。
通された大きな部屋も真ん中に大きな黒いソファー、ガラスのローテーブル、村(?)全体が見下ろせる大きすぎる窓など、前世では見慣れたものばかりだからもあり、余計にそう感じるのかもしれない。
私は多分お茶を取ってくれにキッチンへ行ったヴィスタに進められたため、ソファーに腰掛ける。
「ねえ、ミア。ここはヴィスタの……エルフ族の家なのよね。これはどうなってるのかしら? この光……ライヤーだったかしら。何故さっきは消えていたのに何もしないでついたの?」
私と同じように座ったトウカとレーインは先程から興味しんしんの様子でヴィスタの家を見ている。たしかにね。こんな文明が違うかったらびっくりするわ。
「私もわからないけど……自動でつくようになってるんじゃないかな」
私の答えにも首をかしげているレーイン。
詳しく説明しようとしたところでヴィスタが四人分のグラスをお盆の上に乗せて戻ってきた。と、同時にドアの方からドタドタと物凄く大きな音を立ててこちらに向かってくる足音が聞こえる。
ヴィスタの顔色がどんどん白くなっていき、何事!? と思うまもなくにリビングの扉が大きく開かれた。




