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61 《バリス先生》

◇◇◇


〜3年前〜


ガキッ、と剣と剣が重なり合い鈍い音を放つ。今だ! と思い一気に重心をかけ直すと、それを上手く使われ一撃入れられてしまった。


「はい、今日も負け」


「っはあっ……、はあっ。……ありがとうございまし、た」


先日バリス先生に入れることができた一撃は一体どうやったのだろうか、と毎日自分に問いて見るけれど一向にわかる気配がしない。

教えていただき始めた頃よりは幾分も体が動くようになり、剣の型もそれなりには身について来たのだけれどそれでもバリス先生の強さにはかなわない。

勇者でありながら実力はこんなものかと言われ、傷つきはしたが事実そうなので何も言い返すことができない。今は少しでも勇者という名に恥じぬようになってきているのか。


「今日はここまでにしよう」


「あと! あともう一試合だけお願いします!!」


せめてこの限られている時間に教えを仰がないと。まだまだ実力が足りていないのは充分にわかっているから余計にそう思うのかもしれない。


「もうだめだ。これ以上は」


断りの返事にがくりとくる。

仕方ない。バリス先生も忙しい身だ。家に帰らなければいけない時間まであと一時間程度か。今日習ったことを復習しておこう。




「……はあ。て言いながらもどうせレオンは素振りでも始めるんだろう。そうだな……もう、いいか。レオン、ちょっとこっちに座れ」


いつもと違うバリス先生の雰囲気に少し戸惑いながらも促された席へと座る。


「まずはお前に謝ろう。今まであんな態度で悪かった。嫌な思いも、沢山しただろう」


突然の謝罪に思わず椅子を立ってしまった。いったい急にどうしたのだろう……。

改めて座り直し、バリス先生の話の続きを聞く。


「まあ今までの態度は……一種の試験だな。このままお前が途中で逃げ出したり弱音を吐いた時点でやめてやろうと思っていたがまさか弱音一つはかないとは予想外だった。そもそも私はあの事件以降騎士を辞めるはずだったんだ」


「えっ!?」


意外だった。てっきりバリス先生は騎士という事を誇りに思っていると思っていたが……。いや、思っているのだろう。おそらくバリス先生のいう事件が原因なのか。


「本当はレオンの、勇者の教育係なんて務まるはずがないと思っていた。ただあの事件で国の誇る騎士たちが多く死んでしまったのも事実。そしてあの戦いに参戦してまだ比較的まともな精神状態だったのが私だけだった。私が断ってしまったらあの……あの戦いを勇者に伝えるものはいなくなってしまう。そう思い私はこの話を引き受けたんだ」


ふうとバリス先生は一息つき、持参していたお茶を一口口に含む。


「そして今、この話をレオンにしても大丈夫だと私は判断した。レオン、これから言うことを……よく覚えておいてほしい」


遠くを見つめ、何か思い出すような仕草をしている。バリス先生の顔色は段々と悪くなり、唇も震え始めた。


「だ、大丈夫ですか!?」


「ああ、、大丈夫だ。やはり思い出すと気持ちのいいものではないな」


一旦深く深呼吸し、一つの問を僕に投げかける。


「あの事件、レオンにはどう伝わっている?」


「えーと……、人間軍と天使軍の連合軍で魔族の侵入を阻止するために向かったところ殆どのものが戦死。生き残りも数少ないと聞きました」


「何故私達は敵わなかったかは聞いた?」


「それは……混沌魔人を中心とする多くの魔族がいて、その強さが予想以上だったと」


「うん、そうだな。国民たちにはそう伝えている。だがしかし現実は違う」


「現実?」


「まずレオンの話で、何故侵入の阻止が叶わなかったのかという問い、正解だった点は混沌の魔人だけだ。実際は多くの魔族なんていなかった。いたのは混沌の魔人、ただ一人だ」


は……?

一人だと……? けれど殆ど全滅状態に陥っていたのは事実じゃないか。どういうことかわからない。

バリス先生はその時の様子を思い出しているようで、額には脂汗が滲んでいる。


「一人の、可憐な少女だった。闇をそのまま映し出しているかのような腰の位置まである漆黒の髪、真っ黒の瞳。私達を丘から見下ろしている姿にはじめは皆、理解出来なかったんだ。だから行動が遅れた。いや、もし仮にすぐ戦闘状態に入っていたとしても勝てなかっただろう」


もう一度、バリス先生は口の中を潤すために茶を一口飲む。


「あの少女は本当に魔人だったのか。それすらも未だにはっきりとはしていない。なんせ私達の魔人という認識から大きくかけ離れた姿だったからな。瞳の色も、光魔法(・・・)も」


「光魔法!?」


魔人が光魔法を使うことが出来るのか!?

光魔法といえば天使族だ。魔族は闇魔法は使えど光魔法など使えるはずがない。なにせ2つの魔力は強大なため相反するからだ。


「その少女は……天使族ではなかったのですか?」


「ああ。彼女は闇魔法も同時に使っていたからな。自分と同じサイズの大剣を両手で自分の体のように操る姿、私達すべてを飲み込んでしまうほどの魔力の強さに私達は絶望したんだよ。私は私の親友がその少女に殺されるのを目の前で見た。あれからの記憶は断片的にしか覚えていない。気づけば私以外の騎士、天使は立ち上がるものはいなくなっていたんだ」


バリス先生は絶望に似た笑いをこぼす。


「確か当時のレオンと同じくらいの年頃に見えた。魔族であるため、その姿が本当の姿であるかはわからないが、今もまだ生きていることだけはわかる。そんなやつともお前は戦わなければいけない」


おそらく今の僕の実力ではその少女の足元にも及んでないのだろう。だがしかしその少女と対戦する日はいつか必ずやってくる。だって僕は勇者だから。


だけど一つ引っかかるところがあるんだよな。


"当時の僕と同じくらいの年頃に見えた"


───この引っ掛かりは今まで解けることはなかった。

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